「戦争ビジネスに加担している銀行は、名指ししてはずかしめていく」
米人気俳優のジョージ・クルーニー氏が、南スーダンの情勢に危機感を表明している。その姿が、世界中の注目を集めている。
サルバ・キール大統領派とリエク・マシャール元副大統領派との対立が続く南スーダンは、2013年12月以来、事実上の「内紛」状態にある。この内紛で数万人が犠牲になり、兵士によるレイプ、略奪、暴行が後を絶たない。
2015年8月26日には、キール大統領とマシャール元副大統領とのあいだで和平合意が締結された。しかし、2016年7月には首都のジュバで大規模な武力衝突が発生し、JICA(国際協力機構)関係者93名がチャーター機でケニアに退避する事態に発展した。正確な数字は公開されていないものの、この衝突によって、市民を含む百数十人から数百人が死亡したという。
「和平合意」は事実上破綻したも同然である。なぜ南スーダンの情勢は、ここまで悲惨さを極めるのか。
2016年9月12日、ワシントンで記者会見を開いたクルーニー氏らは、自身の立ち上げた調査団体「セントリー」の内部調査で、対立するキール大統領とマシャール副大統領、双方の側近将軍たちが、戦争犯罪によって金銭的な利益を得ていることを突き止めた、と発表した。
戦争の主導者が戦争で利益を得続ける限り、戦争終結は遠のくばかりである。クルーニー氏は、戦争犯罪の資金源になっていると知りながら、南スーダンで金融取引を続ける国際金融機関に向けて、「名指しする」と警告を発した。
クルーニー氏らの「セントリー」は、南スーダンの実情を映像で公開した。IWJは、同団体の許可を得た上で、動画に日本語字幕をつけたので、ぜひ、ご参照いただきたい。また、本稿では、同団体から提供を受けた写真素材を、「セントリー提供」と注記して、随所に用いている。
南スーダン情勢を見れば、戦争が継続していることは一目瞭然であり、本来なら、日本の自衛隊はこのような場所へ派遣されるはずではない。PKO政策Q&A(注)には、「紛争当事者の間で停戦合意が成立していること」と明記されているからである。
(注)PKO五原則
1)紛争当事者の間で停戦合意が成立していること
2)当該平和維持隊が活動する地域の属する国を含む紛争当事者が当該平和維持隊の活動及び当該平和維持隊へのわが国の参加に同意していること。
3)当該平和維持隊が特定の紛争当事者に偏ることなく、中立的立場を厳守すること。
4)上記の基本方針のいずれかが満たされない状況が生じた場合には、我が国から参加した部隊は、撤収することが出来ること。
5)武器の使用は、要員の生命等の防護のために必要な最小限のものに限られること。
- 外務省HP「PKO政策Q&A」より PKO政策Q&A ~PKO参加5原則とは何ですか。
だが日本政府は、明らかに事実誤認としか言いようのない理屈を並べて、南スーダンが「紛争下」にあることを認めまいとしてきた。
10月11日の参院予算委員会で答弁に立った安倍総理は、ジュバでの7月の武力衝突をめぐり、「『戦闘行為』はなかったが、武器を使って殺傷、あるいは物を破壊する行為はあった」と、およそ理解に苦しむ発言をした。
また、10月8日に南スーダンを現地視察した稲田朋美防衛相は、7時間の滞在ののち、「(ジュバ市内は)7月の衝突がありましたが、落ち着いている」と記者団に述べた。
そうした現実を現実としてありのままに認めない、現実否認の詭弁を積み重ねたあげく、ついに11月15日、南スーダンPKOに派遣する自衛隊に「駆けつけ警護」の新任務を付与することを閣議決定してしまった。
駆けつけ警護の新任務を付与される「青森陸上自衛隊第9師団普通科第5連隊」については、IWJは青森中継市民・外川鉄治記者による、貴重な青森現地からのレポートとしてアップしているので、ぜひお読みいただきたい!
日本政府の閣議決定の翌日16日、国連の潘基文事務総長は、南スーダンについて「大規模な残虐行為が発生する非常に現実的な危険」があるとする声明を発表した。日本政府の危機認識と180度違う。
声明の中では、「国連の平和維持部隊は南スーダン国内での大量殺戮を阻止できない」とまで、述べているのである。
- AFPBB 2016年11月17日 南スーダンで「大規模な残虐行為」の危険 国連事務総長が警鐘
安倍政権の述べている「戦闘行為はない」「落ち着いている」は、もはや誰の目にも詭弁・虚言としか映らない。
「駆けつけ警護」とは、「警護」とは名ばかりで、実際には戦闘行為に参加することにほかならない。南スーダンの現状を見れば、自衛隊員が銃撃戦などに巻き込まれ、生命を危険にさらされるであろうことは、容易に想像がつくはずである。
なぜ日本政府は自衛隊の「駆けつけ警護」の実施に向け、ここまで必死になるのだろうか?
稲田防衛相は、防衛装備品を受注する、川崎重工業、三菱重工業、IHIなど複数の防衛産業株式を、夫名義で大量に保有していたことが発覚しており、インサイダー取引の疑いすら出ている。
積極的に海外の戦争に参加することで、防衛費を増やし、防衛産業株を吊り上げてみずからの私服を肥やしたい――そんな思惑が透けて見えはしないか。閣僚の利益のために、自衛隊員の生命が危険にさらされるようなことがあってはならない。
南スーダンの「戦地のリアル」を、ぜひ、この検証レポートでお確かめいただきたい。