豊洲市場が開場した10月11日以後も築地市場では、「築地市場営業権組合」に加盟する店舗の業者の方が交代で、営業を続けている。正当な営業権にもとづいて営業を継続している業者をサポートしようと、一級建築士の水谷和子氏らの呼びかけで始まった「場内お買い物ツアー」も連日おこなわれており、IWJは10月11日、15日、16日に同行取材をおこなってきた。
▲「場内お買い物ツアー」(2018年10月18日 IWJ撮影)
10月18日から築地市場解体工事の本格着工に入ると表明していた東京都は、前日10月17日の午後8時に、築地市場の正門を封鎖した。そしてその瞬間を、大手マスコミは、あたかも、豊洲市場への平穏な市場機能移転のための「築地市場の幕引き」であるかのように報じた。
しかし豊洲市場は、開場直前に汚染地下水の複数個所での噴出が発覚するなど、新たな深刻な環境問題を抱えるのみならず、「狭い、危ない、使い勝手が悪い」と、市場としての構造的欠陥が以前から指摘されてきた。開場からわずか一週間足らずで、それらの指摘が決して杞憂でなかったことが、明らかになりつつある。多くの業者が東京都からの圧力により、やむなく豊洲市場に移って営業を始めているものの、現場ではすでに、「築地に戻りたい」という声があがっている。
築地で長年にわたり、品質管理に関わる「茶屋番」と呼ばれる仕事に従事してきた猿渡(さわたり)誠氏は、15日のお買い物ツアーで、「豊洲の現場では『そのうち慣れるよ』という感覚が全然なく、ますます不安が募ってきているという状況がある」と、参加者に訴えた。「そのためにも、安全な築地市場に戻ってこなくちゃいけない。たとえ瓶詰でも何でもいいから、販売することが続くことによって、ここは守られる」と、ツアー参加者への謝辞と、さらなる支援を訴えた。
豊洲市場開場の10月11日から、ほぼ連日おこなわれてきた「場内お買い物ツアー」は、東京都が築地解体工事の本格着工期日と宣言した10月18日にも、当初の予定通りに呼びかけられた。
封鎖された築地正門の向こう側からは都職員が「閉場しています」「警察を呼びます」と繰り返すのみ!
10月18日午前10時20分、築地市場駅から地上に出ると、築地市場正門前は多くの市民とマスコミでごった返していた。前日17日の夜に東京都が閉鎖した正門の向こう側は、フェンスによって視界が完全にさえぎられており、何も見えない。東京都による築地市場解体事業が違法であることを明確に指摘し続けている、明治学院大学・熊本一規名誉教授が、正門の向こう側にいる東京都職員に語りかけ始めた。
熊本名誉教授「これまで11日から16日まで、業者の方々は築地市場内で営業を続けてきました。それは暖簾にもとづく営業だから、都が閉場の根拠としている条例とは何の関係もないんです。暖簾にもとづく営業は、長い間、業者の人たちが営業を続けることで積み上げてきた信用にもとづく権利なんです。それを『卸売条例を改正した』という理由で否定することはできません」
続いて、茶屋番として築地市場での品質管理に携わってきた猿渡(さわたり)誠氏が、門の向こう側に向かって、懸命の訴えを始めた。
猿渡氏「今ここに、買い物をしに来てくださったお客さん、買い出しの方、事業者の方が、市場に入るのを待っているんです。それをなぜ拒否するんですか? 私たちは、営業権にもとづいて商売してるだけなんですよ。それをあなた方が実力で阻止するというのなら、明らかにあなた方は犯罪者なんですよ」
▲封鎖された築地市場正門(2018年10月18日 IWJ撮影)
門の向こうからは相変わらず、「閉場しています」「警察を呼びます」という声が返ってくる。しかしそれは、猿渡氏の訴えに呼応するのではなく、機械的にマニュアルを読み上げているように響いた。
猿渡氏「警察を呼ぶと言うのなら、呼んでください。私たちは逮捕される理由なんか、何もない。私たちがお客さんをお店に案内するのを阻止するというのなら、あなた方は威力業務妨害ですよ」
「百合子がガードマンをやれよ!」末端の業者にまで過酷な役割を押し付ける小池東京都政に、ツアー参加者から怒りの声
正門前での、都職員に向けての呼びかけが30分ほど続けられた後、お買い物ツアーの一行は、富士見橋門まで移動したが、そこでも門は固く閉ざされていた。結局、工事関係者用の通用門から、なんとか市場の敷地に近づくことができた。ゾロゾロとついて来た大手マスコミ各社は、通用門から先は中には入らず、そのまま、外で出待ちをしていた。
卸売業者とお買い物ツアーの参加者、そして何人かの市民メディアは、工事関係者通用門から中に入ったものの、工事現場と市場を仕切るフェンスのところで、工事業者による阻止線に阻まれた。「営業権のある人が入ろうとするのを、どういう法的根拠で妨害してるんですか?」と、参加者が問いかけても、工事業者は顔をそむけるばかりだった。結局、15分ほどの押し問答の末、狭くて不安定なブリッジを通って、1人ずつ、順番に市場の敷地に入ることができた。
ようやく市場の施設に近づくことができたが、今度は都職員が手をつないで人間の鎖を作って待ち構えていた。参加者の中からは、抗議の声とともに、「まだやってんの?」というあきれ声も飛んだ。築地市場営業権組合の共同代表であり、有限会社ムラキの取締役である村木智義氏が、都職員に問いかけた。
村木氏「『入れない』って、子供の喧嘩じゃないんだ。法的根拠を示してください。警察呼ぶって言うんなら呼んでくださいよ。あなた方が威力業務妨害なんだから。『閉場してない』って農水省も言ってるの。あなたたちは築地廃止の手続きを取ってません。申請すらしていないの。閉場だと言ってるけど、あんた方、責任とれるの?
我々は話し合いを求めてるんだよ。何か月も前から。それに何も答えないから、こんなことになるんでしょう? 一般市民、消費者、それから関係事業者の利益を損なうようなことを、都がやっちゃいけないんだよ」
▲卸売業者の市場への入場を阻む東京都職員(2018年10月18日 IWJ撮影)
ここでも、都職員からは木で鼻をくくったような「閉場しています」「警察を呼びます」などの声しか返ってこなかった。熊本名誉教授が、ツアー参加者に向けて語り掛けた。
熊本名誉教授「先ほど、『不法侵入になります』なんて言ってる職員がいたけど、そんなことはまったくありません。というのは、この築地市場が依然として存続しているということは、農水省の室長も都の市場管理課の方も認めているんです。そして、9月10日に農水省が出した『中央卸売市場整備計画』によれば、築地市場は、今までは改築ができる市場だったが、『改築ができない』市場に変更されただけなんです。市場としては、存続してるということですね」
その阻止線には、都職員のほかに多数のガードマンも動員されていた。ガードマンの中には、市民や業者からの訴えに、うつむく人も多かった。末端の業者にこのような役回りを押し付ける東京都政に対しては、ツアー参加者の中から「(小池)百合子がガードマンをやれよ」という怒りの声も聞こえた。
その場でも15分ほどの押し問答が続いたが、少し離れた場所から、簡単に市場施設内に入れることがわかり、ようやく、「お買い物ツアー」を開始することができた。正門前での、熊本名誉教授と猿渡氏による都職員への説得も含めると、すでに一時間が経過していた。
▲「場内お買い物ツアー」(2018年10月18日 IWJ撮影)
「みなさんのご声援あって、この日を乗り越えられました。文字通り、乗り越えましたよね!」
豊洲市場開場の10月11日以降、築地市場では、「築地市場営業権組合」に加盟する店舗の方が交代で営業を続けている。この日は、有限会社杉原水産と、有限会社ムラキの2店舗が合同で出店し、袋詰めの粕漬けの販売がおこなわれた。先ほど、都職員に対し、真剣な表情で訴えかけていた村木氏は、「応援ありがとうございます。みなさん、ほんとうにありがとうございます!」と、テキパキと接客していた。150人近い参加者が次々に購入したが、中には「おつりはいいよ、カンパだよ」という参加者もいた。
15日のツアーを取材した際には、都職員がすぐ側でビデオカメラによる威圧的撮影をしていたが、この日、都職員たちは遠巻きに見ているだけだった。遠巻きに立っている職員の一人に、「今日の業務は、どういう業務なのですか?」と聞いたところ、職員は「責任者に聞いてください」と答えた。続いて「じゃあ、責任者はどこにおられるんですか?」と聞き返したが、彼は黙って何も答えなかった。
また、別の職員に「今日の業務、特にあの阻止線などはつらかったと思うのですが」と話しかけたが、「入場しないでください」と機械的に答えるのみだった。続けて「法的根拠は何ですか?」と聞き返したら「退場してください」と言い、それ以上は何も答えなかった。
ほとんどの職員は、こちらから顔をそむけ、明らかに自信のなさそうな対応をしてきた。小池東京都政が都職員に課している理不尽で無意味な業務は、現場に立つ職員たち自身の心身をも、むしばんでいるのではないかと感じた。
▲「場内お買い物ツアー」(2018年10月18日 IWJ撮影)
この日も、20分ほどで商品は売り切れ、店舗の前は歓声と拍手に包まれた。村木氏が「みなさんのご声援あって、この日を乗り越えられました。(都職員による)門のカベも乗り越えたんじゃないかと思います。文字通り、乗り越えましたよね! これから、もっと正規の営業を、大規模な営業をできるように、がんばっていきますんで、またひとつお願いします!」と、挨拶すると、ひときわ大きな拍手が沸き起こった。
続いて村木氏が、ツアー参加者に市場内部を案内した。マグロの卸売場を通るときには、村木氏は「ここ、結構広いんですけど、全部マグロで埋まっちゃうんです」と解説した。そこには、冷凍マグロの解体機が2台設置されていた。初めて見る冷凍マグロ解体機を前に、多くの市民が、その巨大さに驚きの声を上げた。
村木氏は「今も電気は来てますから、いつでも動かせるんです」と説明した。そして「再稼働するとなれば、といっても原子炉じゃないですよ、すぐ再稼働できるんですよ、築地は! 築地はすぐ再稼働できるんですよ!!」と強調し、大きな拍手が市場内に響き渡った。
豊洲市場は、人間の知恵を発揮できないような作りになっている!
築地における品物の品質管理に重要な役割を果たしてきた「茶屋」の施設で、村木氏はお買い物ツアーの締めの挨拶をおこなった。
村木氏「築地には茶屋の集まる棟が、東にも西にもあります。それぞれの茶屋が、20軒や30軒のお客さんの荷を管理するから、何千、何万というお客さんが来られても、整然と買い出しができるんです。開場以来ずっと、今日も豊洲の正門は混雑しました。そういう混雑がないように、できるんですよね。人間の知恵の力で。
(豊洲市場は)確かに近代的な建物だけど、その、人間の知恵を発揮できないような作りになってるんです。いろんな問題がありますが、それが 一番いけないことなんじゃないかと思います。先人の何百年という苦労が積み重なってできたものを、壊すっていうのはおかしい。
▲「場内お買い物ツアー」(2018年10月18日 IWJ撮影)
今のしっかりしてる科学は、別なところで使えば、いい市場ができるんじゃないかと思います。築地は、ちょっとリニューアルすれば、本当に近代的ないい市場になるはずです。今は改装期間だと思っておいてください!」
この日のお買い物ツアーが終わり、出口へ向かう途中で、湯島で居酒屋を営んでいるという男性A氏に話を聞いた。A氏は、お買い物ツアー初日の11日から、毎回欠かさず参加してきたという。
IWJ「いつも、築地に仕入れに来られてるんですか?」
A氏「毎日、豊洲に行ってからこっちに来てます」
IWJ「どうですか、豊洲は?」
A氏「自分はバイクなんですが、とにかく遠いですね。買い出し人にとっても、遠くて不便ですが、仲卸さんはもっと大変だと思いますよ」
IWJ「現場の仲卸さんから、何か具体的にお話しは聞かれましたか?」
A氏「聞くのが気の毒で、あまり聞かないようにしてますね。ただ、誰も納得してないんだな、というのは肌で感じます」
IWJ「築地の今後については、どのように思われますか?」
A氏「さっき、村木さんもおっしゃったように、ちょっと手直しすればいつでも再開できると思いますね。今、この時期にリフォームするのがいいと思うんですけどね」
IWJ「お店のお客さんとは、築地のことについてお話しはされますか?」
A氏「やはり、みなさん知らないんですよね。『豊洲に行くのがなぜまずいんですか?』というところから、話をしなけりゃいけないというか」
▲「場内お買い物ツアー」(2018年10月18日 IWJ撮影)
何人かのツアー参加者は都職員に対し、外に出るために正門を開けるよう要求した。しかし、都職員はかたくなに拒否したため、工事現場のフェンスの隙間にかけられた狭いブリッジを渡って、1人ずつ退出することになった。その場所に立って、参加者一人一人に声をかけていた村木氏と、杉原水産の代表取締役である杉原稔氏に話を聞いた。
IWJ「東京都は、水道と電気は止めていないんですね?」
村木氏「都は18日にストップすると宣言してたんです。だから供給停止を強行するんじゃないかな、と今朝まで思ってたんですけど、やっぱりさすがに、止められないんだよ。我々は違法なことしてるわけじゃないし、料金だって払ってるし。
東京都の言うことすべて、めちゃくちゃです。築地市場廃止の手続きも取ってない。 申請すらしてないの。本当に違法、違法で押し切ってきてますから」
IWJ「今日、東京都がここまで強硬に来ると、思っておられましたか?」
杉原氏「昨日、門を閉めた時点で、それは思ってました。今日は入れてよかったです」
IWJ「明日以降はどのようにされますか?」
杉原氏「どういう風にするか、仲間と相談しようと思います。どうしても、これは遂行したいですから」
なお、18日にNHKは「(中略)東京都によりますと、午前11時ごろ、移転に反対し旧築地市場での営業継続を求めている業者や支援者などおよそ100人が、都側が立ち入りを禁止する中で敷地内に入りました。その後都の担当者が説得を行い、敷地の中に入った人たちは午後2時までにすべて敷地の外に出たということですが(中略)」と報じている。
- 豊洲開場1週間 築地でトラブル(NHK NEWS WEB 2018年10月18日)
都の職員が機械的に繰り返していた「閉場しています」「警察を呼びます」などの警告を、NHKは「説得」と呼ぶのだろうか? 営業継続を求める業者とツアー参加者の行動に非があるかのように報じるならば、NHKは、東京都の広報機関に成り下がったと言われても仕方ないのではないか。
また、18日に「立ち入り禁止」を掲げた東京都は、「豊洲での営業権を取り消す」という脅しのために、営業中にビデオ撮影するなど、築地市場内で営業を続ける業者に対して、法的根拠のない不当な圧力をかけ続けてきた。
「築地市場の場内で営業が可能であること」と「築地市場解体事業は違法であること」については、明治学院大学・熊本一規名誉教授が、明快に指摘している。全文文字起こしの、下記記事を、ぜひご覧いただきたい。
大手マスコミは、豊洲移転にともなう問題を矮小化し、築地の幕引きに加担するばかりに見える。IWJは今後も、築地市場再開に向けた人々の営みに注目していきたい。