森雅子法務大臣は1月9日未明の臨時記者会見で、レバノンに逃亡して1月8日に会見を行ったカルロス・ゴーン氏に対し「司法の場で正々堂々と無罪を証明すべき」と発言。これが、「推定無罪」の原則と有罪の証明義務を負うのは検察であるという、近代民主国家の司法制度の基本中の基本を、全く無視しているとして、物議をかもした。
森大臣は9日、「主張」というところを「証明」と言い間違えたとツイッターで訂正した。しかし、大臣は弁護士資格を持っている法律家なのだから、こんな近代司法の基本中の基本を「言い間違え」たなどという素人じみた弁明は真に受けられない。常日頃から思っていたことを表にあらわしてしまったのではないか。
- 森まさこ法相のツイート(2020年1月9日)
ゴーン氏の代理人弁護士でフランスの元人権担当大使のフランソワ・ジレム氏は10日、声明を発表した。
声明では、「有罪を証明するのは検察であり、無罪を証明するのは被告ではない。ただ、あなたの国の司法制度はこうした原則を無視しているのだから、あなたが間違えたのは理解できる」と発表。さらにジレム氏は「国連や主要なNGOは、日本の司法制度を『人質司法』と見なしている」、「日本は、称賛されるべき近代的で先進的な国だ。罪のない人を人質にするような、時代遅れな制度は似合わない。それを廃止するのはあなたの責任だ」と、森法相に訴えかけた。
1月14日、森大臣は法務省内で定例会見を行い、IWJ記者は、「森法相はこのジレム氏の訴えに応えて、日本の刑事司法制度を改革するのか、しないのか? お答えください」と質問した。
ところが森大臣は、自らの「推定無罪」を無視した発言への批判に対して、「自分はそもそも無罪推定原則は司法の根幹と考えているのであるから、ご指摘は当たらない」と開き直った。まるで菅官房長官のような、木で鼻をくくった回答でごまかしであり、身柄を長期勾留して自白を強要し、有罪に持ち込む「人質司法」が横行している現実への「否認」である。
さらに「人質司法」との批判に対しては、「わが国の司法が人権保障しているのはもちろんだが、各国の制度には様々な違いがある。たとえば裁判官の発する令状なしの無令状逮捕を認める国があるが、わが国は現行犯逮捕などのみに認めるなど厳格な手続きで行なっている。被告人の逮捕、拘留、保釈については、不必要な身柄拘束が行われないよう適正に行われている。人質司法との批判は全く当たらない」と、空疎で官僚答弁のような、形式的な言葉で、批判をはねのけるのみ、反省もまったくしない。刑事司法改革どころか現状の「人質司法」は続けると居直ったに等しい発言である。