米国の中央銀行に当たる連邦準備制度理事会(FRB)は2月7日、半期に一度議会に提出する金融政策報告書を公表し、中国で発生した新型コロナウイルスによる肺炎の拡大が「景気見通しへの新たなリスク」だとして、警戒感を示した。
FRBの報告書では「その経済規模ゆえに、中国での深刻な機能不全は、リスク選好の後退やドルの上昇、貿易および商品価格の落ち込みを通じ、米国や世界の市場に波及する可能性がある」とし、さらに「中国経済を下押しし、石油需要が減る恐れがあるため、原油価格が最近下落している」と指摘している。
その一方で、米国内の経済に関しては、「昨年は緩やかに成長した」と発表。労働市場も「さらに力強さを増した」としている。また、今年1月に米中が貿易協議の第一段階合意文書に署名したことを受けて「貿易摩擦はいくらか緩和した」と評価している。
ジェローム・パウエルFRB議長は、11日に米下院金融サービス委員会に、12日に上院銀行委員会で報告書の内容について証言することになっている。
▲ジェローム・パウエルFRB議長(Wikipediaより)
中国による金融緩和、米中貿易摩擦緩和、米国内の景気拡大で米市場は史上最高値を更新!しかし、その後新型コロナウイルスへの懸念で反落で乱高下!
FRBの報告書は新型コロナウイルスの影響で「市場が混乱している」と表現しているが、2月6日(日本時間7日)の米ニューヨーク株式市場は、主要企業でつくるダウ工業株平均が、前日比88.92ドル(0.30%)高い2万9379.77ドルで終え、1月半ば以来ほぼ3週間ぶりに史上最高値を更新した。ダウ工業株平均は前週末に大きく値を下げたものの、その後4日続伸で史上最高値を更新しており、値動きが激しくなっている。
こうしたダウ工業株平均の最高値の更新の背景には、いくつかの理由が指摘されている。
第一に、新型コロナウイルスによる肺炎の治療薬開発に関する報道や、感染拡大による景気減速に備えた中国政府の金融緩和により、世界景気への悪影響が和らぐとの見方が強まったこと。
ロイター通信などは2月5日、「中国の浙江大学の研究者が新型肺炎に効果的な治療薬を発見した」と報道。また、中国人民銀行(中央銀行)は、感染拡大による景気減速に備え、金融市場に1兆7000億人民元(日本円にして27兆円)を投じたことや、中小零細企業の資金繰りの悪化に備えて、金融機関に対して融資の中断や貸しはがしなどを行わないよう指導したことを明らかにした。こうしたことから、コロナウイルスに対する楽観的な見方が高まったとされている。
第二に、中国が米国から輸入する1717品目について関税を半減すると発表したこと。
米中両国は1月15日、貿易戦争の緊張緩和を目的とした「第一段階」の合意文書に署名しており、今回の税率引き下げはこの合意に対する中国からの最初の措置となった。
関税の半減は2月14日から施行され、対象となるのは750億ドル(8兆2000億円)相当の輸入品。350億ドル相当には引き続き現行の関税がかけられるものの、今回の減税措置は、米中貿易戦争を終わらせるための大きな一歩だとされている。
ダウ工業株平均の最高値の更新の第三の理由として、市場予想を上回る米経済指標が続いたことが指摘されている。
米雇用サービス会社ADPが5日発表した1月の全米雇用リポートでは、民間の雇用者数の増加幅が市場予想を大きく上回った。また、米サプライマネジメント協会(ISM)発表の1月の非製造業景況感指数も市場予想以上に改善し、米景気の拡大基調が続いているとされた。
実際、米国労働省が7日に発表した1月の雇用統計は、景気動向を反映しやすいとされる非農業部門の就業者数(季節調整済み)が前月比22万5000人増で、市場予想(16万人増)を上回ったとされている。失業率も3.6%と歴史的低水準を保持しており、平均時給も前年同月比3.1%増と、市場予想(3.0%増)を上回った。
- 1月の米雇用統計、就業者数22.5万人増 失業率3.6%(ウォール・ストリート・ジャーナル、2020年2月7日)
しかしその一方、2月7日(日本時間8日)になってダウ工業株平均は5日ぶりに反落した。新型コロナウイルスの影響で世界の経済成長が減速するとの懸念が再燃したといわれており、新型コロナウイルスへの見方が楽観から悲観へと、大きく揺れ、市場を左右したことがわかる。米株式市場は今後も、新型コロナウイルス次第で不安定な値動きが継続するものと思われる。楽観一点張りは禁物だ。
「米国民にとって今、真の脅威はインフルエンザだ」! 米疾病対策センターが米国内のインフルエンザ感染者2200万人、死者1万2000人と発表!
他方、IWJでこれまで報じてきた通り、米国内では、インフルエンザが猛威を振るっている。
▲イメージ写真
米疾病対策センター(CDC)のロバート・レッドフィールド所長は2月7日、「米国民にとって今、真の脅威はインフルエンザだ。中国湖北省に滞在歴がない人で、呼吸器症状がある場合は(インフルエンザの)可能性が高い」と記者会見で訴えた。
▲ロバート・レッドフィールド米疾病対策センター所長(Wikipediaより)
IWJは1月末に上記記事で「感染者1500万人、死者8200人以上」と報じたが、CDCの2月7日の発表では、そうしたデータは大幅に更新され、全米で少なくとも2200万人が感染し、1万2000人が死亡したと推計。しかも感染者はさらに増加傾向にある、とのこと。たった1週間強で、感染者数、死亡者数ともに急増している。
新型コロナウイルスの死者は、2月9日時点で全世界で813人と発表されているから、米国のインフルエンザによる死者は14.7倍である。こちらの方こそ、新型コロナウイルス以上に米国社会にとって脅威なのではないだろうか。
にもかかわらず、米国政府も米国の主要メディアもこれまで静観してきた。いったいなぜなのだろうか?