東電の主張「原告の被曝と甲状腺がんに因果関係は認められない」の論拠「100mSv(ミリシーベルト)論」を国際的最新研究が否定!~3.6 「311子ども甲状腺がん」第9回口頭弁論後の記者会見 2024.3.6

記事公開日:2024.3.7取材地: テキスト動画
このエントリーをはてなブックマークに追加

(取材・文、木原匡康・IWJ編集部、文責・岩上安身)

 2011年の東京電力福島第一原発事故に伴う放射性物質の被曝により、甲状腺がんとなった若者7人が、東京電力を訴えた「311子ども甲状腺がん裁判」の第9回口頭弁論が、2024年3月6日に行われた。

 IWJは、原告側弁護団による、前日3月5日の記者勉強会と、3月6日の口頭弁論後の記者会見を取材した。

 今回の口頭弁論では、原告らの甲状腺がんに対して、被曝の影響を否定し続けてきた東京電力の主張を覆す、きわめて重大な見識が明らかにされた。

 今回の口頭弁論で原告側は、「第19準備書面」(以下「19」)と「第20準備書面」(以下「20」)」等を提出した(※IWJ注)。

※IWJ注:
 「準備書面」は、民事裁判で、原告または被告が、口頭弁論などの主張を記載した書面。裁判期日の1週間前が提出期限。
 日本の民事裁判では、準備書面を互いに提出することで主張を出し合い、口頭で主張を言いあうようなことはまずないとされる。
 口頭で行われるのは、証人尋問や当事者尋問など。

 準備書面「19」の内容は、住民の被曝量等に関する、東電の反論に対する、再反論の前回未終了部分や、福島県県民健康調査の最新情報にもとづく、東電への反論である。

 一方、今回非常に大きな意味を持つのが、準備書面「20」である。東電が「原告の被曝と甲状腺がんに因果関係は認められない」と主張する論拠である「100mSv(ミリシーベルト)論」を覆す内容だからである。

 「100mSv論」とは、東電が、「広島・長崎の原爆被爆者の疫学調査の結果」から、「100mSv以下の被ばく線量では、放射線による発がんリスクの増加は確認されていない」とした上で、「国際的に合意された科学的知見」によれば、「本件事故による放射線被ばくによって、原告らの甲状腺がんが招来されたという因果関係は認められない」と、繰り返し主張している論を指す。

 東電が言う「国際的に合意された科学的知見」が指すのは、ICRP(国際放射線防護委員会)の2007年勧告の記述「がんリスクの推定に用いる疫学的方法は、およそ100mSvまでの線量範囲でのがんのリスクを直接明らかにする力を持たない」である。

 しかし、この記述が意味するのは、2007年勧告が参照した、当時のLSS研究(Life Span Study 寿命調査:広島・長崎の原爆被爆者の疫学調査)のデータ量では、「検出力が不足していた」ということに過ぎない、と原告側は指摘する。

 これに対して、「新たなデータの蓄積により、100mSv以下の低線量被爆の領域におけるデータにもとづいて、統計的有意差のあるリスク上昇を直接報告した研究報告」として、以下が紹介された。

 ひとつめは、JNCI(米国国立がん研究所(NCI)機関紙)が、2020年7月に掲載した、「低線量被ばくとがんリスクの疫学的研究」というテーマによる、ハウプトマン(Hauptmann)らの論文。

 ここでは、2006年から17年の26件の適格性のある疫学研究をレビューした結果、「これらの新しい疫学研究は低線量電離放射線によるがんの過剰リスクがあることを直接支持している」と結論づけられた。

 ふたつめは、2017年のグラント(Grant)らの「原爆被爆者の寿命調査における固形がん罹患:1958-2009」の研究。

 これは、前出の広島・長崎の原爆被爆者の疫学調査であるLSS研究(Life Span Study 寿命調査)にもとづく研究だが、調査期間が延び、新たながん発症例や死亡例が増加することで、統計的検出力が向上し、100mSv以下の低線量被ばくによる統計的に有意な健康影響(固形がん罹患)が確認されているという。

 三つ目は、「INWORKS研究(国際原子力労働者研究)」(the International Nuclear Workers Study)。これは、フランス、英国、米国の、13の核施設及び原子力機関に登録された原子力作業員が対象で、対象者は30万人を超え、追跡期間も最長70年余りという、世界最大規模の研究である。

 その中の、2023年のリチャードソン(Richardson)らの「仏、英、米の労働者における電離放射線への低線量被ばく後のがん死亡率」の研究報告でも、「100mSv以下の低線量被ばくによる統計的に有意な健康影響(固形がんによる死亡)が確認されている」という。

 こうした最新の研究結果から、「原告らの(がんと被曝の)因果関係を否定する被告の主張には、もはや、科学的正当性がまったく存しないといわざるを得ない」と、弁護団はいう。

 その他にも、東電は、「長期間にわたって徐々に積算100mSvを被ばくした場合は、短時間で被ばくした場合よりも健康影響は小さい」という「線量率効果」も主張している。

 しかし、これに関しても、前出の「INWORKS研究」の、固形がん過剰相対死亡率と被ばく線量の相関を示すグラフによれば、逆に「200mGy(ミリグレイ、人体への放射線の影響を評価する値で、グレイとシーベルトはほぼ同一)あたりまでの低線量域における、線量反応関係の勾配(傾き)は、全線量域の傾きよりも急である」ため、東電の主張と相反する結果となっている。

 原告側は、以上のような研究結果から、「被告の100msv論は、本件における事実的因果関係を否定する論拠となりえない」と、準備書面「20」で結論づけた。

 詳しくは、全編動画を御覧いただきたい。

■全編動画

  • 日時 2024年3月6日(水)15:30~16:00
  • 場所 司法記者クラブ(東京都千代田区)
  • 主催 311子ども甲状腺がん裁判事務局

IWJの取材活動は、皆さまのご支援により直接支えられています。ぜひ会員にご登録ください。

新規会員登録 カンパでご支援

関連記事

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です