築地市場の豊洲移転計画が浮上した2001年から約15年。新市場の開場日である11月7日まで、いよいよ3ヶ月を切った。水産仲卸業者586社のうち、過半数以上の319社が移転スケジュールの見直しを求めるなど、移転日が近づくにつれて、移転「反対派」と「推進派」の声が二分している。
今月2日に就任したばかりの小池百合子新都知事は、まもなく、移転「延期」か「決行」かを判断すると見られ、高い注目が集まっている。土壌汚染問題や新市場の構造的な欠陥を二の次にして、スケジュールありきで移転計画をゴリ押しするのだろうか。
2016年8月12日、移転反対派、推進派双方から意見を聞くため、小池知事は築地市場関係者を都庁に集めた。仲卸業者ら3名の移転反対派が知事に面会した一方、推進派からは「水産卸売」「水産仲卸」「水産小売」「青果卸売」「青果仲卸」「青果小売」などから各1〜2名ずつが参加。総勢9名が名を連ね出席したが、人数の不均衡さからは、東京都がどちらの意見に、より熱心に耳を傾けているかがよく分かる。さらに、「都政の見える化」を掲げている小池知事だが、冒頭の挨拶部分以外は、報道陣を閉め出したクローズな場で行われた。面会終了後、記者の囲み取材に応じた市場関係者らに、記者から質問が相次いだ。
- タイトル 小池百合子 東京都知事と築地市場関係者らによる会合 ―会合冒頭と市場関係者への囲み取材
- 日時 2016年8月12日(金)14:45~
- 場所 東京都庁(東京都新宿区)
移転推進派が小池知事に「安全宣言」を要求〜土壌汚染は本当に大丈夫なのか!?
鈴友三浦水産の三浦進氏は、移転延期を求める理由として「準備不足」をあげた。新市場へはアクセスが悪く、ゆりかもめはJRに比べて始発時間が1時間も遅い。市場の仕事は早朝5時前から始まる。従業員の通勤手段はどう確保すればいいのか。このままでは、働き手が辞めてしまう可能性があると三浦氏は懸念した。未だ、新市場のテナントの賃料がいくらになるのかさえ知らされていないといい、東京都の情報開示の在り方にも異議を唱えた。
開場予定の11月は、一年の中でも一番の繁忙期だ。店舗の引っ越し作業は関係者にとってあまりにも大きな負担となる。三浦氏はオリンピックありきで進む移転計画に不満をもらし、「準備不足なので11月7日は延期してください、というのが今回の主旨だ」と、小池知事に延期を申し入れたことを報告した。
そして、移転計画の中で当初から問題視されているのが、土壌や大気中で見つかった汚染物質だ。最近になって、新市場の建物内の大気中に発ガン物質のベンゼンが検出されたことも明らかになった。専門家は土壌と地下水に残った大量の汚染物質が、室内に入ったとしか考えられないと指摘。豊洲は新たな「都民の台所」となる。汚染問題は広く都民一人ひとりの健康に悪影響を与えかねない。
いまだ土壌汚染の調査が済んでいない「未調査地点」も残っている状況の中、移転推進派は土壌汚染対策は「おおむね合格だと思っている」と移転に邁進する。その上、移転をスムーズに進めるために、「安全宣言を出してほしい」と小池都知事に要望したことを報告した。
しかし、健康被害につながりかねない高濃度汚染の疑いを、根拠も乏しく「安全」だと宣言するのは、あらたな「安全神話」の誕生に他ならない。IWJ記者が、「検出されたものが本当に安全だという確証を示した上での、安全宣言を求めるのか」と聞くと、水産仲卸業者で築地市場協会副会長の伊藤淳一氏は、「それは都の方で考えることだ」と都に判断を丸投げした。
小池都知事はこの日、反対、推進両者の意見に耳を傾けたが、何か判断を示すことはなかったという。8月26日に開かれる定例会見で、移転計画について何かしらの決断を下すと見られている。
豊洲移転反対派は「準備不足」を訴え!テナントの家賃がいくらなのかさえ分からない!?
知事との意見交換終了後、市場関係者らが記者の囲み取材に応じた。移転反対派からは水産仲卸業者の関戸富雄氏と三浦進氏、築地場外市場商店街振興組合理事長の鈴木章夫氏が出席した。
記者「移転に関して、それぞれ、どのような立場なのか」
関戸富雄氏「いろいろ懸念があります。まずは、使い勝手。水平構造の築地に対し、豊洲は立体構造です。そこで働く人たちが、どこまで働き方、市場の使い方の頭の転換ができるかということを、経営者としては心配しなければいけない。それを考えると時間がない。できれば延期してもらって、完璧な準備ができたら移転する、という感じだと思います」
三浦進氏「簡単に言うと準備不足。そして、情報開示がなされていない。荷受けさん、お客さん、我々の仲買、それに付属する人達。とにかく、情報をトップの方々が握っていて、出さない。未だに家賃がいくら、何々がいくら、という情報が出てきていない。
普通、引っ越しするなら1LDKから2LDKと、より良い、使いやすい市場となるものだが、それがなされていない。狭い店がより一層狭くなっている。身動きが取れず、仕事ができない。それから、アクセス。ゆりかもめの駅からバスが走るということだが、従業員の人が辞める可能性もあるんじゃないか。(勤務)時間が朝のかなり早い時間からなので。
なぜ11月7日オープンなのか。ほとんどの方は11月と12月は繁忙期で、もう少し延ばした方がいいと話していた。たぶん、東京都の指示だと思うが、『オリンピックがあるから』と。オリンピックありきで、11月に引っ越さないと工期が間に合わないということで、11月7日オープンということ言われました。しかし、準備不足なので、延期してくださいというのが今回の主旨」
築地”場外”市場の500店舗は「取り残される築地市場」とは!?
鈴木章夫氏「私たちの組合は場内ではなく、場外で商売をしている業者の集まり。『取り残される築地市場』ということで、今日は参加しました。
昭和の初めに日本橋から築地に来て、業務用市場として共存して、500店舗の規模のお店を構えている。場内、場外、お互いに長い間ずっと共存してきました。移転されると、分断されてしまう。東京都から何の音沙汰もなく、話し合いの場を持つこともなく、ここまで来てしまった。
今後、移転はするのだろうが、豊洲と築地が共存し、お互いの品物を行き来できるのか。日々、場内から場外に品物が3000個、場外の業者から場内に輸送している品物が5000個ある。それぐらいの数を、今度は豊洲と築地との間でどうピストン輸送したらいいのか。今と同じように配達するためにも、跡地を場外市場に使わせてほしいと要望した」
移転推進派の言い分「昭和30年頃から移転計画があった。11月7日を変更したら混乱が起きる」
次は、11月7日の新市場開場を実現したい推進派から、伊藤裕康築地市場協会会長、伊藤淳一築地市場協会副会長、築地市場青果連合事業協会の泉未紀夫副会長の3人がメディアの質問に応じた。
記者「知事とどのような話をしたのか」
伊藤裕康氏「私からは今までの歴史を話しました。昭和30年頃からの市場の移転や費用の話が出て、『大井へ行こう』と。それを築地の人たちは『無理だ』ということで、『築地でやろう』と築地再生委員ができた。
でも築地でも『できない』ということでこれを諦め、今度は適地を捜して、豊洲を見つけ、『そこへ行こう』ということになった。そうした、今までの経緯を(知事に)話しました。土壌汚染の問題も出てきて、皆でオープンに色々検討して1つの結論を出し、土地の浄化もやってきた。
そういう中で、我々としては、皆で決めた開場日の11月7日が、仮に変更されることになれば、大変な混乱をきたすということで、お話させていただいた」
伊藤淳一氏「従来通り、11月7日の開場でお願いしました。その理由として、年末の繁忙期を控えてオープンするのか、それとも年末の繁忙期前に準備して、それを超えたところでオープンするのか。それで、11月上旬に意見集約した。
土壌汚染に関しては、ぜひ、知事の方から『安全だ』という発言をいただきたいと。土壌の処理についてはおおむねそれでいいと我々は思っている。実際にデータも、それを裏づけるものだと認識している。ぜひ、知事には『安全宣言』をいただきたいと思っています」
推進派が吐露するジレンマ「豊洲に行きたくて移転する人は一人もいない」
泉未紀夫氏「環状2号線は『オリンピック道路』と言われているが、決してそれだけではない。豊洲にとって非常に大切な導線になる。1日も早く通していただかないと、魚屋や八百屋の買い出しにとって、非常に豊洲が遠くなる。
ここにいる私も含め、会長、理事長など、(豊洲に)行きたくて移転する人は1人もいない。ただ築地で、営業しながら建て替える困難さと、時間と費用と成果。次世代に何を残すのか。我々の先輩たちが世界の築地にした舞台を、今度は豊洲に、次の世代に残していく。
彼らが10年、15年を経て、築地を忘れさせるような豊洲市場を作ってくれればいい。誰も行きたくはないが、将来というものを選択した上で、移転せざるを得ない。私たちの組合は投票で83%の『移転賛成』を経てスタートを切った。10数%は態度不明、反対という方がきて、細かく説明をし、納得してもらうまで話をしてきた。
移転計画では2トントラック換算の、5000両以上の車両の事前移転を含めてやらなければならない。この計画だけでも大変な作業だ。もし、一ヶ月、二ヶ月(スケジュールを)やり直すとし、暮れや正月に移転の計画を練り直すなんて到底、考えられない。11月7日を動かすことは、官にも民にも非常に不幸なこと。経済的な問題も非常に大きくのしかかってくるので、開場をずらさないでくださいとお願いしました」
知事は大変よく話を聞いてくれた。小池都知事が大臣をしていたときに、土壌汚染問題が起きた。だから大体のことは分かっていると言いながら、あくまで、都民に安全で安心な食を提供する、『都民の台所』という立場で市場をしっかり見ていきたいという話があった」
ベンゼンの検出で食品や働く人への影響は?「『合格』だと思っている」
記者「環境基準以下ではあるが、環境基準の6割程度のベンゼンが検出され、食品や働く人への健康への影響が心配されていますが、その点はどうか」