「富士山から飛び降りるくらいの覚悟です」
岡田克也代表の任期満了に伴い行われる代表戦に立候補することを決めた、民進党の蓮舫代表代行が2016年8月5日、党本部5階で記者会見を開き、選挙に臨む理由と意気込みを語った。
4月の衆院北海道5区補選から、野党4党との選挙協力を強化してきた岡田克也代表。党内ではこの、野党共闘路線に批判的な議員の発言も目立ち、蓮舫氏が岡田路線を踏襲するのかどうかが注目される。
蓮舫氏は岡田代表からの支持は得ているとしながらも、目指すのは「『蓮舫路線』であり、それ以外ではない」と強調。衆院選における野党との選挙協力については「綱領や政策が違うところと、一緒に政権を目指すことはあり得ない」と明言しつつ、「日本の政治の風景はずいぶん変わった。この新しい動きは大切にしたい」と話した。岡田代表のもとの党執行部も衆院選に関しては「検討が必要」としてきたことから、蓮舫氏の発言は岡田代表の考え方と大きく変わらないとも見られている。つまり、率直な表現をすれば、「煮えきらない、どっちつかず」な立場だ。
しかし、新しい代表を目指す蓮舫氏がイメージを刷新するために打ち出したのが、「批判から提案へ、批判から創造へ」というキャッチフレーズだ。これは何を意味するのか?
「私たちは批判ばかりだと思われている。私は代表としてここを変えたい。私たちには提案がある、提言がある、対案がある。そしてその案を実現できる、立法できる、具現化できる人材がいることを伝えたい」
自身の発信力をもって、批判ばかりではなく提案型の政党をアピールしていきたいと、出馬の理由を話した蓮舫氏。「批判ばかりの野党」というイメージを払拭したい。その意気込みはこれまで共闘してきた共産党とは違うのだ、と言外にアピールしているようにも聞こえる。者からは野党共闘や経済政策、憲法などについて、幅広いテーマの質問が相次いだ。
以下、蓮舫代表代行の冒頭の発言と質疑応答を全文掲載します。
- タイトル 民進党 蓮舫代表代行 代表選出馬に関する記者会見
- 日時 2016年8月5日(金)15:00〜
- 場所 民進党本部(東京都千代田区)
蓮舫代表代行「この9月に行われる民進党の代表選挙に立候補します。
この3月に野党第一党の民進党が生まれて初めて行われる代表選挙です。単なる一政党の代表を選ぶ選挙かもしれません。もしかしたら、大変小さな一歩かもしれません。
でも、私はこの選挙を、政権選択のスタートにする。その思いを持って代表選挙に臨みたいと思います。もちろん向き合うべきは大変高い、高い山です。巨大な壁です。大きな与党です。支持率の高い政府です。向かうべき道が厳しいことも、その道が険しいことも分かっています。
私が持っている覚悟は崖とかスカイツリーとかいうレベルではなくて、富士山から飛び降りるくらいの覚悟です。その覚悟を決めました。
改めて、民進党は何を目指す政党なのか。民進党は何を行いたい政党なのか。
民進党はどんな国を作る政党なのかを、しっかり、多くの皆様に分かっていただける代表選挙にしていきたいと思っています。
野党は一体何のためにあるんだろうと、今回、ずいぶん考えました。
政権が間違った方向とか、政権や与党が国民を幸せにしない政策や納得のできない政治を作ったとき、それをけん制する役割はもちろんあります。
でも私たちはさらにその一歩先に、対案がある、提案がある、提言がある。でも残念ながら国民に届いていません。伝わっていません。
私たちは批判ばかりだと思われています。私は代表としてここを変えたいと思います。私たちには提案がある、提言がある、対案がある。そしてその案を実現できる、立法できる、具現化できる人材がいる。ここに信頼を付け加えたいと思います。
国民の皆様に選んでもらえる政党にしたいと改めて思います。
例えば大臣が、政治と金でお辞めになられた時、その不祥事はおかしいじゃないかと、国民の怒りの声を代弁する役割が野党にはもちろんあります。でも、その先に、なんでこれが問題だったのか、国民がなぜ怒っているのか。解決策はどこか、問題点はどこか、それをしっかりと提案できる政党にしたいと思います。
例えば、国民の年金原資の半分が株式に投資をされました。それが、去年一年間で5兆円を超えてなくなったことが明らかになりました。このこと自体も問題ですが、政府はこの情報を選挙前に分かっていながら選挙後に公表しました。
情報公開の在り方は民主主義を根幹から揺るがしました。怒りの声をもって批判することは野党にとって必要。でも私たちはその先に、どうやったら投資比率を50%から25%に戻せるのか。どうやったら国民の年金不安を払拭できるのかを提案できる政党になりたいと、改めて思っています。
『批判ではなく提案へ』、『批判から創造へ』
私はこの政党を、選んでいただける、信頼していただける民進党に変えたいと、改めて覚悟をもって、今回の代表戦に臨ませていただくことを決めました」
野党共闘:「綱領や政策が違う党と一緒に政権を目指すことはあり得ないが、新しい動きは大切にしたい」
記者「代表戦に出馬する決断に至った、最大の理由は」
蓮舫代表代行「民進党が持っている政策や、民進党の人材が、残念ながら十分に国民に伝わり切れていない。私は自分の発信力を使って、ここを変えていきたいと思いました。提案型の政党に、選択していただける民進党に変えることが出来ると、判断しました」
記者「野党共闘について岡田代表は、衆院選でも、できる限り選挙協力をとおっしゃっているが、その路線は継承するのか」
蓮舫代表代行「まず、政策なくして路線なしです。言わずもがなですが、新しい代表が一番最初に向き合うのは衆院選議員選挙です。政権選択選挙において、綱領や政策が違うところと、一緒に政権を目指すことはあり得ません。これは明言をします。
ただ、去年の夏から今年の夏にかけて日本の政治の風景はずいぶん変わりました。例えば子育ての問題、安全保障、総理の憲法の扱い方に対して、実に多くの人たちが声を上げて動いてくださいました。それは新しい景色だと思っています。その声に対して、全ての野党が向き合って、呼応して代弁をしました。この新しい動きは、私は大切にしたいと思います」
憲法:「憲法9条は絶対に守る。これは私の信念」
記者「安倍政権は憲法改正に向けて、審査会を動かしていく動きがありますが、憲法に対して、どのようなスタンスで臨まれるのか」
蓮舫代表代行「立法府の一員として、審査会が動いたら、当然、積極的に参加します」
記者「民進党として、独自案をまとめた方がいいという意見も党内にあると思いますが、その点については」
蓮舫代表代行「平成17年に、当時の憲法調査会の枝野会長が提言をまとめています。それ以降、調査会も定期的に開かれてきていますし、岡田代表の元でも動かしてきました。
安倍総理は、よく『憲法の対案を』と言われますが、私は憲法に対案はないと思っています。むしろ、憲法9条は絶対に守る。これは私の信念でもあります。
ただ、今年の3月に、旧民主、旧維新が政策の基本合意を交わした時に、『平和主義、主権在民、基本的人権の尊重』という憲法の基本理念は尊重した上で、時代の変化に応じて、必要があれば地方自治の条文の改正を目指すとはっきり明記しています。必要な条文、必要なことが生まれたら、それはしっかり党内で議論をして、提言するのは、当然の成り行きだと思っています」
経済政策:「人への投資と分配が経済の成長につながる」
記者「もし代表に選ばれれば、という仮定ですが、女性初の40代の代表ということになる。女性、世代交代の象徴となることについては」
蓮舫代表代行「女性であるということと、辛うじて40代と、それと、さまざまなバックグラウンドもありますから、多くの世代の皆様にご支持いただけると思っています」
記者「提案型の政党へという発言と重なりますが、識者などからは国民の最大の関心は経済だと。アベノミクスの対案となる新しい経済政策を民進党が打ち出さない限り、選挙戦において、躍進や選挙交代はあり得ないという声をよく耳にします。
『分配と成長の両立』、『人への投資』等々、民進党の基本的な考え方は承知しているが、アベノミクス3本の矢に対抗する、国民が分かりやすいインパクトのある、具体的な経済政策の立案についてはどうお考えでしょうか」
蓮舫代表代行「先月、戦った参議院議員選挙では、私たちは『人への投資で経済再生』という経済政策を前面に出させていただきました。『成長と分配』の考え方は当然、共有をしています。
ただ、現政権は3年半続いてもこの『分配』の成果が出ていません。大企業に財政出動を大胆にしたところで内部留保に変わって、設備投資や賃金には残念ながら回っていない。むしろ、不安定雇用は増えている。私たちは、分配の在り方を大きく変えたい。
育っていく子供たちに、学んでいる学生たちに、不安定な働き方をしている人たちに、そして将来、不安を抱えている人生の先輩方に。むしろ、こちらの分配の在り方の方が消費につながるし、将来の安心にもつながると思っているので、それが結果として経済の成長につながる。この考え方は変わっていません」
「岡田代表の後継者ではなく『蓮舫路線』を作っていく」
記者「昨日のぶらさがりで、岡田代表に決断を報告したところ、決断を支持するという返事があったということをお話されていました。蓮舫さんは岡田代表の後継者という意識はありますか」
蓮舫代表代行「いや、私が代表として目指すのは『蓮舫路線』ですから、それ以外では全くない。昨日の話が誤解して伝わっていると思いますが、昨日の段階でも私はまだ悩んでいました。昨日決断して、今日の会見になっていて、代表とお話した流れでは『どのような判断をしようと支持する』という言い方でした」
記者「先ほど、安倍政権に対して『高い壁』というお話がありましたが、それを乗り越えるために、安倍政権とどこか一番違うと、打ち出していく予定か」
蓮舫代表代行「色々、違うところしかないと思いますが、女性が代表になるという点が一番違うのではないでしょうか。後は経済政策もそうですが、分配の在り方も含めて、かなり対立軸を持っていると思っています」
女性初の総理大臣を目指すのか?「ガラスの天井はいつでも壊したい」
記者「女性初の党首という話がありましたが、自民党も稲田さんが防衛相、丸川さんが五輪担当相、都知事には小池さんがなられて、女性の流れが出てきていると思いますが、こうした動きについてどう思うか」
蓮舫代表代行「最高ですね。女性が、もっともっと出てほしいと思います。今まで、何で出てこなかったんだろうと思うくらいです」
記者「党首になられたら、野党第一党の党首ということで、解散があれば、即、総理大臣候補として選挙で戦うわけだが、総理大臣になる決意はお持ちか。その場合、参院議員のまま総理大臣を目指すのか、衆議院に立候補するか」
蓮舫代表代行「ガラスの天井はいつでも壊したいと思っています。それと、つい先月、私は参院選で東京の方に112万票をいただき選んでいただいた。この立場が重いということは、ぜひご理解いただきたい。そこから先は、もちろんいろいろな覚悟を持って、私は今回、のぞんでいます」
「極寒の冬の時代からようやくスタートラインまで来た。ここからステップアップを」
記者「これまでの民進党にはどこに課題があって、どう直したいのかお考えを」
蓮舫代表代行「政権交代をして下野したところは随分と信頼を失いました。極寒の冬の時代が長く続いていた中で、海江田さんや岡田さんはものすごい努力をして、ようやく新しい第一野党のスタートラインまで持ってこられたと思う。
ここからさらにステップアップする代表選だと思っているので、昔を知っているからこそ、新しさも作り上げていきたい」
細野豪志議員との会談について「もっと本音で、もっと向き合って、お互いが譲れるもの、譲れないものを議論していく」
記者「『蓮舫路線』という話があったが、これは現執行部の路線を継承するのとは少し違うという理解でいいのか。今回、細野さんなど色々な方々とお会いになったと思うが、狙いを」
蓮舫代表代行「狙いは別にありません。私がやるのは『蓮舫路線』です。
党内には色々な方たちがいます。今回、本当に色々な人たちと、こんなに時間をかけて、党の今後について話をすることができたのは本当に貴重な時間でした。
内向きな議論とか、相手を色眼鏡をかけて見ることがあったように言われましたけど、今回、色々な人と話して、そんなこと全然ないなと。
特にもっと小さくなりましたから、もっと本音でもっと向き合って、お互いが譲れるもの譲れないものを議論して。ただ出口は、選んでいただける政党を作るわけですから、その為の努力を、私が先頭に立って、やらせていただきたいと思いました」
記者「次期、衆院選について。共産党は連立政権、国民連合政府という構想を掲げていますが、この構想についてはどのように受け止めているか。野党共闘を呼びかけられた場合、どう関係を築いていこうとお考えか」
蓮舫代表代行「さっきも答えました。
総選挙において綱領や政策が違うところとは一緒に政権を目指しません。これは、考えてもいない。ただ、参院選の総括にもありますが、野党連携のあり方については、これまでの基本的枠組みは維持しつつ、『検討を必要とする』と明言していますので、この一言に尽きると思います」
『批判ではなく提案』というキャッチフレーズは参院選での実感が原点
記者「『批判ではなく提案』というキャッチフレーズはなかなか魅力的だと思いますけど、野党が批判ではなく、というのは言うに易しで難しい。党首討論もなかなかやってもらえない状況があると思います。
これまで、世界の野党の政治家で、そのことを実践して成功した人で思い当たる人はいるのか。それとも『蓮舫路線』をすべて一から作り直すのか」
蓮舫代表代行「この夏の参議院議員選挙の私の実感が全ての原点にあります。どうしても選挙の演説となると、選んでもらいたいという部分では、野党としては現政権の問題点を列挙して、それに対して批判をして、皆さんと怒りを共有して支持を広げていく、というのが伝統的だと思います。
今回、我々はその先にこういう正し方を持っている、どちらを選んでいただけるか。私たちは選んでいただける政治家で、政党でありたいという。この事に関して、街で皆さんの反応はとても良かったと実感している。
国会議員になった当初は批判ばかりで、ある意味、楽なんですよね。けれども、問題の指摘だけでは何の解決にもつながりません。国民の代表であるという、例え野党であろうとしても、問題があったら解決することをしっかり提案していくことは、問題は全くないと思っています。
特段どなたかを意識したものではなく、作っていきたいと思っています」
衆院選での野党、市民との政策協定について「参院選をしっかり検証したい」
記者「衆院選での選挙の戦い方として、前回、参院選では共産党を含めた野党4党と市民団体と連携して、共通の政策を作って戦った。次の衆院選では共産党を含めた野党4党、市民団体を含めて、共通政策を作る考えはあるのか、ないのか」
蓮舫代表代行「基本的には野党連携は政策なくして連携なしだと思うんです。参議院議員に関しては大きな方向性で安保法とか憲法の在り方について考えを同じくした野党の皆さん、動いていただいた国民と大きなうねりを一つ作れた。
衆議院の場合は政権選択になりますので、綱領や政策が大きく違うところとは、当然、一緒の政権を目指すことはできません。ただ、国民の声に背を向けるのは、私たちは国民とともに進む政党ですから、その在り方を含めて、参議院議員選挙の在り方をしっかり検証したいと思います。
その上で地域性等も勘案しながら、どういうやり方ができるのか、これは検討します」