「日本の犯罪人引渡条約締結国が2か国しかないのは、長期勾留による『人質司法』が人権問題とされているからでは? 見直しは考えないか?」とのIWJの質問に回答回避!? ~1.10森雅子 法務大臣 定例記者会見 2020.1.10

記事公開日:2020.1.12取材地: テキスト動画
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(取材:渡会裕 文:IWJ編集部)

※1月27日テキストを追加しました。

会社法違反などで東京地検特捜部に起訴され、保釈中の昨年末にレバノンに逃亡したカルロス・ゴーン前日産自動車会長が、1月8日夜(日本時間)、レバノンの首都ベイルートで記者会見を開いた。会見終了直後の9日未明(日本時間)、森雅子法相が臨時の記者会見を開き「ゴーン被告は、嫌疑がかかっている経済犯罪について、潔白だというのであるなら、司法の場で正々堂々と無罪を証明すべきだが、国外に逃亡し、刑事裁判そのものから逃避した」と発言した。

▲森雅子法務大臣(2020年1月10日、IWJ撮影)

 9日の岩上安身による郷原信郎弁護士インタビューの中で、郷原氏は弁護士でもある森法相のこの発言に対し、「立証責任を追うのは検察官です。無罪を主張する被告人は、検察官が有罪を立証したら有罪になるんです。自分で無罪を証明しないといけないということであれば、推定無罪の原則なんて成り立たない。これはもう司法の大原則。法務大臣がこんな発言をするというのは野蛮国家です」と批判した。

 森法相のこの発言には多くの批判が寄せられ、森法相は9日、ツイッターで「無罪の『主張』と言うところを『証明』と言い違えてしまいました。謹んで訂正致します」と発表したが、近代刑事司法の根幹をなす原則について、法律家が「言い間違える」とは考えられないし、まして法務大臣が公式の会見に臨んで、そんな「うっかり」があったとは考えられない。あまりに苦しい弁明である、というべきだろう。

 日頃、「無罪の証明は被疑者がするものだ」と思い込んで司法行政に臨んでいるからこそ、こうした言葉が出てくるのではないだろうか。そもそもこんな重大な発言の過ちをツイッターでの訂正で済ませようとすること自体、問題ではないだろうか。

 ゴーン氏の代理人弁護士でフランスの元人権担当大使のフランソワ・ジレム氏は10日、この森法相の発言と訂正を取り上げ、「有罪を証明するのは検察であり、無罪を証明するのは被告ではない。ただ、あなたの国の司法制度はこうした原則を無視しているのだから、あなたが間違えたのは理解できる」と、皮肉を込めた声明を発表した。日本の「人質司法」の深刻な実態を知る者には、何一つ反論できない批判であると感じられる。

 さらにジレム氏の発表した声明では「国連や主要なNGOは、日本の司法制度を『人質司法』と見なしている」「日本は、称賛されるべき近代的で先進的な国だ。罪のない人を人質にするような、時代遅れな制度は似合わない。それを廃止するのはあなたの責任だ」と、森法相に訴えかけた。森法相はこの訴えかけを真摯に受け止めただろうか?

 森法相がツイッターで未明の発言の訂正を行った翌日10日、IWJ記者は森雅子法相の定例記者会見で、「レバノンと日本との間には犯罪人引き渡し条約がなく、ゴーン氏の身柄が日本に引き渡される見通しがないが、そもそも日本は米韓2か国としか引き渡し条約を結んでいない。これは死刑制度や長期勾留による人質司法が人権問題とみられているからではないのか。刑法制度、司法制度等の法律的な見直しは考えないのでしょうか」と質問した。

 これに対して森法相は「我が国の刑事手続について様々なご指摘、ご意見があることは承知をしております」と前置きして、以下のように述べた。

 「しかし、各国の刑事司法制度には様々な違いがありまして、これまでの歴史や文化、そして、国民の皆様の理解のもとに、それぞれの国で、積み上げられてきた制度であると思います。制度全体を把握をして、理解をして頂きたいと思っておりまして、個々のそれぞれの制度だけを切り抜いていって、単純に比較をすることは適切ではないと思っております。

 そのうえで、ただ、時代の流れや、それからグローバルな動きに即応した見直しを不断にしていくことは重要でございます。そして、これまでも、例えば取り調べの可視化など、様々な見直しも国民の皆様とともにしてきたわけでございますので、今後もそのような姿勢はしっかりと取って、頑張りたいと思っています」

 このように森法相は、記者の質問の核心である「人質司法」とみなされる現行制度の見直しは考えないのか、という質問に対する回答を回避した。

 近代司法の普遍性を「歴史や文化」を持ち出して相対化し、結局長期間身柄を拘束して自白を強要し、有罪に追い込む「人質司法」について、改めるという言葉も、そもそも「人質司法」が問題であるという意識すらも示さなかった。ただただあたりさわりのない言葉の羅列によって、その場を無難にやり過ごすだけだった。

■全編動画

  • 会見者 森雅子氏(法務大臣、参議院議員)
  • タイトル 森雅子 法務大臣 定例記者会見
  • 日時 2020年1月10日(金)10:45頃〜
  • 場所 法務省(東京都千代田区

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