「なくて本当にいいんですか?ゼロでいいんですか?『この法案は差別だ!』というのなら、×をつけるだけではなく、変える側に、共にいてください!!」 2016.5.16

記事公開日:2016.5.23取材地: テキスト動画
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(城石 裕幸)

※5月23日テキストを追加しました!

 2016年4月8日に自民党及び公明党によって参議院に提出された「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律案」は、5月12日、参議院法務委員会を通過、翌5月13日に本会議で可決され同日衆議院へ送られた。

 この法案は、参議院での審議過程で野党の要求により第2条「不当な差別的言動」の定義に「著しく侮蔑」する場合を追加修正し、また「不当な差別的言動にかかる取り組みについてはこの法律の施行後における(中略)不当な差別的言動の実態等を勘案し、必要に応じ、検討が加えられるものとする」との条項を附則第2項に加えるなど、若干の改善がされた。

 その一方で対象者を「適法に居住する本邦外出身者」に限定しているため、国内の民族的マイノリティーには適用されず、また難民申請者など「適法に居住」していない人を排除するなどの問題を含んだままであることが指摘されている。

 参議院での投票結果は賛成221、反対7。この反対7名の中には右派の「日本のこころを大切にする党」の3名が含まれていた。彼らは反ヘイト法の立法趣旨そのものが気に入らないのだろう。残りの4名の中に、「社会民主党・護憲連合」の福島みずほ氏、又市征治氏、「生活の党と山本太郎となかまたち」の山本太郎氏ら人権問題にひときわ敏感と思われる議員たちもいた。(もう1名は日本を元気にする会・無所属会の山田太郎氏)

 山本太郎氏は5月13日夜、すぐに「ヘイト法に反対した理由」というタイトルでブログを書いている。

 その中で山本太郎氏は「この法案の条文に『適法に居住する』『本邦外出身者』と書かれてあることにより、差別から守られる者を限定し、適法に居住していない難民申請中の方などが守られない」と問題点を挙げ、「人種差別撤廃条約の締結国である日本が、条約を国内法化するならば、条約の精神を汲んだあらゆる形態の人種差別を禁止する内容を目指さなければならない」と述べている。

 また福島みずほ氏も翌14日に「5月13日ヘイトスピーチ対策法が参議院で可決」とブログを書いている。

 このブログで福島氏は「今回審議された法案には社民党と民主党、糸数慶子氏(沖縄社会大衆党)とで国会に提出した『ヘイトスピーチ対策法案(野党案)』と今回可決された与党案の二つがあり、社民党は『野党案には賛成、与党案には反対』という立場を表明したのであり、今回法案が可決されたことは歓迎する」という趣旨のことを書いている。

 また山本太郎氏は「冤罪被害を量産する様な法案、刑事訴訟法大改悪をヘイト法と同時進行で審議する事を、委員会で了承した」ことも問題視し、強く抗議している。

 そんな中、2016年5月16日、弁護士会館で、シンポジウム「いま、そこにある人種差別の実態。-人種差別撤廃のための立法は『待ったなし!』」が行われた。

■ハイライト

  • 1.趣旨説明
    文 景令 氏(東京弁護士会会員)
    2.当事者らによる被差別体験についてのリレー報告
    3.パネルディスカッション
    <パネリスト>
    アンジェロ イシ 氏(武蔵大学教授)
    鈴木 江理子 氏(国士舘大学教授)
    金 昌浩 氏(第二東京弁護士会会員)
    <コーディネーター>師岡 康子 氏(東京弁護士会会員)
  • ※プライバシーを考慮し、
    配信は講師によるパネルディスカッション部分のみとなります。

2014年、日本政府は、「日本にはヘイトスピーチも人種差別全体についても深刻なものはない」「法律を作って対処するよりも啓発でやればいい」と国連の場で堂々と言っていた

 5月12日に参議院法務委員会を通過した直後に行われた緊急記者会見に臨んだ弁護士の師岡康子氏は、「私たちが求めてきたのは『人種差別撤廃基本法』だ」と発言、この法案の意義を認めつつも「理念法」であるがゆえの実効性のなさを指摘した。

 5月16日のシンポジウムではこの師岡弁護士(東京弁護士会外国人の権利に関する委員会)がコーディネーターをつとめ、「日本の人種差別の現状」についてパネルデスカッションが行われた。

 「2014年、国連人種差別撤廃委員会の審査の場にいた」と話す
師岡弁護士によると、当時日本政府は、「日本にはヘイトスピーチも人種差別全体についても深刻なものはない」「法律を作って対処するよりも啓発でやればいい」などと国連の場で堂々と言っていたという。もちろん、日本にヘイトスピーチも人種差別もない、というのは事実誤認もいいところである。政府が堂々と国際社会に向けて嘘をついている、と言っていい。

 「それに対して」と、師岡弁護士は、続ける。

 「今回の『本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律案』では、少なくとも前文で『在日外国人に対するヘイトスピーチが喫緊の課題であってその被害がどれだけ深刻なものであるか』ということが書かれている点で、“第一歩”だ。2014年の時点で『法律は必要ない』と言っていた政府が、ここまで来た」

 師岡氏は、そう感慨深気に語り、「この法律をどう活かしていくかということが、これからの課題だ」と述べた。

▲師岡康子 弁護士

▲師岡康子 弁護士

差別を放置・黙認している人たちが、88年以降ずっと5割もいることが、回答としてあげられているにもかかわらず、なぜ国はこの調査結果を利用して何らかの対策を講じなかったのか

 このパネルディスカッションの中で国士舘大学教授の鈴木江理子氏は、政府が1950年以降12回行ってきた「人権擁護に関する世論調査」を取り上げて、政府の人権意識の低さを指弾した。

 鈴木教授は「人権尊重が叫ばれる一方で権利のみを主張して他人の迷惑を考えない人が増えてきた、という意見についてあなたはどう思うか」という設問を取り上げ、「調査票を作るときには、仮説があってその仮説が正しいかどうかを立証していく、というのがアンケートの基本である。と、いうことは、こういった仮説を政府自身が持っているのではないかと考えられる。しかもこういった政府の誘導的な質問に対して『非常にそう思う』、『かなりそう思う』と答える人が、1978年以降毎回7割から8割もいる」と嘆いた。

 さらに鈴木教授は、この世論調査の中から日本人の差別に対する問題意識の低さを次々に指摘していった。

 「『人権課題の解決に向けてどのようなことに力を入れていけば良いと思いますか』という2007年から新たに作られた質問がある。2007年といえば国連の人種差別撤廃委員会から、様々な勧告が出された後だ。にもかかわらず、答えの選択肢の中には『実態調査をする』、『差別禁止法を作る』といった選択肢すらない。国自身が、人種差別撤廃条約を締結した以降も真摯にその条約を受け止めていないことが明らかだ」

 「1988年の調査から『外国人の権利』についての質問が加えられた。日本国内での人種差別は、戦前からずっと旧植民地の人々に対して根強くあった。それにもかかわらず、1980年代に新たな外国人居住者が増えたからようやく、1988年に質問項目として『外国人の権利』が取り上げられるようになった」

「『日本に居住している外国人は生活上のいろいろな面で差別されていると言われていますが、外国人の人権擁護についてあなたの意見は次のどちらに近いですか』という質問がある。2つの選択肢から答えを選ぶのだが、その一つに『日本国籍を持たない人でも日本人と同じように人権は守るべきだ』とある。これは、そもそも選択肢にするべきことではないだろう。人権は“人間としての権利”なのだから、それを守らない、などということはあってはならないのだから」

「『日本に居住している外国人が不利益な扱いを受けることがありますが、あなたはこのことについてどう思いますか』という質問がある。答えの選択肢の中に『風習・習慣や経済状態が違うのでやむをえない』、『日本の事情に慣れるまでトラブルがあっても仕方がない』、『外国人だから不利益な扱いを受けても仕方がない』などとあり、この『やむをえない』、『仕方がない』と答える人が、毎回4割から5割程度もいる。

 具体的に外国人始め様々なマイノリティーの人に自ら差別をする人は、それほど多くはない。でも差別をしないだけでいいのか。差別を放置していることが、最も悪いことではないのか。この『やむをえない』、『仕方がない』と答えた人たちは放置・黙認していると言わざるをえない。

 そしてこの放置・黙認している人たちが、88年以降ずっと、5割もいることが回答としてあげられているにもかかわらず、なぜ国はこの調査結果を利用して何らかの対策を講じなかったのか」

 その上で鈴木教授は、「『あなたは日本に居住している外国人に対し、現在どのような人権問題が起きていると思いますか』という問いに対して、『特にない』が2割、『わからない』が14パーセントもいる。こういった人たちに差別があること、差別が人間としての尊厳を著しく損なわせ、それはまさに『魂の殺害』であることを伝えなければいけない。

 政府に対してはこういった調査をするだけでなく、その結果を受け止めた法的な対応を、さらには法的以上な取り組みを求めたい」と語った。

▲国士館大学 鈴木江理子 教授

▲国士館大学 鈴木江理子 教授

 これを受けて師岡弁護士は、「政府が差別の存在自体を認めてこなかったが故に状況が悪化した。日本は1995年に人種差別撤廃条約を批准したが、それ以降も差別は悪化しつつある。ヘイトスピーチがここまで悪化して、生活を脅かしている。原因は、法整備をしない政府の姿勢にある。この世論調査のひどさからもわかるような意識の低さが、政府にある」と批判した。

「外国人の彼女・彼らがいるから差別があるのではなく、差別がある社会があるから、差別をされる彼女・彼らがいる」

 この日、パネルディスカッションに先立って日本に住む外国人によるリレー報告が行われた。その中で、5月12日の記者会見にも同席した川崎市川崎区桜本にある社会福祉法人青丘社川崎市ふれあい館の崔江以子(チェ・カンイヂャ)さんは、次のように語った。

▲5月12日の記者会見での崔江以子さん

▲5月12日の記者会見での崔江以子さん

 「私たち在日コリアンは生活において、制度で、マインドで、そして攻撃性を持って襲ってくるヘイトスピーチで、様々な差別を受けてきました。

 桜本地域では他の地域よりも、比較的本名を呼び・名乗ることが長い時間をかけて実践されてきました。それでも自分の名前に思い悩み、涙を流す子どもたちの姿があります。

生まれた時から民族名で生きてきたのに、15歳の春に名前を新しく作る子どもが、毎年います。地域の学区で過ごす中学生までは民族名で暮らし、高校進学で都内・県内に生活の場を広げる時に、『差別されるから』、『怖いから』と、自己防衛で日本の名前を作ります。“希望の春”に絶望のスタートを切る子どもの姿があります。

 また、ある青年は生まれた時から民族名で生きてきて、大学を卒業する時に、『社会は厳しいから』という理由で、日本名を名乗りました。その青年は、子どもの頃からの夢がかない、中学校の教員になりましたが、民族名で生きる子どもたちの前で、自身は新しく名乗った日本の名前で教壇に立っています。

ある大学生は、家族の被差別体験にふれた経験から、自身が在日コリアンだという事を隠して生きています。彼女の母親は民族学校出身なのですが、彼女は履歴書にそれを記すことができず、彼女の卒業した県立高校の名前を記します。そんな彼女が『自身が在日コリアンだとは絶対に言えない。墓場まで持っていく』と、心に決めたのは、ヘイトスピーチ、ヘイトデモに触れたからです。

 15歳の子ども、夢がかなった青年、墓場まで自身のルーツを隠し持っていくと決断した彼女。この子たちが過剰反応なのでしょうか。なぜ彼女・彼らが被差別体験から、また被差別体験への恐怖から、自分の名前で生きることができずに最大級の自己防衛をしなくてはならないのでしょうか」

▲2016年1月31日川崎ヘイトデモに抗議する崔江以子さん

▲2016年1月31日川崎ヘイトデモに抗議する崔江以子さん

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