【特別寄稿】英語民間入試導入に先鞭をつけた元文科相の下村博文・自民党憲法改正推進本部長が、改憲議論に前向きな山尾志桜里衆院議員(立憲民主党)に熱烈秋波! 「なぜ立憲は議論しないのか!?」 2019.11.9

記事公開日:2019.11.9 テキスト動画
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(取材・文:フリージャーナリスト横田一)

 2019年9月7日、東京・渋谷で「コクミンテキギロン☆チーム」主催の「どうする?どうなる?憲法9条『コクミンテキ☆ギロンしよう!第6回 ゲスト:自民党 下村博文 憲法改正推進本部長』」が行われた。

 「コクミンテキ☆ギロンしよう」は、弁護士の倉持麟太郎氏が中心となり、立憲民主党の山尾志桜里衆議院議員、自民党の石破茂衆議院議員、国民民主党の玉木雄一郎衆議院議員らをゲストに呼び、憲法9条にテーマを絞って議論を行っている。

 下村氏といえば、第二次安倍政権の初代文部科学大臣。2012年12月26日に文科相に就任するや、28日に朝鮮学校を高校無償化の対象から除外することを発表した筋金入りの極右的思想の持ち主である。

 2015年6月8日には、国立大学の人文科学系、社会科学系、教員養成系の学部・大学院について「組織見直し計画を策定し、組織の廃止や社会的要請の高い分野への転換に積極的に取り組む」と通知した。つまり国立大学から人文社会科学系学部、教員養成系学部の廃止を言い出した張本人でもある。日本民族の知的劣化を押し進めようと躍起になっている人物である。

 下村氏は2005年に全国の塾や予備校経営者でつくる『学校設置会社連盟』(現・新しい学校の会)の顧問に就任している。下村氏の政党支部が、2013年に文科省から補助金を交付されており「新しい学校の会」は、そこに参加する学校法人から、献金を受けたことが報じられている。

 さらに2017年には上記と同じ2013年と翌2014年に加計学園からそれぞれ100万円ずつ違法献金を受けていたことが報じられ、緊急記者会見を行い、『疑問の点があれば都議選が終わった後に丁寧にお答えする』と約束した。

 しかしその後、2年以上が経過したが、下村氏からの「丁寧なお答え」はいまだにない。国民、有権者に対する説明責任を果たしていない状態が延々と続いている。

 また、先日萩生田光一文科相によって延期が発表された英語民間検定試験導入の工程表を取りまとめたのも、文科相時代の下村氏だ。この英語民間試験問題は、萩生田氏の「身の丈」発言によって日毎に大きな問題になりつつあるが、本来ならばなぜこんな制度を導入しようとしたのか、まずは下村氏が世間の前に出て説明しなければならないはずである。

 立憲民主党の枝野幸男代表は11月4日、問いただすべきは、民間入試問題導入のいきさつを知る下村博文氏である、と記者団に問われて指摘している。

 「(延期が決まった英語民間試験について)なぜ、こんなおかしな制度を作ることになったのか。私の承知する限りでは、一番の原動力になったのは、(教育再生実行会議のメンバーだった)下村(博文)元文部科学大臣ではないかと思っている。下村元大臣が(英語民間試験を)導入しようとしたいきさつ、これが一番本質的な問題ではないか。しっかりと問いただしていきたい」。

 そんな下村氏が、前述のように9月7日、人前に姿を現した。しかし、口にしたのは加計学園からの違法献金疑惑の釈明でもなく、英語民間試験導入の経緯でもなかった。

 下村氏はこの日、当時の肩書きである自民党憲法改正推進本部長(その後細田博之氏に交代。下村氏は顧問へ)として登壇し、改憲議論についてのみ、延々と演説した。しかも異様だったことはもう一つ、下村氏は30分の講演時間で、この日の講演に参加していた立憲民主党の山尾志桜里衆議院議員の名前を何度も出し、改憲論議の開始に向け、山尾氏に秋波を送り続けたのである。

▲下村博文氏(横田一氏提供)

■下村博文氏講演と質疑応答

憲法議論は政局絡みの話ではない!? 〜下村博文・憲法改正推進本部長の講演後の囲み取材

 講演終了後の囲み会見で、他社メディアからは9月11日の第4次・第2次改造内閣にともなう党内人事に関する質問が集中する中、フリージャーナリスト・横田一氏は「韓国に対して嫌韓で支持率が上がっている間に一気に憲法改正を進めるお考えですか?」と質問。下村氏は「憲法議論は政局絡みの話ではない」とのみ答えた。

■下村博文・憲法改正推進本部長の講演後の囲み取材

記者(他社)「11日の人事について、岸田政調会長が憲法改正推進本部長と兼任する案も浮上しているようですが、そういう案についてはどのようにお考えですか?」

下村博文・自民党憲法改正推進本部長(当時。現在は選対委員長)「すでに報道されていますが、次の内閣改造人事ですね、党をあげて憲法議論を進めることをやっていきたい」

記者(他社))「『党をあげて』ということは、例えば、幹事長や政調会長を含めてということですか?」

下村氏「はい。はい」

記者(他社)「具体的にはどういうフォーメーションになれば(ということですか)?」

下村氏「フォーメーションではなくて、幹事長や政調会長を中心に、党全体で憲法議論をするような環境作りを国会の中で野党に対して行うと。それがまだまだ足りなかったのではないかと本部長として反省をしています」

記者(他社)「改憲本部長について政調会長に兼務させる案も浮上しているようなのですが、憲法改正推進本部長として、そういう案はどのようにお考えでしょうか?」

下村氏「それはないと思います。党内の組織が違うので、兼務することはないと思います」

記者(他社)「兼務ではなくて、政調と憲法推進本部とリンクさせて憲法議論をやっていくスキームに対してはどうお考えでしょうか?」

下村氏「スキームは別に政調だけではなくて、幹事長職を含め全部をリンクさせるというのは是非やってもらいたいですね。特に政調だけではなくて、政調はもちろんやってもらいたいけれども、党全体として幹事長を先頭にやる必要があるのではないかと思います」

横田一「一気に憲法改正を進めるお考えですか? 韓国に対して嫌韓で支持率が上がっている今がチャンスだというお考えはありますか?」

下村氏「それは直接関係がない話だと思います。憲法議論は憲法議論でもっと盛り上げたいと思っていますが、政局絡みの話ではないと思います」

記者(他社)「これまで憲法改正推進本部長をやられて来ましたが、続投していきたいというお気持ちの方は?」

下村氏「それは、任命は総理が判断されることですから、総理の判断に従いたいと思います」

憲法改正の自由な討議をやったらもっと面白い議論になる!?〜改憲議論に前向きな山尾志桜里氏が下村氏へ改憲議論の改善を要望!?

 この日の講演には第一回目のゲストとして登壇した山尾志桜里氏も参加。下村氏の講演後の質疑応答では、一般参加者として、下村氏に憲法審査会での党の方針にとらわれない自由な討議ができるようにと求めた。

 立憲民主党は今年7月の参院選を前にして5月29日、立憲民主党、国民民主党、日本共産党、社会民主党、社会保障を立て直す国民会議の野党4党1会派と市民連合による政策協定に調印。その政策協定の1番目に「安倍政権が進めようとしている憲法「改定」とりわけ第9条「改定」に反対し、改憲発議そのものをさせないために全力を尽くすこと」と掲げられている。

 改憲発議をさせないのが野党4党1会派の政策協定なのだから、その一員であるはずの山尾議員が自民党の下村氏に向かって、自由な討議を呼びかける、というのは釈然としない話である。

 以下、山尾議員の発言を紹介していこう。

山尾志桜里氏「先程(下村氏の講演)の30分の中で何度も(自分の)名前を挙げていただいて、ありがとうございました。その中で、『秋の国会はCM規制の話もするけれども、(憲法改正の)中身の話もすると両方走らせたらいいのではないか』と言っていただいて。私はそう言っているのです。私はそう思っているのです。

 ただ、一つ自由討議はやったらいいと思うのですが、一つ気になっていることがあります。それが、結局、自民党も党に縛られて、例えば、立憲とか野党も党に縛られて、必ずしも党の枠をはみ出した意見を持っている議員がなかなか自由に話ができないとすると、せっかく自由討議をやっても、例えば、9条の話をしても自民党から出てくるのは「自衛隊明記」だけ。もしかしたら野党から出てくるのは「9条を変えない」という意見だけ。

 本当は自由な討議の中で、本当に戦力と自衛隊との矛盾というのを憲法でちゃんと解消しなくていいのか、とか。あるいは、本当に自衛権の範囲をちゃんと書き込むべきなのか、自由にしておいていいのか、とか。本当は国民が聞きたい議論が党の拘束にそれぞれ議員が縛られて、自由討議が自由討議でなくなってしまうのではないかというような感じもするのです。

 なので、私が思っているのは自由討議はいいのだけれども、本当に自由にするために、憲法審査会だけは少なくとも議員が一議員として自由に討議をするということを議長に確認をしてもらうとか、そういうことをやったらもっと面白い議論になるのではないかなと思うのですが、そこはいかがでしょうか?」

▲山尾志桜里氏(横田一氏提供)

下村氏「立憲民主党って、そんなこと(党議拘束)があるのですか? ないでしょう」

山尾氏「私は別に『立憲民主党で決まっていないことを発言してはならぬ』とか、そういうことは全くないのですが、(司会者「諦められているのでは?」)言っても聞かないということはあるかも知れないのですが、さっき、お話を聞いていると、自民党の中でもまだ3分の1ぐらいしか議論ができていなくて、もっと憲法の議論をしてもいいのではないかとおっしゃっていたので、だったら自民党の中でも憲法の議論を続けて欲しいなと思ったり、あるいは自由討議になったらという時に実際は、石破(茂)さんは黙っていて、4項目で自民党明記案に賛成している議員だけが手を挙げて粛々と4項目の説明をしていくみたいな自由討議だと、つまらないなと。

 そうでないことを担保するために、何か工夫があった方がいいのではないか?」

下村氏「憲法審査会にいつもいらっしゃっているでしょう。自民党はいつも同じ議論ばかり言っていました? みんな今までもそれぞれ、違う意見を言っていました。これからもそうなのですよ。党議拘束をかけて憲法審査会で議論をするようなことは過去も一度もなかったし、これからもないです。それは一人一人の国会議員としての見識でやっているわけですから、『自民党の条文イメージ案だけを議論しろ』みたいなことは、今後、討議拘束をかけるようなことはありえないです。今までもなかったです。

 先ほど、ちょっと誤解されているのは、『3分の1くらいは憲法9条2項を削除しろ』という意見はあったかも知れないけれども、そうするとまとまらないからトータル的に自民党としてまとめたのが先ほどの案ですということです」

我々は元々『平和安全法制は合憲だ』と位置づけている!? 『安保法制は違憲だ』という野党と食い違いは明確! 論議進展は困難!?

 司会者である水上貴央弁護士は、自ら下村氏に「『今回の(自衛隊明記の)加憲で、今よりも自衛隊ができることが拡大するわけではない。今の自衛隊は合憲だから』という話をされているのですが、今の自衛隊というのは、いわゆる安全保障法制が通って以降の一応、限定的とは言っても集団的自衛権が行使できて、世界中で活動できる。その自衛隊が合憲になるということですか?」と質問。

 これに対して下村氏は、次のように答えた。

 「これは、平和安全法制と直接は関係ありません。つまり憲法で自衛隊を明記するということは、自衛隊の存在そのものを憲法によって位置づけるということで、そのことによって今の平和安全法制のようにさらに拡大解釈をさせることではなく、我々としては元々『平和安全法制は合憲だ』と位置づけているわけですから、平和安全法制は平和安全法制として位置づけるし、自衛隊を憲法に位置づけることは直接連動する話ではないと思います」

 さらにやりとりは以下のように続いた。

水上弁護士「元々、合憲だと思っているのであれば、それで(平和安全法制で)できることは全部合憲だと。もともと『違憲だ』と思っていないと」

下村氏「ですから自衛隊を憲法に明記することによって、さらに合憲化させようのではなくて、元々合憲なのだから、あくまでも憲法に」

 下村氏は「安保法制は合憲」と主張する。そこで、筆者(横田一)は次のように質問してみた。下村氏とのやりとりは以下の通りである。

横田一「それが枝野(幸男)さんとの違いではないですか? 枝野さんは『安保法制は違憲だ』と言っているわけですから。そこが一番のポイントなのではないですか?食い違ったままだと、いつまで経っても憲法改正(論議)が進まない」

下村氏「食い違っているから国会で議論をするべきではないか、ということじゃないですか。他の法案もそうだけれども、与党野党を含めて特にこういう問題は全員がほとんど一致して同じ意見というのはありえない話ですから」

横田「だから野党は違憲の安保法制をまず(合憲に)変えることが先決だと言っているわけですから。憲法改正が先だというのは、順番が逆なのではないですか?」

下村氏「『逆だ』と考える方もいらっしゃるかも知れないが、我々はあくまでも憲法で加憲で自衛隊を明記するというのは、安保法制と直接関係する話ではないというふうに思い続けています」

 下村氏は「食い違っているから国会で議論をするべきではないか」というが、これでは最初から議論するつもりがないといわざるをえないのではないか。

「山尾さんも言われていましたが、立憲がなぜ国会における安倍政権下で(改憲)議論をしないのか?」〜講演で何度も山尾氏の名前をあげて秋波を送る下村氏

 下村氏は30分の講演の中で、以下に示すように、集会に参加していた山尾志桜里衆議院議員の名前を6回もあげている。

1.「山尾さんから声がかかって今日は参りました。他にも日程を出していただいたのですが、11日に党役員人事と内閣改造がありまして、もしかしたら(憲法改正推進本部長を)首になるかも知れないので、やっぱり現役の(憲法改正推進)本部長の時ではないと、インパクトを感じられないのではないかと思って今日、うかがいました」

2.「山尾さんからは『立憲民主党の支持者の人が多いかも知れないから、アウェーかも知れない』と。そういうところで議論をしないと本当の憲法議論にならないと思います」

3.「国民投票やCM規制の議論をしながら、できたら同時並行で、この間、テレビに出た時も山尾さんもそういうことを言っていたので、是非、立憲(民主党)の中で広げていただきたいと思っていますが、同時並行ですね。自由討議をしていただきたい。我々は自由討議の中で自民党の条文イメージ案を説明をしたい」

4.「山尾さんも言われていましたが、立憲がなぜ国会における安倍政権下で(憲法改正についての)議論をしないのか。安倍政権は非常に強権的だから、いざ議論をしたら、そのまま憲法改正が進んでしまって、そういう人達から見たら、改悪なのではないかと恐れていると」

5.「(憲法改正の条文案については)立憲ではないけれども、山尾さんは山尾さんで提案をされることもあるでしょう。他の党もあるでしょう。その中で、例えば、9条については議論をしながら原案にまとめていくことをしていこうということであれば、3分の2以上の発議になるかも知れない」

6.「憲法9条は変えない。それから今の自衛隊をそのままの存在として、憲法に明記をする。これによって自衛隊の拡大権限を与えることはしない。これに対して、テレビでよく、最近憲法議論で山尾さんと出る機会があって、『これはウソだ』と。『安倍総理はそう言っているかも知れないが、9条の2項は、今の自衛隊の存在をそのまま表している言葉ではなくて、拡大解釈ができるのではないか』と」

 講演中、下村氏は、安倍政権下での改憲議論を拒否する立憲民主党の枝野幸男代表を名指し「自民党の条文案に反対なら反対で憲法審で議論すべきだ」と批判した。野党にくさびを打ち込んで、山尾氏に代表される改憲論議賛成派を取り込もうと画策しているのは明らかだと思われた。

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