辺野古新基地建設が最大の争点の「沖縄県知事選」(2018年9月30日投開票)は、自公と維新と希望が推薦する前宜野湾市長・佐喜真淳候補と「オール沖縄」支援の前衆院議員・玉城デニー候補の一騎打ち状態だが、最終盤となった今も「どちらが勝っても不思議ではない」(地元記者)という大接戦となっている。
(取材・文:横田一)
特集 2018年沖縄県知事選
辺野古新基地建設が最大の争点の「沖縄県知事選」(2018年9月30日投開票)は、自公と維新と希望が推薦する前宜野湾市長・佐喜真淳候補と「オール沖縄」支援の前衆院議員・玉城デニー候補の一騎打ち状態だが、最終盤となった今も「どちらが勝っても不思議ではない」(地元記者)という大接戦となっている。
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当初は「推薦する自公維希の政党基礎票で上回る佐喜真候補が逆転勝利するのではないか」との見方もあった。実際、巨大戦艦のような組織力抜群の自公が知事選の告示前からフル稼働、自民党国会議員があらゆる業界の企業・団体をしらみつぶしに回って支援要請をする一方、公明党も山口那津男代表ら国会議員が沖縄入りすると同時に、原田稔会長や佐藤浩副会長らトップも含む創価学会員がローラー作戦を県内全域で展開。そのため、「知名度で劣っていた佐喜真氏が自公の人海戦術で次第に浸透していき、玉城氏を途中で逆転する」という世論調査のトレンドであったのだが、「期日前投票の出口調査で佐喜真氏の頭打ち傾向が出てきて、台風24号の影響で投票率がそれほど下がらなければ、玉城氏が逃げ切るだろう」との見方が有力になってきたといわれている。
「もちろん『公明党支持者(創価学会員)は出口調査に答えないことが多い』という特徴がありますので、『無回答分はほとんど佐喜真氏支持とカウントすると佐喜真氏勝利』となりますが、今回の場合は、建設業界総決起大会で『期日前投票実績調査票』が配布されるなど業界団体への締付けが激しいので、例えば、建設会社社員が実際は玉城氏に入れたのに『佐喜真氏に入れた』と答えたり、創価学会員と同じように無回答であることも十分に考えられます。
また台風24号接近で投票率が下がれば、無党派層の支持で上回る玉城票が減ることになります。無回答分の『隠れ佐喜真票』と『隠れ玉城票』の割合、そして投票率の下がり具合という不確定要素があるので、どちらが勝利するのかが読みきれない状況なのです」(地元記者)
実際、自民党関係者からは「台風24号接近で神風が吹いた。投票率60%を下回るのなら佐喜真候補が勝利するだろう」との声が出ているという。台風24号は「投開票前日の29日に沖縄に最接近した後、スピードを速めて30日には本州上陸をする」との予報が出ているため、投開票日の天候が何時ぐらいに回復するかが投票率を左右すると考えられる。台風の通過速度も県知事選の結果に影響を与える一要因になり、結果が予測しにくい混沌状態となっている。
巨大戦艦のような組織力で上回る自公がフル稼働で支援する佐喜真氏が頭打ちとなってしまったのか。事情通はこう話す。
「最後の週になって『すんなり逆転できない』という頭打ちの傾向が佐喜真氏に出て来たのです。自公が懸命に物量作戦、人海戦術を展開しても十分に浸透していないようなのです。業界団体に支援要請をして決起大会を開き、期日前投票実績調査票を配って締め付けてはいますが、本当に大事なのは人の顔が見えるところで何人回って話をしているかなのです。
選対に入っている小沢一郎代表の助言でしょうが、玉城候補と翁長知事の息子の那覇市議がいろいろな人に会って支援を要請しているのが効いています。
それに加えて、玉城陣営は自公推薦候補に敗北した6月の新潟県知事選の教訓を活かしています。野党幹部が現地で揃い踏みをして『新潟から安倍政権に打撃を与える』と訴えても有権者に響かなかったことを反省。今回は野党幹部が勢揃いする街宣は一回もなく、枝野幸男代表が沖縄入りして街宣をした時も玉城氏と一緒ではありませんでした。辺野古新基地阻止を貫いた翁長知事の弔い合戦ということを強調、巨大戦艦の自公と互角以上の戦いをしているといえます」(事情通)。
沖縄の医療関係者はこう話す。
「佐喜真氏はとにかく『金、金、金』なのです。8月に病院にやってきて、数十人で話を聞きましたが、辺野古新基地のことは触れずに、『当選したら中央から沖縄振興予算を引っ張ってくる』というような話ばかりをしていました。表立って反論しないでしょうが、ウチナンチューの反発を買うと思いました」。
まさに安倍政権との太いパイプを誇る佐喜真氏もまた、「札びらで県民の頬を叩いて基地容認をさせる」という歴代自民党政権が続けてきた「アメとムチ」の基地政策を引継いでいるといえる。そんな中で、菅義偉官房長官の「携帯料金4割値下げ発言」が16日の那覇市内での佐喜真氏支援の応援演説で飛び出したが、「偽札で県民の頬を叩く」と言われても仕方がない虚偽発言の疑いがある。25日付「琉球新報」が「沖縄県知事選公約『携帯料金を削減』 知事や国に権限なし」と銘打った記事で、国も県も携帯料金値下げの権限を有していないと指摘していたからだ。
「候補者が掲げる『携帯電話料金4割削減』について総務省に確認すると『国の法で料金をこれにしようと言える権力はどこにもない』と説明する。携帯電話会社に関する電気通信事業法には、料金を引き下げたり、引き上げたりする規定はなく、どこにもその権限はないとした。法改正で規定することもできるが、その動きはない」(2018年9月25日付け琉球新報より抜粋)
菅官房長官は、実際には出来ないことをまるで出来るかのように印象づける虚偽発言をして佐喜真氏支援を訴えたのではないか。これは、ウソを垂れ流して特定の候補を当選あるいは落選させることを禁じる公職選挙法虚偽事項公表罪に抵触する可能性がある。
25日の菅義偉官房長官の会見で東京新聞の望月衣塑子記者は、こう問い質した。
「菅長官の支援する佐喜真氏は携帯料金4割削減を求めると掲げています。これは県知事が決められるものではありませんが、もともと菅長官は知事選の結果に関係なく、全国で4割を削減すべきとお考えでしょうか」
これに対し菅氏はこう答えた。「あなたの要望にここは答える場ではありません。いずれにせよ、沖縄の選挙のことについては本人に聞いていただければ、と思います。ただ私は発言したことについては責任を持って対応するということです」。
以前の寄稿記事で紹介した通り、菅氏は佐喜真氏への応援演説で「(携帯料金4割値下げの)そうした方向に向かって実現をしたいと思っております」と発言している。できないことをまるでできるかのように印象づける「フェイク演説」をしたと言われても仕方がないのだ。
菅氏は「私は発言したことについては責任をもって対応する」と答えている。選挙に影響を与える発言を、選挙期間中の沖縄でマイクをもってしたのだから、沖縄の人々に届く形で、この選挙期間中に自分の発言の訂正・撤回・謝罪をしなければいけないはずだ。選挙後に発言の撤回をしても、有権者へ影響を与えたあとであり、遅すぎる。
また、県知事選でどんな結果が出ても、菅氏の発言が公選法虚偽事項公表罪に抵触するのか否かは厳しく検証していく必要があるだろう。
三度も沖縄入りをして佐喜真氏支援を訴えた小泉進次郎筆頭副幹事長も、翁長知事の名前を出しながら辺野古の「へ」の字も言わずに、県民所得のアップを最も強く訴えた。
「全国の都道府県の平均所得が319万円。沖縄の皆さんは212万円。一生懸命働いても他の都道府県に比べて、107万円も一人当たりの所得が少ないのが沖縄なのです。こんなに魅力があって、こんなに多くの人が訪れるようになった沖縄がこのまま他の都道府県と比べて、107万円稼げないままでいていいわけがないのです。だから暮らしを良くする。107万円の壁を越える。そういう県を作っていくのが、佐喜真さんではないでしょうか」(27日の那覇市内の応援演説)。
しかし翁長知事については「今まで頑張ってきた翁長知事がお亡くなりになったことによって、この時期に知事選挙が始まって」としか語らなかった。二回目の応援演説でも「思いの違いはありましたが」とまでは話しても、安倍政権と翁長知事の「思い(立場)の違い」について具体的に説明することもなかった。翁長知事の名前を出しながら、亡くなる直前まで頑張ってきた「辺野古新基地建設問題」について全く触れないのは、翁長知事に対する冒涜ではないのか。
辺野古に触れずに県民所得アップを訴える佐喜真氏と、翁長知事の遺志を引継いで辺野古新基地阻止を訴える玉城氏が一騎打ち状態の県知事選の結果が注目される。