【特別寄稿】翁長前知事の沖縄県民葬で菅官房長官に『嘘つき!』と怒号の嵐! 安倍総理との初面談では辺野古強行姿勢に玉城知事は「訪米宣言」と野党連携で対抗!(ジャーナリスト・横田一) 2018.10.16

記事公開日:2018.10.16 テキスト
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(取材・文:横田一)

 2018年10月9日に那覇市内で開かれた翁長雄志前沖縄県知事の県民葬(約3千人参列)は、菅義偉官房長官による安倍晋三総理の追悼文代読で、厳粛な雰囲気が一変した。

▲県民葬で安倍総理の追悼文を代読する菅官房長官(2018年10月9日、那覇市、横田氏提供)

 実行委員長の玉城デニー知事が「われわれ沖縄県民は(辺野古新基地阻止に尽力した翁長前知事の)遺志を引継ぎ、若者に平和で豊かな誇りある沖縄を託せるよう努力し続ける」という式辞を述べた時には静寂に包まれていたが、菅氏が代読後半で沖縄の基地問題に対する方針について説明を始めた途端、「嘘つけ」「嘘つき」という男性の声が響き渡った。そして菅氏が代読を終えた瞬間、何人もの参列者に抗議の思いが連鎖して「いつまで沖縄に基地負担を押しつけるんだ!」「私たちの願いを聞いて下さい!」「沖縄をなめるな!」の怒りの声が噴出、「嘘つき!」「帰れ!」コールと共に会場内は30秒以上にわたって騒然とした。

「県民に寄添う」を貫く玉城知事と言行不一致の「安倍口先政権」!?

 参列者の逆鱗に触れた安倍総理の追悼文の問題部分は以下の通り。辺野古新基地阻止で命を削るようにして安倍政権と対峙してきた翁長前知事が、あたかも安倍政権と基地負担軽減で足並みを揃えていたかのような絵空事(作り話)を平然と述べていたのだ。

 「(前略)翁長前知事は『沖縄に基地が集中する状況を打開しなければならない』という強い思いをお持ちでした。沖縄県に大きな負担を担っていただいている。この結果はとうてい是認できるものではありません。『何としても変えていく。政府としても出来ることは全て行う。目に見える形で実現する』という方針の下、基地負担の軽減に向けて一つ一つ確実に結果を出していく決意であります。

 そして、これからも沖縄県民の皆様の気持ちに寄り添いながら、沖縄の振興、発展のために全力を尽くして参ります。沖縄の発展に尽力された翁長前知事の功績を偲び、追悼の辞といたします。平成30年10月2日、内閣総理大臣・安倍晋三。代読・内閣官房長官菅義偉」

▲菅官房長官に参列者から怒りの声が噴出した(2018年10月9日、那覇市、横田氏提供)

 3日後の10月12日、安倍総理と菅官房長官との初面談を終え、知事就任挨拶で国会を訪れた玉城知事に、県民葬に参列した社民党の又市征治党首はこんな心情を明かした。

 「菅さんもあんなことを言ったら(「嘘つき!」といった声が)出るわな。私も言いたかったけれども政党代表でヤジを言う訳にはいかなかったから、一言も言わなかったけれども、あの気持ちは分かるよね」

 これに対し玉城知事は「はい。『(県民に)そういう思いがある』ということは事実ですので」と賛同。続いて又市氏が「それ(県民の気持ち)を受けて止めてもらわないといけない」と安倍政権に注文をつけると、玉城知事も「受け止めていただくしかないのです」と繰り返した。

 他の野党幹部のとらえ方も同じだった。県民葬会場の出入口で囲み取材に応じていた共産党の志位和夫委員長は、「政府が『基地負担軽減』『県民に寄添う』という言葉は口にしても、沖縄県民には『実態は違う』『実際に起きていることは新基地建設ではないか』という思いは広くあるのではないか」と指摘した。

 同じく記者に取り囲まれていた立憲民主党の辻元清美国対委員長にも聞くと「安倍総理は(この県民葬に)来るべきでした。沖縄に来るのが恐かったのではないですか。それでは総理大臣は務まりません」と総理の欠席を問題視した上で、菅官房長官の代読で「嘘つき」の声が出たことについては次のように批判した。

▲囲み取材に答える立憲民主党・辻元清美国対委員長(2018年10月9日、那覇市、横田氏提供)

 「魂の叫びではないか。県民葬でそういう声は誰も言いたくはない。しかし言わざるを得ない状況に沖縄を追い込んでいる。『翁長知事がなぜ命を縮めたのか』を沖縄県民はよく分かっているのではないか」「最新鋭の辺野古新基地を作るわけだから全然、(追悼文で代読した)『基地負担軽減』になっていない。真逆ですよ。矛盾していると思うし、詭弁だと思います」

対照的なNHKと報道ステーションの県民葬報道

 野党幹部は言行不一致の安倍総理の追悼文をいっせいに批判したが、メデイアの報道ぶりには違いがあった。「官邸広報チャネル」のような安倍政権寄りの歪曲報道をしたのはNHKだ。「沖縄 翁長前知事の県民葬 約3000人が別れ惜しむ」と銘打ったニュースで、菅氏の代読で怒号が響き渡ったハイライト場面について、絵空事の菅氏の代読部分を無批判で引用するだけで、「嘘つけ」「嘘つき」という言行不一致批判の声を紹介せず、代わりに「帰れ」の野次で代表させたのだ。NHKアナウンサーが読み上げた以下の原稿を読み直して欲しい。野次を飛ばした沖縄県民の方に「落度」があるようにしか受け取れない原稿である。

 「菅官房長官が安倍総理大臣の追悼の辞を代読し、『翁長前知事は、文字どおり命懸けで沖縄の発展に尽くされ、ご功績に心から敬意を表する。政府としても基地負担軽減に向けて一つ一つ確実に結果を出していく決意だ』と述べました。一方、この間、複数の参列者から『帰れ』などの野次が上がり、一時騒然となりました」。

 権力に擦り寄った世論操作報道とはこのことだ。これでは、まるで基地負担軽減に真摯に取り組んでいる菅官房長官に対して、県民が「帰れ」という失礼な野次を飛ばしたという現実離れした印象を与えかねない。嘘で固めた追悼文の文面をなぞるだけでなく、「基地負担軽減」と口先では言いながら辺野古新基地建設を強行する言行不一致ぶりも紹介しないと、なぜ「嘘つき」という声が浴びせられたのかを伝えることができないはずだ。NHKは、報道機関の役割をかなぐり捨て、官邸広報番組へと成り下がったとしか思えない。

 対照的だったのが「報道ステーション」(テレビ朝日系)。「菅官房長官に怒号 翁長前知事の県民葬」と題して同じ場面について「参列者からは『嘘つき』と繰り返し怒りの声が上がった」と紹介していた。どちらの番組が県民の思いを忠実に伝えていたのは明らかではないか。

安倍政権の辺野古新基地建設強行姿勢は玉城知事との初会談でも不変!? ――玉城知事は早期訪米と野党連携で対抗!

 辺野古新基地建設阻止に最後まで尽力した翁長前知事の県民葬で、実際とは真逆の「基地負担軽減」という嘘八百の追悼文を菅官房長官に代読させた厚顔無恥の安倍総理は3日後の10月12日、玉城知事と官邸で初面談を行った。しかし県知事選で二度示された民意を無視して新基地建設を強行する姿勢に変わりはなかった。玉城知事は政権トップとナンバー2とのやりとりを、同日の野党幹部への挨拶回りでこう振り返った。

 「安倍首相は非常にフレンドリーな雰囲気で、会談時間が15分間から30分間になりましたが、辺野古問題については『従来の方針は変わらない。普天間基地の危険性除去(閉鎖)も辺野古新基地に(海兵隊を)移さないといけない』と話し、菅官房長官も同じ論調でした。そこで私は『(沖縄県知事選で)二回、辺野古新基地反対という民意が示されたわけだからアメリカの世論に対して堂々と反対を訴えたい。日本は、アメリカの民主主義で戦後復興を成し遂げてきた。そのアメリカの父を持つ私がアメリカ国民に民主主義を訴えることは極めて正論だと思う。アメリカの国民世論に訴えます』と言いました。すると、菅官房長官は『それはやられた方がいいのではないですか』と答えましたが、ちょっと固まった表情でした」

▲野党各党幹部への挨拶回りをする玉城知事 上・立憲民主党、中・国民民主党、下・日本共産党(2018年10月12日、横田氏提供)

 県知事選で支援を受けた立憲民主党や国民民主党、共産党などに挨拶回りをした玉城知事は、辺野古新基地阻止などで野党と連携することを確認。そして最後に訪ねた古巣の自由党では、小沢一郎代表らが「素晴らしい選挙だった」と拍手で出迎え、組織力で上回る自公に勝利した県知事選について談笑。「9月22日の大集会、感動した」と森ゆう子参院議員が切り出すと、玉城知事は節目になったと強調した。

 「(9月22日の総決起大会で翁長前知事の奥さんの)樹子(みきこ)さんが話したことが結果的に県民に対する激になったわけですよ。『負けられませんよ。ぬちかじり(命の限り)頑張りましょうね』という言葉がさらに拡散をして行って、『これに答えなかったら沖縄県民ではない』という気持ちが広がって行った。本当に良い結果が出せて良かった」。

 さらに森議員が「翁長知事が『玉城さんの明るさや責任感に期待した』と言ったという話を聞いた」と話すと、玉城知事は出馬表明直前をこう振り返った。

 「最初、僕の名前が出た時には『はー、何でですか』と思いましたよ。それはきっかけではありましたが、小沢代表と一緒に野党各党を回って『決めるのは君だよ』と言われて、『ここまで来たらやるしかないな』と思った時に、こんなことを言うのはおこがましいのですが、沖縄のビジョンは考えれば考えるほど世界なのです。日本ではない。『私たちが向かうのは世界なんだよな』と考えた時に未来を担う子供たちが、『沖縄を見ているのは世界だよ』ということを作ってあげられる気分になったのです。本当に『パイレーツ(海賊)になって大海原に漕ぎ出して行こう』という気持ちでした。

 本当に沖縄の可能性をしっかり実現できれば、日本全体に広がっていくし、それが政権交代をした時に、『ほら』という新しい政府の姿になっていく。いやー、小沢代表、まだ引退できませんよ(笑い)。大事なところですよ。私たちの船出は始まったばかりです。(県知事選で掲げた)『新時代沖縄』、そして『新時代日本』。そこに向かって行きます」

▲「古巣」自由党でも拍手で迎えられた玉城知事(2018年10月12日、横田氏提供)

 古巣だけあって最もアットホームな談笑となった自由党訪問の直後、「政権交代」という言葉を口にした意味についてぶら下がりで聞いてみた。

横田「『政権交代』と言ったのは、今回の県知事選をモデルに衆院選で勝って行くということですか?」

玉城知事「私たちの船出の目的地は政権交代ですから。『漕ぎ抜いて行こう』という気持ちですね」

横田「市民と野党が連携した『オール沖縄方式』を全国に広げていけば、政権交代につがなると?」

玉城知事「そう、そう」

横田「それで『政権交代を実現するまで小沢一郎先生は引退できない』と?」

玉城知事「新時代日本を実現するまでは引退できません」

横田「そのことを沖縄から発信していくと?」

玉城知事「発信していきます」

 父親がアメリカ人で母親が沖縄生まれの日本人のハーフであり、野党共闘の要の国対委員長を務めた国会議員の経験も持つ玉城知事の強みが浮彫りになる。それは、アメリカを含む国際世論に民意無視の安倍政権の独裁的体質を訴えると同時に、国対委員長時代の人脈を活かした野党連携(市民参加型の野党選挙協力)で政権交代を実現することにも関与できるからだ。

 「11月にもアメリカに行きたい」と野党幹部に早期訪米の意欲を示した玉城知事は、国際世論による外圧と「オール沖縄方式」による政権交代を両にらみにしながら、辺野古新基地阻止を実現しようとしているように見える。「安倍政権の終わりが始まった」と言われるほど中央に衝撃を与えた沖縄は、今後政権交代の気運を高める震源地となるのではないか。

 沖縄、そして玉城デニー新知事の動きから目が離せない。

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