衆院解散! 岩上安身が岸田総理に質問送付! 矢野財務事務次官の、与野党の「バラマキ合戦」批判に、高市自民党政調会長が反論する一方、鈴木財務相は擁護し、政権内で見解分裂!! 総理が見解示さなければ、有権者は投票を判断できない! 改憲案の緊急事態対応案にも言及! 2021.10.21

記事公開日:2021.10.21 テキスト
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(文・IWJ編集部 文責・岩上安身)

 岸田文雄総理は2021年10月14日、衆議院を解散し、10月31日の衆院選投開票を発表。同日夜7時に記者会見を行った。この日は、いつものように一問一答ではなく、最初の幹事社の記者から「3つ質問があります」等と複数の質問を投げかけても司会進行もさまたげず、岸田総理も嫌な顔は見せずに質問に回答していった。

 岩上安身は会見に参加し、手を上げ続けたが、指名されず、質問2問を官邸に送った。

 第1の質問は、矢野康治財務事務次官が、与野党の大規模財政出動政策を「バラマキ合戦」であると『文藝春秋』誌上の論文で批判した件に関してである。

 矢野論文に、高市早苗自民党政調会長が「国会議員に対して失礼だ」と強く反論したが、他方で鈴木俊一財務相は「政府の基本方針に反しない」と矢野氏を擁護。経済同友会の桜田謙悟代表幹事も矢野氏を擁護している。

 自民党が与党の政権内で、与党の政調会長と政府の財務相の見解が真っ二つに分裂する、「異常」な事態である。しかし岸田総理はどちらを支持するのか、明確に見解を示していない。総理が方針を示さなければ、有権者は自民党への投票を判断できないので、明確に総理の見解を示していただきたいという質問である。

 第2の質問は、岸田総理は自民改憲案4項目を支持すると表明したが、同時に「緊急事態にあっても、国会の権能をしっかりと維持していく」と記者会見で述べていた。しかし、改憲4項目の中の「緊急事態対応」は、国会を空洞化し、内閣独裁を可能にする項目であり、矛盾しているという問題である。

 岸田総理は、「緊急事態対応」で国会を空洞化し、内閣独裁を可能にするつもりなのか? それとも「国会機能維持」のために、徹底した制限を加えた「国家緊急権」へ手直しするのか?

 岸田総理からの回答が戻り次第、改めてお伝えする。

 その他、会見で岸田総理が示したコロナ対策や、曖昧な「分配戦略」に関する回答を含めて、以下で詳しくご紹介する。

▲岸田文雄総理(Wikipedia、内閣官房内閣広報室)

衆院解散! 10月31日衆院選決定! 岩上安身が総理会見に出席し、手を上げ続けたが指名されず! 複数質問を官邸に送付!

 岸田文雄総理は2021年10月14日、憲法第7条にもとづいて衆議院を解散した。

  • 本会議(衆議院インターネット審議中継、2021年10月14日)

 岸田総理は午後の臨時閣議で、19日公示、31日投開票の衆院選日程を決定し、夜7時から記者会見を行った。

 岩上安身はこの記者会見に参加し、挙手し続けたが、司会進行をつとめる四方敬之(しかた・のりゆき)内閣広報官に指名されなかった。

 今回は、幹事社はじめ、複数の記者が1回の質問機会に複数の質問を行っていたので、会見終了後、岩上安身自身が直接、四方広報官に談判し、指名されなかった記者もメールにて複数の質問を受けつけて回答してもらいたいと訴え、認められた。

 岩上安身の質問は以下の2点である。岸田総理からの回答が示されたら、改めてお伝えするので、ご注目いただきたい。

矢野康治財務事務次官が、与野党の大規模財政出動政策を「バラマキ合戦」と『文藝春秋』で批判! 高市早苗自民党政調会長は強く反論! しかし鈴木俊一財務相と経済同友会の桜田謙悟代表幹事は矢野氏を擁護!

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(以下、岩上安身より岸田文雄総理大臣への質問)

 岸田総理に2点質問いたします。

 岸田総理に、総選挙の争点に関する質問をさせていただきます。現役の財務事務次官である矢野康治氏が、月刊『文藝春秋』11月号に、『このままでは国家財政は破綻する』と題した論文を寄稿し、衆議院選挙に向けて、与野党の掲げる大規模財政出動を「バラマキ合戦」と批判しました。高市政調会長の示す財政出動の方向なのか。鈴木財務大臣、矢野財務事務官、経済同友会の桜田代表幹事らが支持する財政規律を守る方向なのか。財政についてどちらの方向を向いていくべきなのか、岸田総理ご自身のご判断による大方針を、明確にお示しください。また、会見中に産経新聞の記者が改憲について質問されました。岸田総理は、恒久的な内閣独裁を可能にし、国会を空洞化させてしまう現在の自民党改憲案「緊急事態対応」にそのまま賛成なのでしょうか。

 他方、総理ご自身が他日の記者会見でこの問題への質問に答えて、「国会の機能の維持をはかる」と発言されています。緊急事態宣言の後も「国会の機能の維持」をはかり、緊急事態宣言発出の前に国会で事前同意することや政令発出前に国会での事前の承認を必要とすること、また、緊急事態が一時的な措置で終わるように、解除の手続きと、国会に立法権を速やかに戻すなどの条件を織り込む、徹底した制限を加えた、先進国並みの「国家緊急権」へと手直しをするおつもりなのか。岸田総理の本音はどちらにあるのか、お聞かせ願いたいと思います。

▲高市早苗候補(Wikipedia、内閣官房内閣広報室)

 高市政調会長は、10日のNHK番組「日曜討論」でも、矢野論文に対して「これほどばかげた話はない」と切り捨てています。

 他方、岸田内閣で財務大臣に登用された鈴木俊一財務相は、矢野論文について、「寄稿の内容も政府の基本方針に反するものではない」と、矢野次官を擁護する発言をされ、高市政調会長と真っ向から対立する見解を示しています。

▲鈴木俊一財務大臣(Wikipedia、Photo Credit: Dean Calma / IAEA)

 また、経済同友会の桜田謙悟代表幹事は12日の定例記者会見で、財務省の矢野論文に関し、「ほぼ100パーセント賛成だ」と、鈴木財務相と同じく、矢野次官を擁護する発言をされています。

▲桜田謙悟・経済同友会代表幹事(Wikipedia、内閣官房内閣広報室)

自民党が与党の政権内で、与党の政調会長と政府の財務相の見解が真っ二つに分裂!! 岸田総理はどちらを支持!? 総理が見解を示さなければ、有権者は自民への投票を判断できない!

(岩上安身の岸田総理への質問の続き)

 こうした与党と政府が分裂しているという状況にあって、岸田総理ご自身は、10月10日のフジテレビ番組「日曜報道 THE PRIME」に出演された際、「いろんな議論があっていいと思うが、いったん方向が決まったならば、しっかりと協力してもらわなければならない」とくぎを刺しておられます。しかし「いったん決まった方向」とはどちらの方向なのか、肝心のその点をお示しになっていません。

 高市政調会長の示す財政出動の方向なのか。鈴木財務大臣、矢野財務事務官、経済同友会の桜田代表幹事らが支持する財政規律を守る方向なのか。

岸田総理自身が、選挙前のこの時点でお示しにならないと、与党の自民党の政調会長と、岸田政権の財務大臣並びに財務次官の国家財政に対する見解が、真っ二つに分裂している状態では、有権者は自民党に票を投じていいのかどうか、判断がつきません。

 会見前のスピーチで岸田総理は、今回の選挙が「成長も分配も」という自民党と「分配優先」の野党と、どちらを選択するかの選挙だ、と言われましたが、それ以上に重要な争点であると思われます。金融・財政政策について、与党と政府とでまったく違う方向を向いているのですから、事は深刻です。

 どんなに素晴らしい政策を並べても、予算がなければ実行できません。とはいえ、国家財政が破綻しては、「成長も分配も」失敗に終わります。

 自民党及び政府が、どちらの方向を向いていくのか、岸田総理ご自身の選択を、明確にお示しください。

岸田総理は、自民党改憲案の「緊急事態対応」で国会を空洞化し、立法権を取り上げ、内閣独裁を可能にするのか!? それとも「国会機能維持」のために、徹底した制限を加えた「国家緊急権」へ手直しするのか!?

(岩上安身の岸田総理への質問の続き)

 2点目の質問は、改憲についての質問です。

 8月26日の総裁選出馬会見において、弊社IWJの記者の質問にこたえて岸田総理は、自民改憲案4項目について支持する旨、表明されました。その4項目の中には「緊急事態条項」が含まれています。その点について、岸田総理は、「ご指摘の緊急事態の部分については、さまざまな議論があります。しかし、こうした緊急事態にあっても、国民の代表である国会の権能をしっかりと維持していく、これは大切な視点だと思っています」。とお答えになっています。

 このご回答には、理解しかねるところがあります。

 自民党が公式サイトに掲げている改憲4項目の中の「緊急事態対応」は、国会を空洞化し、立法権を取り上げ、国会の議論・議決を経ずして内閣が法律に代わる「政令」を自由に出して国民を従わせるという、内閣による独裁を可能にする項目です。これは国家緊急権を憲法に書き込むことに他なりません。

 他の先進諸国の憲法における国家緊急権には、ナチスが国家緊急権を悪用して独裁を行った反省に立ち、国会の事前同意や、期間の厳密な制限、解除の手続きなど、必ず、国家緊急権に厳格な制限を加えていますが、自民党改憲案は、2018年案もそうでしたが、現在の「緊急対応」案も、そうした厳格な制限や通常の民主主義体制に復する筋道が一切書かれていません。素案とはいえ、危険きわまりない条項であると言わざるをえません。

 岸田総理は、恒久的な内閣独裁を可能にし、立法府である国会をフリーズさせてしまう、2018年案、そして現在の4項目のひとつ「緊急事態対応」に賛成なのか。

 それともこれらとは違って、おっしゃっていたように「国会の機能の維持」のために、緊急事態宣言発出の前の国会の事前同意や、政令発出前の国会での事前の承認、また、緊急事態が一時的な措置で終わるように、解除の手続きと、国会に立法権を速やかに戻すなどの条件を織り込む、徹底した制限を加えた形の「国家緊急権」へと手直しをするおつもりなのか。

 岸田総理の本音はどちらにあるのか、お聞かせ願いたいと思います。

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岸田総理の「分配戦略」とは、3年後、4年後に賃金が上がるかも断言できない、薄ぼんやりとしたもの!

 会見で岸田総理は衆院選について、「最大の争点はコロナ対策」だと述べ、コロナ対策について、「明日(10月15日)、全体像と実行の骨格を発表する」と表明した。

 岸田総理は「この夏の2倍程度の感染力にも対応可能な医療体制を作る」と述べ、「公的病院の新型コロナ専用病床化を進める」、「新型コロナ病床として申告されていたにも関わらず、実際には患者の受入に使用されなかった、いわゆる幽霊病床について、これを『見える化』し、感染拡大時の病床稼働率を8割超まで引き上げる」「自宅や宿泊療養者への即応体制を強化する」「3回目のワクチン接種を12月に開始するとともに、経口治療薬について年内実用化を目指す」「無料検査を拡大する」などの対応を示したほか、困窮者や事業者への給付金や支援金などの対策にも言及した。

 また、経済対策については、「新しい資本主義実現会議」を明日(10月15日)発足させ、決定した内容を発表すると表明した。

 岸田総理は分配戦略についても、「市場に全て任せるのではなく、また国が丸抱えするのでもなく、民と官がそれぞれの役割を果たすことが、今の世界の潮流だ」と主張し、政府主導で賃上げ促進税制を強化し、看護・介護・保育などの給与の公的価格を引き上げると表明した。

 岸田総理は自らを「外務大臣を戦後最長4年8ヶ月つとめ、世界中の首脳とファーストネームで会話できる深い信頼関係を築いてきた」と自画自賛し、「今回の選挙は未来選択選挙だ」と訴えた。

 経済対策については、NHK記者が「賃上げについて、いつまでにどの程度を目指すのかを示す考えはあるか?」と質問。

 これに対して岸田総理は「スケジュール感をしっかり示すことは大事だ」と言いながら、「まず、今までの経済対策とどこが違うのかこの基本的な理念をしっかり説明していくことが大事だ」と述べ、分配のみを言う野党とは違い、分配を市場任せにしてトリクルダウンの結果が出なかった従来の経済対策とも違うと主張した。

 さらにフジテレビ記者の「安倍・菅政権の経済対策と変わらないという野党の批判に、選挙戦でどう対応するのか?」との質問には、「分配、分配というだけの野党の政策とは間違いなく違う」と主張し、「能動的に成長と分配を考えていく。これこそ、今、世界的な経済政策の潮流だ。何か、3番煎じだとかまったく違いがわからないとかおっしゃってる方もおられるようですが、今、間違いなく世界の潮流はこっちだ」と語った。

 これは、アベノミクスをそのまま継承するわけではない、と言っているようにも聞こえる。政調会長に自らが起用した高市早苗氏が、アベノミクスの継承を訴え「サナエノミクス」などと主張したものとは、対照的に映る。

 さらに重ねて、西日本新聞の記者が「成長の果実が行き渡るのはいつか?」と質問した。

 この質問に対し、岸田総理は、「コロナとの闘いに打ち勝って、コロナと共存を果たしながら、なおかつこのリスクを低減して経済を回していくことを考えていかなければならないわけですから、今、3年後、4年後に皆さんの給料上がりますよと軽々しく言うのは、かえって誤解を招く。方向性はこっちだという思いを共有するところから始めたい」と語った。

 つまり、岸田総理の訴える「分配戦略」とは、どうやら3年後、4年後に賃金が上がるかどうかも断言できない、薄ぼんやりとしたもののようだ。

 一方、野党の訴える「分配強化」は、立憲民主党の発表した政策を例に取ると、法人税の累進税率導入、所得税の最高税率引き上げ、金融所得課税の強化など、法改正さえすればすぐにでも実現可能な具体的な政策である。

 10月15日に設置された「新しい資本主義実現会議」で、岸田総理のリーダーシップのもと、「成長も分配も」可能な具体的な政策が果たして出せるのか。そしてその日本政治として、岩上安身が投げかけた質問にある通り、財務省と自民党との深刻な分裂に対し、どちらを取るのか明確な選択と針路を出せるのか、その点にもぜひ、注視したい。

※これは日刊IWJガイド2021.10.15号~No.3319号に掲載された記事を加筆・修正したものです。

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https://note.com/iwjnote/n/n807c13d633ed

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