民進党の有田芳生議員は、「法務省人権擁護局の岡村局長は、土・日は自らヘイトスピーチ・デモへと足を運び、その実態を自身の目で確かめていた」と法案成立のエピソードを明かした。
2017年5月10日、東京都の参議院議員会館にて、「ヘイトスピーチ解消法成立1年~求められる人種差別撤廃基本法」と題した院内集会が開催された。有田芳生参議院議員、弁護士の北村聡子氏、国士舘大学教授の鈴木江理子氏、武蔵大学教授のアンジェロ・イシ氏、神奈川新聞デジタル編集委員の石橋学氏らが登壇し、ヘイトスピーチ解消法の施行(2016年6月3日)から1年が経過した今、その成果と現状を報告した。
有田議員は、「同法の施行直後、当てつけるように、川崎市中原区でヘイトスピーチ・デモが行われたが、10メートル進んだところで中止になった」と語り、法律の一定の成果を評価したが、この問題に理解を示していた岡村局長が去ったあとの人権擁護局の姿勢には苦言を呈し、さらに、差別問題への取り組みに消極的な警察庁や外務省の対応に落胆を隠せなかった。
北村氏は、「ヘイトスピーチ解消法施行後、デモは減ったが、(差別主義的な)街宣活動は目立って減ってはいない。ヘイトスピーチを行う者たちも、『~的』など婉曲的な表現で対抗している」と実態を挙げ、「ヘイトスピーチ解消法の施行はスタートラインで、今は、お試し期間。これからは人種差別撤廃条約に則した、人種差別撤廃基本法を作っていかないと、振り出しに戻る」と話した。
鈴木氏は、「法務省外国籍住民アンケート調査」の結果を分析し、「雇用差別や待遇差別など、日本語ができても、3割の外国人は差別を感じた」と指摘。日系ブラジル人3世のイシ氏は、「ヘイトスピーチ解消法は、ノイジー(うるさい)な差別発言者には有効。だが、サイレントな差別主義者、差別を黙認するサイレント・マジョリティ、また、差別に抗議ができないサイレント・マイノリティへの対策も必要だ」と述べた。
石橋氏は、各地方自治体の法律に向けた対応を報告。「ヘイトスピーチ解消法の施行は前進だ。川崎のルールは全国のルールになる」との福田紀彦川崎市長の言葉を紹介した。その一方、「在特会の桜井誠氏は、法の網をかいくぐるかのように政治団体を立ち上げた」と語り、懸念を示した。
※ヘイトスピーチ解消法(本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律)が、2016年5月24日に国会可決、2016年6月3日に公布・施行された。2014年4月、小川敏夫議員、有田芳生議員ら、超党派で設立した人種差別撤廃基本法を求める議員連盟が提出した議員立法だ。この法律では、不当な差別的言動の解消のための基本理念・基本施策を定め、国等の責務を明らかにし、これを推進することを決めている。基本的施策として、国は、相談体制の整備、教育の充実、および啓発活動などの実施を、地方公共団体は、実情に準じて、これらの基本的施策を実施するように努める、とした。