2018年2月20日午前8時40分ごろ、青森県三沢市の米軍三沢空軍基地を離陸したF-16戦闘機が離陸直後、エンジンから出火した。安全確保のため、事故機は両サイドの燃料タンク2基を青森県東北町の小川原湖に投棄した。燃料タンクの投棄自体は「マニュアル通りの対応だった」と米軍は説明している。
しかし、燃料タンクが投棄された場所から、約200メートル離れた地点では、10隻ほどの漁船がシジミ漁をしていた。その漁船に乗っていた漁師の一人は、「突然15メートルほどの水柱が立った。仲間の漁船のすぐ近くだった。『竜巻か?』とも思ったが、直ぐに飛行機だとわかった」と証言している。
▲F16戦闘機(Wikimedia Commonsより)
燃料タンクが投棄されたのは、米軍三沢基地内にあった通称「像の檻」と呼ばれる姉沼通信所付近から500メートルほどの場所だった。
沖縄を中心に、頻繁に繰り返される米軍機事故や米軍機からの部品落下事故。しかし、青森が沖縄と異なる最も大きな点は、事故を繰り返す米軍機の基地からわずか30キロメートル北に日本原燃株式会社の六ヶ所再処理施設があることだ。
事故後2日目の2018年2月22日、IWJ青森中継市民のしーずーさんが、事故現場となった小川原湖からレポートした。以下に伝える。
▲氷の張った湖面で事故処理にあたる海上自衛隊(2018年2月22日しーずー氏撮影)
IWJ青森中継市民のしーずーさんが小川原湖現地で事故処理にあたる海上自衛隊の様子を取材!
青森県で最低気温マイナス6度という、大寒波が猛威をふるった2月20日に事故は起きた。事故翌日の2月21日は、青森市内で104センチの積雪を記録するほどの悪天候だった。3日ぶりの晴天となった2月22日、小川原湖畔にある小川原湖公園に取材に向かうことができた。
タンクや油の回収に向けた自衛隊の調査は、小川原湖で22日朝8時から本格的に開始。海上自衛隊大湊(おおみなと)地方隊の隊員がゴムボートに乗って、燃料タンクが投棄された現場を中心に油膜の確認を行った。
自衛隊による午後の調査が13時から開始、隊員が乗ったゴムボートが小川原湖の桟橋から出発した。途中、湖上の結氷によりゴムボートが進まず、氷を割っているのが確認できた。その調査中にも、F-16が何度も爆音をあげて上空を通過していく。
真冬の小川原湖の湖面は結氷し、自衛隊の作業を阻む。自衛隊のゴムボートは落下地点付近に到着したが、氷で進めない。調査のための航路を確保するために漁船が合流した。
その後、オレンジ色のオイルフェンスが小川原湖公園に到着。オイルフェンスとは、石油類などが事故等によって河川、湖沼、海などの水面上に漏洩・流出した場合にその拡散を防止する目的で水域に展張する浮体。自衛隊員はそのオイルフェンスを桟橋に並べた。
13時30分過ぎ、ヘリコプターが調査に合流。燃料タンクの破片や、油膜が出ている上空を幾度も旋回していた。
水面の氷は漁船でも割ることができないらしく、ヘリコプターが湖面近くまで高度をさげ、プロペラの風圧で割ろうと試みていると思われる様子も確認できた。
15時に自衛隊の燃料タンク調査は終了し、ゴムボートは桟橋に帰着。結局この日、ゴムボートに積まれていた油膜除去の吸着シートは使うことすらできない状況だった。
▲疲れきって湖上調査から戻った自衛隊員。油膜除去の吸着シートは未使用のままだった。(2018年2月22日しーずー氏撮影)
▲一方、三沢米空軍基地関係者は輪になって話をしているだけのように見えた。
桟橋上では、調査関係者などから取材陣に対して説明などがあったが、この間も説明者の声が全く聞こえなくなるほど、三沢米空軍の戦闘機の爆音が港に響いていた。
▲2月22日午後、投棄された燃料タンクを調査した自衛隊のゴムボートの航路(しーずー氏提供)
現地での取材を行った2日後の2月24日、自衛隊は燃料タンクの破片23個と、タンクを主翼とつなぐ長さ3メートルほどの部品2個を湖底から引き揚げ、米軍が基地へ持ち帰ったことが報じられた。
翌25日には自衛隊は、燃料タンクの破片41個を回収し、米軍に引き渡したとのこと。東北防衛局三沢防衛事務所(三沢市)は、25日午前までに回収した破片や部品が「全体の約75%分に当たる」と米軍から連絡があったと、明らかにした。
- 海自、投棄タンク「大部分回収」(ロイター、2018年2月25日)
流出した油により全面禁漁!米軍は抗議を受けての謝罪のみ!? 補償は日本政府!?
小川原湖漁協は今回の事故によって流れ出た油の影響などを憂慮し、全面禁漁を決めた。同漁協によると、この時期は最盛期を迎えているシラウオ、ワカサギ、シジミ漁で1日300万円以上の売り上げがあり、そのうちシジミ漁による売り上げは、1日200万円以上に上るという。
小川原湖漁協の濱田正隆組合長は2月21日、メディアのインタビューに答え、「残念ですが、今もってアメリカ軍から(直接)ひと言も謝罪も何もない。命をとられる間際までやられました」と、涙をこらえて顔をゆがませた。
漁再開の目安となる水質調査の結果が出るまでには、事故発生から2週間程度かかるとのことだ。
影響は漁師だけではない。シジミやシラウオ・ワカサギなどが禁漁になれば、当然その加工場も仕事がなくなる。
小川原湖漁業協同組合は22日、濱田組合長らが三沢市の三沢防衛事務所を訪れ、スコット・ジョーブ司令官、東北防衛局長宛ての抗議文を提出。湖の上空での飛行停止、タンクや燃料の早期回収、小川原湖の水環境や生物の安全性確保、補償などへの十分な対応を要請した。
これに対し米軍側は基地幹部が「多大なるご迷惑をお掛けした」と述べただけだという。
濱田組合長は「本来ならトップの司令官が現場に赴いて町や漁業者に謝罪し、事故の状況や今後の対応を説明するのが当たり前だ」と不快感をあらわにしている。
小野寺五典(いつのり)防衛相は2月24日午前、三村申吾青森県知事と同県三沢市で会談し、「漁業者が休漁を余儀なくされていることを大変重く受け止めている。(補償に)しっかり誠意を持って適切な形で対応したい」と表明した。三村氏は小野寺防衛相に再発防止と、漁業や観光などへの被害の補償を要請した。
その後、小野寺防衛相はヘリコプターで上空から小川原湖の投棄現場を10分程度視察した。
- 青森漁協、防衛省に補償要請(毎日新聞、2018年2月22日)
しかし、そもそもなぜ米軍の起こした事故の補償を、国民の税金を使って防衛相が肩代わりしているのか。日本は日米地位協定のもと、自ら主権国家であることを放棄しているのではないか。