「リオ五輪の閉会式から帰ってきたら結論を皆さまがたにお伝えする」
2016年11月7日に移転予定日の迫る築地市場移転問題。残り3ヶ月を切ったところで、8月16日、小池百合子都知事が築地市場と豊洲の新市場現場視察に赴いた。
豊洲新市場には、土壌や水質、空気中の汚染の問題、施設の設計の問題、物流に不可欠な動線の問題、さまざまな問題が山積している。このまま移転を決行すれば、そこで働く市場関係者、市場の食べ物を口にする都民の健康に深刻な問題が出る懸念が拭い去れない。一方で、豊洲新市場は完成間近であり、すでに莫大な予算がつぎ込まれてきたことも事実である。
移転推進派、反対派が真っ向からぶつかる中、移転の決行/延期について小池知事はまもなく結論を出すようだ。要注目である。
視察時間は全体で1時間半、20分が築地、残りが豊洲視察にあてられた。
視察は、メディアの同行は許可されず、指定位置での撮影と囲み取材のみとなった。「築地移転については情報をオープンにしていく」とした小池知事だが、これが「オープン」と言えるものなのか? 疑問が残る視察となった。
この日の視察は、築地市場から始まった。基本的にはメディアの同行が許されない中、築地では屋上の視察のみ、例外的にメディアも同行が許可された。屋上で何を見るというのだろう? 悪い冗談のようなメディアへの取材制限である。
- 日時 2016年8月16日(火) 13:30~
- 場所 築地市場(東京都中央区)および豊洲市場(東京都江東区)
「古い」「狭い」「危ない」――築地市場の現状を説明する係員の「誘導的」な案内
8月16日はお盆まっただ中。市場は休場だった。明朝からの再開場に向け、大型トラックが待機していた。様子がつぶさにわかるのは、市場に屋根がないからである。築地市場は、フラットな開かれた市場なのだ。
この点について、現場の担当者は小池知事に説明した。
「路上で荷物を降ろしてフォークリフトで売り場にもってくる。そういうことを苦心してやってきています。この施設は、昭和10年(1935年)に建てられた施設。実は、トラックが想定されていなかった時代の設計で、貨車で荷物を運ぶことを念頭に作られています。そういうところで荷捌きを行わなければならないのが現状でございます」
担当者の説明には、築地市場がいかに「古いか」、「不便か」を強調するような響きがある。加えて、内部の設備についても、「旧式だった時代の建物なので、ここの仲卸売り場では温度管理ができない。柱はあるが壁がないので冷房をきかせても、冷気が保てない」と、「ネガティブな側面」を強調した。
▲「わあ、すごい」――屋上から築地市場全体を見下ろす小池知事
担当者の「ネガティブな説明」は続く。
「こういう中なので、私たちが最も気にしていることは、事故を起こさないようにすること。大型トラック、小型積み下ろし車がひしめくわけで、年に400件ほど接触事故が起きます」
「築地では、多いときで1日9トンもの発泡スチロールが廃棄になります。築地内に溶解処理施設があり、溶かしてインゴッドにして原料として引き取ってもらうようにしていますが、これの置き場も大変。9トンともなると山のようになり、それだけで動線をふさぎます」
「今の施設がどれほど使い勝手が悪いか」ばかりが語られた説明は、事実にもとづいてはいるだろうが、「だから豊洲への移転が必要」という論調に誘導している感が否めない。築地市場の屋上での小池知事の視察は、築地のマイナス面をこれでもか、これでもか、と頭に詰め込まれることに終始した。
実はしっかりした地盤と頑強な建造物で東日本大震災を乗り越えた築地市場――対する豊洲新市場の深刻な「液状化」問題
古い、狭い、危ない、だから豊洲市場への移転はやむを得ない――これは、とても納得のいく論理とは思えない。
温度管理の問題、廃棄物処理置き場の問題は、移転をしなくとも、現場の改築・増築で補えることではないのか?
築地市場の「狭さ」の問題については、後ほど説明するように、豊洲新市場でもまったく改善されていない問題である。むしろ豊洲新市場では、肝心の仲卸売場などは築地市場より狭いのだ。業者の売り場面積は今より狭く、現在はかろうじて確保されているマグロ解体スペースも、豊洲では確保できていない。
築地は「狭い」といいながら、もっと「狭い」豊洲へと移動する愚。ますます悪い冗談としか思えない。
▲築地市場の場内配置図
さらに、屋上から目視してもわからないことだが、築地には豊洲に優る大きな地の利がある。「地盤」だ。東日本大震災で震度5弱~5強の揺れに見舞われた豊洲では、地中から水や砂が噴出する深刻な「液状化現象」が見られた。一方の築地で「液状化現象」は起こっていない。「古い」とされる建物もびくともしなかった。地盤が堅固だからである。
災害への強度で言えば、市場の施設についても、築地に軍配が上がる。関東大震災直後に造られた建物なだけあって、耐震構造もしっかりしており非常に頑強だ。みかけの「古さ」は問題ではない。外壁・内壁の「古さ」などは、いくらでも塗かえたり、装いを変えたりできる。建物は、中身の堅固さが重要なのである。
IWJはこれまで、長年にわたって築地市場と豊洲新市場の取材をしてきた。ぜひ、下記の特集ページもご参照いただきたい。
「古さ」「狭さ」「危なさ」を強調する築地市場の担当者の説明を聞いただけで、知事が「豊洲への移転は不可欠だ」などと結論するようであれば、「勉強不足」とのそしりを免れない。
「狭い」はもはや築地以上!? 目の当たりにした立体型豊洲新市場の欠陥
豊洲新市場の視察では、撮影許可ポイントは3か所のみ。しかも、築地では行われた撮影ポイントでの簡単なブリーフィングも、豊洲新市場では行われなかった。撮影許可ポイント以外の場所で、小池知事が何にどのような反応を示したのか、記者は知る余地もない。
▲豊洲新市場の場内配置図
新市場の担当者も、本来ならメディアの取材が入ればプラスになると考えるはずだ。築地市場との違いを都民に見せ、「新市場はこれだけ素晴らしくなった」とアピールできる絶好の機会だからだ。しかし、新市場の担当者によるメディアへの対応は一切なかった。
▲豊洲新市場を視察する小池知事百合子知事
豊洲市場6街区に到着した小池知事は、担当者からブリーフィングを受けると、そのまま足早に水産仲卸売場棟へと向かった。
▲(上下)豊洲新市場の仲卸売場――売り場の狭さが目立つ
豊洲新市場の水産仲卸売場を実際に見てみると、まず目につくのはその「狭さ」である。豊洲新市場は市場全体のスペースの広さが強調されるが、売場のスペースの一つ一つを取ってみると、なんと幅は1m40cmほどしかない。築地市場の売場よりずっと狭いのである。
報道陣に配布された行程表によると、知事一行はその後、水産卸売場棟と屋上ヘリポートを視察してから、5街区の青果棟へと移動した。
青果棟では、「豊洲新市場予定地における土壌汚染対策等に関する専門家会議(2007年5月~2008年7月)」座長を務めた、前和歌山大学理事の平田建正(ひらたたてまさ)氏へ、ヒアリングを行なったようである。平田氏との間にどのような会話がなされたのかは、明らかにされていない。
排水処理に関して、都はこれまでに複数の識者を招いて専門家会議を行ってきた。今後、小池知事が平田氏以外の専門家へもヒアリングを行うのかどうか、定かではない。
次に小池知事が報道陣の前に姿を現したのは、青果棟の外にある排水処理施設であった。小池知事は、そこでも何も語ることなく、地下へと続く排水処理施設の階段を降りていった。
1時間後、地下から出てきた小池知事に、メディアはようやく囲み取材を行なうことができた。
視察を終えた小池知事「豊洲市場は最高級の施設」「世界でもまれにみる新しい市場」
小池知事「東京の、そしてある意味日本の胃袋に相当するこの豊島(ママ)、そして築地市場でありますけれども、安全性の確認、使い勝手、いろんなご要望も関係業界の方々からいただいております。ヒアリングも行いました。
築地から豊洲への移転について、本日は自分の目で見て、どのような改善策があるのか、問題点はないのか、そのことを確かめにまいりました」
記者「具体的に何か問題点や改善策で、お気づきになったことはありましたか?」
小池知事「まず築地はほんとに歴史ある建物であります。そこから今度は、近代的な豊洲に移ろうという話であります。施設も最高級といってもいいんじゃないでしょうか? 世界でもまれにみる新しい市場だと思っております。
しかし一方で、ちょうどオリンピックの予算が途中から莫大な額に膨れ上がったとのと同じように、豊洲新市場への移転でも、元々の予算から合計で5800億円という、とてつもない予算に変わってきているということです。どうしてそんなにお金が膨らんでいったのか、確認されなければいけない。こう思っております」
移転決行/延期の判断間近!? 「リオ五輪の閉会式から帰ってきたら結論を皆さまがたにお伝えする」
記者「(移転決定の)結論なのですが、いつ頃をめどに、というのはありますか?」