これまで、「独裁国家」ベネズエラに対して制裁一本槍だったトランプ政権が、突然、ベネズエラ危機についてロシアのプーチン大統領や中国の習近平国家主席と話し合う用意があると言い出した。
- ベネズエラ危機で中ロと協議も、対北追加制裁は不要=米大統領(朝日新聞、2019年3月30日)
この背景には、そもそも軍事的に米軍によるベネズエラ侵攻が不可能になったことが大きいと考えられる。
(文・翻訳:尾内達也 文責:岩上安身)
これまで、「独裁国家」ベネズエラに対して制裁一本槍だったトランプ政権が、突然、ベネズエラ危機についてロシアのプーチン大統領や中国の習近平国家主席と話し合う用意があると言い出した。
この背景には、そもそも軍事的に米軍によるベネズエラ侵攻が不可能になったことが大きいと考えられる。
記事目次
米国務省のエリオット・エイブラムス・ベネズエラ担当特使は、3月30日、記者会見の中で、ベネズエラにはすでにロシア製の長距離地対空ミサイルS-300(Antey 2500バージョン)システムが複数配備されていることを明らかにした。
エイブラムス特使の記者会見を伝える記事の中で、独立メディアFort Russ NewsのチーフエディターでNGO融合研究センターのディレクター、ジョアキン・フローレスは、次のように米軍のベネズエラ侵攻が不可能な理由を説明している。
「このシステムが配備されているということは、米国のベネズエラに対する軍事行動の可能性が極めて低くなることを意味する。どの地上軍にとっても航空機による上空支援は非常に重要だが、S-300システムの迎撃性能は非常に高いからだ。
米州機構の加盟国のコロンビアとブラジルが、ボリビア共和国に軍事介入をしない決定を行ったのも、このためである。航空支援なしのジャングル戦は、死傷者という点と社会政治的な不安定さをもたらすという点から見て代償が桁違いに大きくなるからだ。
ベネズエラでは、現在、少なくとも6つのS-300システムを稼働中だが、システム1つでほぼ25機の戦闘機あるいは戦闘攻撃機を同時に標的にすることができる。つまり、6システムで合計150機の戦闘機、爆撃機、戦闘攻撃機、弾道ミサイルさえも、標的にする対空能力があるということである。このシステムの命中率は85%~90%なので、米軍は130機以上の航空機を撃墜される計算になる。
米軍は全部でおよそ1800機の戦闘機・戦闘爆撃機を保有しているが、その多くは世界中に配備されており、ロジスティックスや脆弱性など、多くの理由で全機をベネズエラ攻撃に使用できない。
S-300システムは、米軍の第4世代戦闘機(F-14、F-15、F-16)・第5世代戦闘機(F-22、F-35)および戦闘攻撃機に対応可能で、低軌道を飛行する爆撃機にも対応できる。ベネズエラは現在実践配備されているAntey2500システムのうち少なくとも5基とS-300VMシステム1基を保有すると言われている」
このように、ロシア製の対空システムS-300システムが、ベネズエラに6基配備されたことで、米軍は地上軍に対する航空機を使った上空支援ができなくなり、ジャングルの地上戦だけでは代償が大きすぎるために、軍事侵攻は不可能となるのである。
ベネズエラに対する米国の経済制裁は、腐敗や人権侵害、民主主義の抑圧をその根拠にしてきたが、米国による経済制裁自体が、腐敗や人権侵害、民主主義の抑圧の条件を作ってきた面は、見過ごされてきた。
米国国務省の人権報告書2018は、ベネズエラについて次のように述べている。
「ベネズエラは公式には複数政党制の立憲共和国であるが、10年以上に渡って、政治権力は一つの政党に集中し、ますます独裁色を強める最高指導者が立法、司法、市民の権力(検事総長やオンブズマンなど)、政府の選挙管理事務所に対して大きな統制を加えている」
また、「民主主義」という米国の御旗は、ベネズエラの世界最大の埋蔵量の石油という米国企業が狙う利権を隠す便利な道具立てでもある。
米国の強大な軍事力を背景にした一極覇権主義は、軍事技術的な面から確実に崩れ始めていると言えるのではないだろうか。IWJでは、米国のランド研究所が行った第三次世界大戦のシミュレーションに関する記事を翻訳している。そのシミュレーションでは、米軍は中ロに完敗すると予想されている。日本は思考停止したように米国に全面的に依存し続けているが、米国は自国の安全保障を担保できるのだろうか? ぜひ、あわせてお読みいただきたい。