「石井機関ができた1930年代と今とがオーバーラップ」研究者が戦争に協力する時~湘南科学史懇話会「なぜ、今、731部隊か」講師・常石敬一神奈川大学名誉教授 2018.5.3

記事公開日:2018.5.13取材地: テキスト動画
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(取材:IWJ編集部 文:栗原廉)

※2018年6月7日、テキストを追加しました。

 「731部隊が生み出された昭和初期と現代の日本には共通点がある。憲法改正や軍事研究が進められようとする今、歴史が繰り返されようとしている。この状況を、皆さんはどう思われますか?」

 憲法記念日を迎えた2018年5月3日、生物化学兵器の研究で知られる常石敬一神奈川大学名誉教授は、「なぜ、今、731部隊か」と題された講演の中で、時代の風潮に警鐘を鳴らした。

 湘南科学史懇談会が神奈川県藤沢市の藤沢市民会館で開催したこの講演会の前半、常石名誉教授は自身の研究経歴を時代の流れと共に概観し、後半では大日本帝国陸軍の研究機関であった731部隊について最新の研究成果を発表した。

▲講演会での常石敬一 神奈川大学名誉教授

 731部隊は第二次世界大戦の満州国において、生物兵器や化学兵器の開発のために人体実験を行い、結果として数千人が犠牲になったと言われている。そして、この時の実験をもとに書かれた論文によって、複数の研究者が博士号を取得していたことが明らかになった。ここに、「戦後の日本医学界に潜む闇がある」と常石名誉教授は語った。

記事目次

■ハイライト

  • 日時 2018年5月3日(木)14:00~18:00
  • 場所 藤沢市民会館 1階第2展示ホール(神奈川県藤沢市)
  • 主催 湘南科学史懇話会(詳細)

 IWJでは2018年4月14日に京都大学でおこなわれた常石名誉教授の講演と記者会見を録画し、4月21日に録画配信をおこなった。ぜひ以下より録画のアーカイブをご覧いただきたい。

「平和を守ると威勢は良いが……。平和はつくりだすものだ」 憲法記念日、安倍政権への警鐘から始まった講演

 「平和を守るためというが、憲法を変えて海外の紛争に加われば、かえって火に油を注ぐことになる。平和は守るものではない、つくりだすものである」

 講演の冒頭で常石名誉教授は、憲法記念日の5月3日当日に「改憲を目指す」とした安倍晋三総理への怒りを表明し、現在の日本で起きていることに警鐘を鳴らした。

 5月3日のこの日、安倍総理は自民党総裁の立場で、美しい日本の憲法をつくる国民の会と民間憲法臨調が共催したイベントにビデオ・メッセージを寄せ、改憲の目的を「わが国の安全を守るため」と述べている。これに対して常石名誉教授は、「そこには在日韓国・朝鮮人の安全も含まれているのか。自殺や過労死による犠牲者が出ない社会を目指すことでこそ、国民の安全は守られるのではないか」といくつかの疑問を呈した。その上で、常石名誉教授自身の研究者としての経歴を時代背景とともに辿っていった。

 なお、今回の常石名誉教授の講演では731部隊による人体実験の詳細については触れられていない。IWJでは、この問題について慶應義塾大学の松村高夫名誉教授による2015年の講演会をテキスト付きの記事として作成している。読者の皆様には、今回の講演会と合わせて、ぜひ、ご一読いただきたい。

731部隊、陸軍軍医学校跡の人骨、オウム真理教によるサリン事件 ~常石名誉教授の科学史研究と時代の流れ

 常石名誉教授は、自身が研究者として歩んだ道のりを、その時代ごとの象徴的な出来事とともに振り返った。高校2年の時に起きた1960年の安保闘争に始まり、三里塚闘争、大学闘争を学生として過ごした激動の時代を、常石名誉教授は「自分の思想の骨子が築かれた時期」として捉えている。

 その後、東京農業大学で物理助手を務めた後、1973年には科学史の研究者として長崎大学に赴任する。科学史を研究する基盤が整ったこの時期に、常石名誉教授は731部隊の研究を始めており、学術雑誌にもいくつかの論文を投稿している。

▲常石敬一 神奈川大学名誉教授

 1989年、常石名誉教授は神奈川大学に教職を移した。その後、間もなくして、東京都新宿区戸山の旧陸軍軍医学校跡で大量の人骨が発見され、731部隊との関連が疑われた。そのため、常石名誉教授は「陸軍軍医学校で発見された人骨問題を究明する会」の代表を務めることとなる。

 また、1993年4月には731部隊に関する展覧会が市民団体の手で実施されることとなった。常石名誉教授はこの展覧会と、1989年に旧西ドイツで開催された「人間の価値展」を対照的に見ている。人間の価値展は、ナチスの下で人体実験に加担した医師たちについての展覧会で、西ドイツの医師会によって開催された。これに対して、731部隊の展覧会では日本医師会の参加はなく、両国間での歴史認識の差が浮き彫りになったという。

 そして、オウム真理教による地下鉄サリン事件が日本中を震撼させた1995年、常石名誉教授は「毒ガスの専門家」として一躍注目を浴びることになった。これは、松本サリン事件が発生した時点で、松代の旧日本軍基地が毒ガスの発生源ではないかという問い合わせに対して、旧日本軍の開発していた毒ガスと被害者の症状が合致しないことを理由に、サリンなど他の化学兵器が使われた可能性を指摘したことがきっかけであった、と常石名誉教授は振り返る。

 次に常石名誉教授は、今なお、他国と比べて対応が遅れていると指摘される日本の結核対策について、20世紀初頭に労働衛生を研究した石原修氏と、陸軍軍医の小泉親彦氏の役割に注目して解説した。石原氏は『女工哀史』に描かれたような大工場の女性労働者が、不衛生な環境にとどまることを余儀なくされたために、結核感染が拡大したことをつきとめた。小泉氏は、公衆衛生改善のため厚生省設立の立役者となり、現在まで普及するBCG接種を推し進めた。

 もっともBCG接種は結核予防の最善の方法ではないと、常石名誉教授は指摘する。終戦を迎えた1945年から1968年までの期間、米国統治下の沖縄県では結核対策としてのBCG接種は行われなかったが、この間、10万人あたりの死亡率は沖縄県の方が本土よりも低くなっている。

 それにもかかわらず、日本では直近でもACジャパンによる広報活動など、結核対策としてBCG接種が薦められている。なぜ、BCG接種は今まで続いているのだろうか?常石名誉教授は、科学界、具体的には日本の医学会の姿勢を、その理由に挙げた。ワクチン製造から接種に至る一連のプロセスは、税金を介して巨大な利権構造となっているというのだ。このあたりは、子宮頸癌ワクチンの副反応問題と深層部でつながり合う。

 IWJでは子宮頸癌ワクチンについても様々な角度から取材を行っている。ぜひこれらもあわせてご覧いただきたい。

 そして、731部隊から安倍政権による軍事研究への資金供給に至るまで、政府が科学界とどのような関係を保つかという問題が潜んでいる、と指摘する。731部隊の経緯を鑑みても、当初は「学問の独立性・中立性を守る」と政府が言っていても次第に介入が顕著になり、「ストーカーのように(科学者を)追ってくる」と常石名誉教授は警告する。

 講演の前半を通して、常石名誉教授は現代の日本社会の右傾化に繰り返し釘を刺した。2018年は明治維新から150年ということで、明治以降の日本の歴史を称揚する動きがある。しかし、明治維新から第二次世界大戦の終戦に至る道のりで、多くの戦争犠牲者が出てしまったことや、他国への侵略という負の側面を抱えていることも事実だ。そして、常石名誉教授によれば、「現代の日本は、731部隊が設立された1930年代と重なる点が多い」という。講演の後半で、常石名誉教授は最新の研究結果と共に、その詳細を解説した。

1930年代の日本と現代との共通項 ~科学と軍事が接近、731部隊設立に至った背景とは

 731部隊が設立された頃の日本の歴史を振り返ると、現代との重なりが見えてくる、と常石名誉教授は指摘する。当時は、1923年の関東大震災、1925年の治安維持法制定、そして1929年の世界大恐慌という社会を震撼させる出来事が数年おきに起きていた。1932年、731部隊の隊長を務めた石井四郎中将率いる石井機関の中核となる防疫研究室が陸軍軍医学校に開設された。翌1933年には、日本学術振興会が安全保障技術、つまり軍事技術への資金援助を開始する。

 こうした過去の経緯に呼応するような出来事が、現代にも起きている。時期は前後するものの、2009年にはリーマン・ショックが世界経済を混乱に陥れ、2011年の東日本大震災は原発事故も相まって、日本社会に非常に大きな衝撃を与えた。また、軍事的な侵略行為こそないが、米国抜きのTPPが結ばれれば、その範囲は大東亜共栄圏とも重なることを常石名誉教授は指摘する。そして、2018年3月には日本政府が報道の自由勧告を拒否した。国境なき記者団とフリーダムハウスが各々発表する報道の自由度ランキングでも、2012年末に安倍政権が始まって以来、日本の順位は下がる一方だ。

 1930年代の歴史は、その後、日本が太平洋戦争で敗北することでいったん区切りがついた。終戦に至るまでの道のりは、731部隊による人体実験を含めて、莫大な犠牲者を生み出した「悲劇」であった。しかし今、この道のりを日本が再び歩むとすれば、それは「茶番」であると常石名誉教授は言う。そして、この歴史的な重なりを強調した上で、731部隊についての最新の研究成果を発表した。

(…会員ページにつづく)

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  1. @55kurosukeさん(ツイッターのご意見) より:

    「石井機関ができた1930年代と今とがオーバーラップ」研究者が戦争に協力する時~湘南科学史懇話会「なぜ、今、731部隊か」講師・常石敬一神奈川大学名誉教授 https://iwj.co.jp/wj/open/archives/419838 … @iwakamiyasumi
    負の歴史に向き合わず、過去の清算をしなかった国は同じ過ちを繰り返すのか。嫌な予感がする。
    https://twitter.com/55kurosuke/status/1004679836621684736

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