【特別寄稿】英エセックス大人権センター・フェロー藤田早苗氏のイギリス・ロックダウンレポート(その1)〜ロックダウンが始まった! 2020.5.5

記事公開日:2020.5.5取材地: | テキスト
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(藤田早苗)

 新型コロナウイルス感染症の広がりの中心は、中国湖北省から欧米諸国に移った。これらのうち、多くの国では罰則などの強制力をもって、都市封鎖や外出禁止令が出されている。

 チャールズ皇太子やボリス・ジョンソン首相が陽性となった英国では、3月23日、英国全土に緊急事態宣言によるロックダウン(都市封鎖)が発表された。そして一時ICU(集中治療室)に入っていたジョンソン首相が公務に復帰した4月27日には、全国規模のロックダウンの継続と、5月7日までに検証を行うことを発表した。

▲「閉店します」の張り紙

 ジョンソン首相は4月30日、英国内での新型コロナウイルス流行について「ピークを過ぎた」と語ったが、その前日の29日には死者数が2万6711人となり、米国、イタリアに次ぐ世界第3位となった。

 現在もまだロックダウン中の英国に在住の、エセックス大学人権センター・フェロー藤田早苗氏から、IWJに現地レポートの第1弾が届いた。

(前文・IWJ編集部)

 新型コロナ感染拡大のため、現在、世界人口の約4分の1が何らかの外出禁止令のもとにあるという。私のいる英国でも3月16日に自粛要請の首相声明、そしてその1週間後の23日に緊急事態宣言によるロックダウンが始まった。

 自身も新型コロナに感染してしまったボリス・ジョンソン首相が繰り返すように「これは要請ではなくて規則」だ。違反者には罰金が課される。BBCのニュースチャンネルは連日コロナ関係のニュースを一日中報道し、まさにコロナ一色だ。そしてロックダウンはまだしばらく続く見込みらしい。そこで、ロックダウン中のイギリスから‟徒然なるままに“レポートをお届けしようと思う。

記事目次

まだ遠い国のことだった

 私は毎年2回、講義講演ツアーのために日本に一時帰国しているが、コロナウイルスについて初めて聞いたのは、この前の2019年の冬の帰国中のことだった。

 「中国からの渡航者によって、そろそろ日本でも感染者が出るのでは」と懸念され始めていた1月20日、私は日本を出国した。イギリスでは武漢の様子についてはよく報道されており、クルーズ船ダイアモンド・プリンセスのことや、そのイギリス人乗客からのメッセージ動画なども、よく報道されていた。

 だが、イギリスではこのころ、コロナはまだ遠い極東の国の問題でしかなかった。東アジアの人たちがロンドンなどで「コロナうつすな」と差別的な言葉をかけられたり、暴力を振るわれたりしたのもこの時期だ。もともとあった人種差別がコロナをきっかけにさらに露わになったのでは、といわれている。ある大学では中国人留学生への嫌がらせもあったとも聞いた。

とうとう欧州にも来た

 イギリスで最初の感染者が確認されたのは1月31日。ブライトンの男性が学会で行ったシンガポールで感染したらしく、彼の移動行程はテレビなどで詳しく紹介された。感染経路を絶つ目的だと思うが、感染者へのバッシングも起きたらしい。これはいまだに、感染者の個人情報や移動経路を公表する日本でも、大いに懸念されるのではないだろうか。

 結局、彼は数週間後、「回復しました」というメッセージと共にあえて名前と顔写真を公表した。さわやかな笑顔の「普通の人」の顔が映し出された。それで単なる「感染者」ではなくなったのか、そういうバッシングは収まったそうだ。今では感染者やその家族、そして遺族がテレビに出ることは当たり前のように行われている。

 欧州でまず感染が深刻になったのは、北イタリアだ。かなりの速度で感染が広がっているということが連日伝えられた。このころイギリスでは、中国、韓国、日本などのアジアの国からの渡航者や帰国者は2週間の自己監禁が勧告されていたが、そこにイタリアも加えられた。

 最初北イタリア、そしてイタリア全土がロックダウンした。外出にはいちいち許可が必要。そのうちさらに厳しくなって、全く外出ができなくなったらしい。スペインやフランスでも似たようなロックダウンが始まった。外出できない人たちがバルコニーで歌ったり、屋上で運動したりしている姿も映し出された。

 私自身は、「ああなったら耐えられないな。アパートの中に24時間、それも何日も監禁なんて…」そう思いながらニュースを見ていた。

大学も

 イギリスでは政府よりも大学が早くアクションを取り、授業をオンラインに切り替えた。エセックス大学でも3月中旬にそれにならい、教室での授業は禁止になり、様々な企画もキャンセルまたは延期になった。私はこの12年間、毎年院生のチームがアジアの人権に関する全日カンファレンスを企画するのを指導している。今年は3月21日に予定していたのに、1週間の差でダメになってしまった。5か月間院生が一生懸命準備してきたのに、本当に残念でコロナを恨めしく思った。

 結局、企画は形を変えて、夏にバーチャルで行うことになったが、世界のいたるところでこういう悔しい思いをしている企画者や運動選手、芸術家などがいるのだろう、と思った。

イギリス政府の政策

 イタリア、スペイン、フランスが次々とロックダウンをはじめ、隣のアイルランドも全国で休校に入る中、イギリスのジョンソン首相が最初に政策をブリーフィングしたのは3月13日の金曜日だったと思う。最初の政策はいわゆるherd immunity (群衆免疫もしくは集団免疫)ということだ。

 70歳以上の高齢者は外出を控え、残りの人たちは通常生活を続ければよい。そして、人口の60%が感染すれば群衆免疫ができて感染は広がらない。それまでは多くに人が死ぬことになるだろうが。そういう意味のことを首相がスピーチしたのだ。

 その日のニュースでは「たとえば、高齢者はスコットランドあたりに集めておいて感染者が出ないようにして、残りは普通にやればいいのだ」などという専門家のコメントも紹介されていた。群衆免疫は科学的な根拠にもとづいているのだというが、本当なのか今ひとつよくわからなかった。そして、さすがにこのアプローチは「犠牲が大きすぎる」と医療関係者が猛反対して、2日で撃沈された。

 週明けの月曜日のブリーフィングでは首相は方向転換して、パブや飲食店などで集まることへの自粛要請をし、できるだけ在宅勤務するように勧めた。それを受けてロンドンでは40もの駅が閉鎖して実質上使えなくなった。「通勤するな」ということだ。

 その3日後には、パブや飲食店は持ち帰りのみ許可され、ジムや劇場は当分閉鎖が言い渡された。私はジムとスポーツクラブをよく利用していたのでこれは痛かった。そしてだんだん自分の生活に影響が出てきたことを感じた。

▲「閉店します」の張り紙

 また、とうとう学校も全国で閉校すると政府が発表した。それも数週間のことではない。夏休みを終えた9月まで約半年も休校になるという。そんなに長期で対処すべきなのか、と改めてこのパンデミックの深刻さを実感した。

パニック買い

 トイレットペーパーが買い占められて店頭から消えた、という日本の状況はネットで見ていた。そして同様のことがイギリスでも起き始めた。だが消えたのはトイレットペーパーだけに限らない。政府が「症状が出たら2週間自己監禁すること」と強調しているので、周りの人も「そうなった時のために、保存食を多めに買っておかなければ」と言っている人もいた。また自粛要請が出たころから、そろそろイギリスもロックダウンになるのでは、という危機感からも買いだめが始まった。

 大学近くの大手スーパーでは、まずトイレットペーパーとパスタの棚が空っぽになり、続いて肉も卵もパンも野菜も果物もシリアルも米も缶詰も乳製品もあらゆる食品がどんどんなくなっていった。冷凍食品も空っぽだ。みんな多めに購入する。毎日品物は補給されるが、開店前にすでに100人くらい並んでいるから1日もたないのだ、と店員が言っていた。

▲パニック買い

 そういう状況で困るのは、仕事が終わった夕方にしか買い物に行けない人々だ。そういう状況の、医療現場で働くある女性がスーパーの駐車場で車の中で自撮りした動画をBBCに送ってきた。「1日朝から医療の最前線で働いて、帰りにやっと食糧を買いに来たら、野菜も果物も何も残っていない。空っぽだ。みんな自分のことしか考えてないのか。こんなことでどうやって健康を維持できるというのだ。頼むからやめてくれ。 “ STOP IT”」と涙ながらに訴える動画だった。

 これは何度もニュースで紹介され、BBC等のウェブサイトでも紹介された。そしてこの状況に関して、政府や医療機関のコメントと、スーパーへの配慮の依頼も告げられた。その結果、ほとんどのスーパーでは、朝の開店後1時間ほどを医療従事者などのキーワーカーと高齢者だけが入店できる時間に指定し、彼らが安心して必要な食糧を購入できるようになった。

 BBCなどはこうやって視聴者から届けられる動画をそのまま紹介することがよくある。視聴者も言いたいことをスマホなどで録画して臆すことなく伝える。それで社会が問題に気づき、改善が促されることもある。「公共放送だから視聴者もその一部だ、という意識があるのだ」とBBCの知人は言っていた。公共放送とはいえNHKとは違うな、といつも思う。

3月23日「緊急事態宣言」

 イギリスの冬は、長くて暗くて冷たい。私のいる街は南東部だが、それでも北緯52度だ。つまり樺太よりも北にある。空はたいがいいつも曇っていて、太陽が恋しくなる。だから春が本当に待ち遠しい。春が来てサマータイムに切り替わり、さらに日も長くなる。天気のよい週末に出掛けたくなるのは当然だ。

 しかし、自粛要請が出ているのに、それはやってはいけない。それにも関わらず、自粛要請が出た最初の週末はとても天気が良くて、ロンドンの公園や海岸の町などは、かなりの人出だったようだ。案の定、その週末で感染者数は大幅に増えて、政府は自粛要請に従わなかった人々をブリーフィングなどで厳しく批判し、「もっと厳しい対策が必要だ」と語気を強めた。

 その月曜日の夜8時から首相が新たな声明を出すということがニュースなどで知らされた。タブロイド紙などは「いよいよロックダウンだ」という記事を出していた。友達と電話で話しながら、「イタリアみたいになったら嫌だよね」「運動できなかったらほかの病気になるよ」と話した。

 イタリアでは外に出られないからアパートの屋上で縄跳びなどの運動をしている人などがテレビに出ていたが、私の住むアパートには庭も屋上もないから本当に缶詰めになる。「それだけは勘弁してほしい」そう願いながら8時のスピーチを聞いた。本稿の最後にそのスピーチ全体の和訳をつけておくが、要点はこういうことだ。

 「もし多くの人が一度に重症になったら、NHS(国民保健サービス)は対応できず、救える命も救えなくなる。だから、感染を遅らせてピークを分散させなければならない。そのために今日から新しい規則を導入する。

 食料品と薬などの必需品以外を売る店には、すべて閉店を命じる。キーワーカーと、どうしても在宅勤務できない人以外は、すべて自宅で勤務すること。最低限の食料品の買い物と、1日1回1種類の運動以外は外出禁止。運動は必ず一人で、または同じ家に住む人とのみおこなうこと。世帯間での感染拡大を防ぐために、ほかの家に住む人を訪問することは禁止。

 友達とも会うべきではない。もし友達が会うことを依頼してきたら、「ノー」と言うべきである。必需品を除いて買い物に行くべきでもないし、これもできるだけ控えるべきである。そして、もしできるなら食品配達サービスを使うように。2人以上が集まることは禁止。警察に新しい権限が付与されて、規則を守らない場合は罰金を課すことができる」

 首相の言うことはよく理解できた。何が目的で、そのために何をしなければならず、何が許され、禁じられるのか、彼は自分の言葉で心から語っているのがわかった。そして「従わなければならない」と思った。

 しかし同時にスピーチを聞きながら、ストレスを感じて腹痛を覚えた。自制できずにイライラして、夜中まで間食してしまった。「とうとうロックダウンが始まったのか…」その日はよく眠れなかった。

 それまで10あった自由が、7に減り、5に減り、とうとう今3くらいにまで減ったのだ。それもたった1週間で。短期間での急激な変化に対応するのがつらかった。多くの人が同じようにいっている。「どんな生活が始まるんだろうか」翌朝はかなり憂鬱な気分で目が覚めた。

(…会員ページにつづく)

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