「全員が持つと、カードの性格が変わってくる。場合によっては『監視目的』だ」――マイナンバー先進国・韓国で取材した白石孝氏が、日本政府の真の目的を暴く!〈シリーズ1〉 2016.2.4

記事公開日:2016.2.4取材地: テキスト動画独自
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(取材、記事・城石エマ 記事構成・岩上安身)

 マイナンバーの個人番号カードと、各種ポイントカードを一体化する――。

 マイナンバー制度の旗振り役である総務省の高市早苗大臣が、マイナンバーの利用拡大を目指し、個人番号カードと各種ポイントカードを一体化すると、1月8日に行われた記者会見で発表した。来年頃からの開始を目指すという。

■白石孝氏へのインタビュー

  • 日時 2015年11月27日(金)17:40頃~
  • 場所 東京都内

政府の目論見は「ポイントカードとの一体化」だけではない!運転免許証や健康保険証、はては戸籍までひも付け計画!

 個人番号カードの利用拡大を目指す政府の姿勢は露骨であり、2015年5月20日に行われた「IT総合戦略本部」では、「マイナンバーの利用拡大ロードマップ」が提出された。これを見ると、「ワンカード化」の促進が掲げられており、その内容は、ポイントカードとの一体化をはるかに上回る計画であることが分かる。

 2年後の2018年頃までには、戸籍制度との結びつきや、運転免許証、健康保険証との一体化も考案されている。現在は「任意申請」とされている個人番号カードも、保険証や運転免許証など、誰にとっても必要な証明証と一体化されてしまえば、実質的には「持たなければならないカード」となる。

 個人番号カードの申請は、1月28日の時点で、全国で約511万件あったという。住基カードの交付枚数が、2015年3月31日の時点で累計910万枚であったことを考えると、個人番号カードの申請は「順調に」伸びているということだ。

 こうした伸びの背景には、しかし、からくりがある。会社や学校が従業員や生徒に呼びかけ、一括で個人番号カードを申請しているためである。本来、個人番号カードの申請は、個人の判断に任された「任意」であるはずで、会社や学校が「申請せよ」と命じるものではない。なのに、自分の意思に関わらずカードを申請させられているのだが、しかし、そのカードには自分の戸籍関連の情報や、生体情報までが入れられていくのだ。

 そんな情報がどこでどう流出してしまうか分からない。そして、一度個人情報が流出してしまえば、原状回復(元通りにすること)はできない。さらにそもそも、流出の危険をおかしてまで、市民の高度な個人情報を集め、番号を付け、カードを持たせようとするのはなぜなのか、不可解である。どんな人であれ、黙っていていい問題ではない。

「住基ネット」の時から共通番号制度へ「NO」を言い続けてきた、白石孝氏にインタビュー!韓国で見た、共通番号制度の実態を語る!

 マイナンバー制度の危険性に対し、長く警鐘を鳴らし続けてきたのが「共通番号いらないネット」だ。団体はこれまでに、「STOP・マイナンバー」のデモ行進や、全国各地でのマイナンバーに関する学習会を展開してきた。

 代表世話人で、「反住基ネット」での活動でも知られる白石孝氏は、長年、「共通番号」への反対を表明し続けてきた。共通番号の先進国である韓国での豊富な取材から、2013年、「反住基ネット」は『現地取材レポート~韓国の住民登録番号制度~頻発するプライバシー侵害、情報流出、なりすまし事件』のDVDを制作した。

 今回のシリーズでは、白石氏から許可をいただき、DVDの内容を一部ご紹介する。<シリーズ1>では、2015年11月27日、東京都内で行った白石氏へのインタビューを掲載する。本インタビューの中で、白石氏に韓国での共通番号制度の実態を解説していただいた。なお、DVDに関するお問い合わせは、下記まで。

※白石孝氏(「共通番号いらないネット」世話人)
メール:kanseiwakingupua1950@yahoo.co.jp
電話番号:090-2302-4908

強制的に全員へ付番、生涯不変の「住民登録番号」 共通番号制度の先進国・韓国に学ぶ!

▲「共通番号いらないネット」世話人・白石孝氏

▲「共通番号いらないネット」世話人・白石孝氏

IWJ「こんにちは、IWJスタッフの城石エマと申します。2015年10月5日より制度の始まったマイナンバーですが、今、通知カードの配達も、なかなか2015年内に終わらないのではないか、というようなことも囁かれています。

 1月からは、いよいよ個人番号カードが配布されますが、こちらについては、個人情報の流出などたくさんの問題が考えられています。

 今日は、そんな個人番号カード、マイナンバー制度の問題点について、韓国での取材の豊富な、『共通番号いらないネット』世話人の白石孝さんにお話をうかがいたいと思います。

 白石さんどうぞ、よろしくお願いいたします」

白石孝さん(以下、白石)「よろしくお願いします」

IWJ「まず、韓国では、マイナンバー制度に似たような制度があると聞いているのですが、どういう制度なのでしょうか?」

白石「ほとんど同じです。日本も、住民登録のある人に番号をつける制度ですから、日本人と在留外国人に番号が10月5日に付いたんです。韓国の場合にも、住民登録・外国人登録をしている人には強制的に、生涯変わらない番号が付きます。番号制度の基本の仕組みは、ほとんど同じです」

IWJ「違う点は何かあるのでしょうか?」

白石「違う点は、番号に意味性があるかどうか、です。日本の場合にはコンピューターでアトランダム。家族で番号が並ぶこともまったくないです。

 ところが韓国の場合には、生年月日、性別、出生地コードというもので13桁の番号になっています。だから、番号を見ると、その人の年齢とか、出身地とかがわかってしまいます。ここが、日本と韓国の大きな違いです」

▲韓国の住民登録番号の成り立ち(『現地取材レポート~韓国の住民登録番号制度~頻発するプライバシー侵害、情報流出、なりすまし事件』より)

▲韓国の住民登録番号の成り立ち(『現地取材レポート~韓国の住民登録番号制度~頻発するプライバシー侵害、情報流出、なりすまし事件』より)

北朝鮮の武装集団摘発が原点! 「治安管理」目的でスタートした番号制度!

IWJ「日本のマイナンバー制度は、行政の効率化のために導入されると言われていますが、韓国の住民登録制度はどうして導入されたんでしょうか?」

白石「韓国の場合には、日本とある意味で『逆』です。

 朝鮮半島は今でも休戦状態にあるわけです。1960年代に、北朝鮮から武装集団がトンネルを掘って侵入してきて、韓国の大統領府・青瓦台を襲う未遂事件がありました。そこでスパイも入ってきました。その人たちを摘発するために、韓国民については、住民登録番号を付けて、住民登録証カードを持たせる、ということでした。持っていない人が不審人物、韓国領内にいる人を識別するために付けた、というのが出発点です。

 それをつけたのが、今の朴槿恵大統領のお父さん、朴正煕。朴正煕さんが軍人だったときに軍事クーデターを起こして、政権をとって、その段階から住民登録制度を作って、その後に1968年からは住民登録証(カード)と住民登録番号(ナンバー)、2つの制度をスタートさせたという、それがきっかけです」

IWJ「その後、どのように使われ方は変わっていったのでしょうか?」

白石「全ての人ではないけど、ほとんどの人に番号が付いて、カードの常時携帯が義務化されています。やはり便利なのです。そうすると、国防・治安管理目的に使われていたものが、行政分野――税や社会保障――でも、番号を使うようになりました。さらに便利だな、ということで、民間企業にも使うようになった。こういうふうに、だんだん発展していったんです」

日本では「逆コース」!? 行政サービスやビジネスから入って「治安管理」目的に向かうのは必至!? 最終的には、国民総動員で戦争遂行体制へ!?

IWJ「日本とは『逆』で、ということでしたが、今は行政分野での利用、と言われている日本でも、そのうち『治安維持』の目的に向かうとお考えでしょうか?」

白石「番号とカードはまったく違う仕組みなんです。私が言ったのは、カードの方です。

 今、通知カードが送付され――受け取らない人もたくさんいますけど――封筒の中にリーフレットが入っているんです。それを読んでみると、8割方、通知カードとか番号の説明ではなくて、個人番号カードを使いましょう、申請しましょうというお誘い文句で埋めつくされている。どこにも『任意だから、個人番号カードを申請しなくてもいい』と書かれていないのです。すごく小さく書いてあるかもしれませんが。

▲「カンタン申請!」と強調される個人番号カード――政府広報オンラインより

▲「カンタン申請!」と強調される個人番号カード――政府広報オンラインより

 個人番号カードをこれから2019年、2020年に向け、みんなに持たせようという、政府の明らかな計画が浮上してきています。最初は任意だけど、だんだん、約5年かけて全員に持たせようとする。

 全員が持つと、カードの性格が変わってきます。管理とか、場合によっては監視目的です。そこに住んでいる人を識別していくように、カードの性格が明らかに変わるのです。だから、性格が『逆』、と申し上げました」

 政府が国民を「監視」するためにマイナンバーを使うことなど、可能だろうか? 残念ながら、可能なのである。マイナンバーについて定めた「共通番号法(行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律)」に詳しい日本体育大学の清水雅彦教授(憲法学)によれば、共通番号法の20条、28条では、「法律で決められた範囲以外の目的で番号を集めること」を禁止している。67条以下では、法律を破って番号を収集した人に適用される罰則も規定されている。

 ところが、同法の19条13号を見ると、「刑事事件の捜査」や、「その他政令で定める公益上の必要があるとき」には、マイナンバーを集め、利用することができる、とされているのだ。

 この点について、清水教授は、「今後はいくらでも政令で公安警察などの利用範囲を広げる可能性がある」と危惧し、法律での利用範囲の規定や罰則規定のこのような「抜け道」が、「監視国家」につながることを指摘している。

韓国では全国民1人あたり平均4~5回の個人情報流出! 管理者が故意に流出させる事件も!

IWJ「すごくたくさんの人の個人情報が扱われれば、個人情報の流出も考えられると思いますが、共通番号制度を先に導入した韓国でも流出あるのでしょうか?」

白石「個人情報の流出が極めて顕著になったのは、インターネットが普及した2000年に入ってからなんです。

 韓国では、2008年から2014年までの6年間に、全体で2億3000万件の個人情報が流出している、というのが公式発表です。韓国の全人口は約4800万人、韓国に住む外国人も含めると、全部で約5000万人なので、国民1人あたり、4回から5回分の個人情報が流出しているということです。

 特に2014年の1月に発覚したのは、大手クレジット会社3社から1億400万件の口座情報が流出した、ということです。『流出』というとぼやけた言い方ですが、カードのセキュリティを管理している職員が自ら売ってしまったのです。セキュリティ管理をしている人自らが売ってしまうのだから、防ぎようがないわけですよ。

 クレジット情報が漏れていることを考え合わせると、相当程度の個人情報が漏れたのです」

忘れてはならないのは、情報漏洩や流出の件数は、あくまで事件が発覚した件数だけである、ということだ。上手にデータをコピーして盗み取り、気付かれなければ、誰にも分からない。そうした件数はカウントされていない。本来の流出件数は、途方もないものになるのではないか。

なし崩し的に広がった利用範囲、今や韓国では「制限」の方向へ! 利用拡大に向かう日本は、時代に「逆行」!?

IWJ「そのような流出をうけて、韓国政府は何か対策を講じているのですか?」

白石「これまでにも、大手のコミュニケーションサイトから3500万人分が流出し、その都度、それが原因でいろいろな被害が起こっていますが、今回は、クレジット口座情報で、大統領や国連事務総長の情報も流出していると言われています。

 さすがにやはり、政府も放っておけず、2014年の1月以降に対策委員会を設けました。

 そこで出てきた案は、全員分の番号を取り替える、被害にあった人の申し出によりその人の番号のみ変える、番号の利用分野を限定する、でした。

 さすがに、全員分取り替える、というのは、コストもかかり、番号付きの個人情報がいろいろなところに溢れているわけです。それを止めるわけにはもういきません。場合によっては、民間企業が倒産してしまう、ということも考えられます。ですので、この案は一応、没になりました。

 今検討しているのは、部分的に、申し出のあった人の番号を変えるという案と、利用分野を規制する案の2つです。実際に、規制も進んでいますが、有効な規制策になっていない、というのが現状です」

 要するに、番号の変更はコストもかかるため、流出事件が重なり、被害者が増えても、そうやすやすとは番号変更が認められるようにならないということだ。日本でも、同様になる可能性は高い。

 私やあなたのマイナンバーや、ひも付けられた個人情報が流出し、悪用されたり、その個人情報がネット上で出回ったりしても、完全に消すことができない、という悪夢が、現実になるのである。

「利用範囲を法律で限定しているから日本は安全」と言いつつ、利用拡大に前のめりな姿勢を隠さない日本政府

IWJ「日本政府は個人情報の流出はない、と言っていますが、日本でも韓国のようなことが起こり得るのでしょうか?」

白石「今、私の手元にマイナンバー制度のリーフレットがあります。ここに、アメリカや韓国のようになりすましが多発することがありえませんか、という質問が書かれています。それに対し、

 『海外でのなりすまし事案は、番号のみでの本人確認や、番号に利用制限がなかったことなどが影響したと考えられます』

 『日本のマイナンバー制度の場合には、厳格な本人確認の徹底――これは、マイナンバーカードの発行時のことです――、利用範囲の法律での限定や、罰則の強化などの対策を講じている』(内閣官房 社会保・税番号制度HP Q-3※2015年9月以降、表記に変更あり)

 だから大丈夫なんだ、韓国・アメリカのようなことは起きない、と言っています。

 しかし、利用範囲の法律での限定というのは、2015年1月のスタート時だけの話です。たしかに、税、社会保障、災害という分野に限り、法律や政令で指定し、そこにしか使えませんよ、と言っています。

 しかし、一方で政府は、9月には金融機関の口座開設時に番号使うことを言ってしまっているわけです(2015年9月3日可決・成立の改正マイナンバー法)。ところが、(2016年1月9日現在でも、内閣府の発表する一般向けの)リーフレットでは、そのことについてまったく触れていません。

 さらに、民間分野でのマイナンバーカードの利用範囲を広げますよ、ということを今からもう言っているわけです。そうすると、ほぼ韓国と同じ状況になっていく、と思われます」

共通番号一つで、ウェブ会社にもゲーム会社にも「お手軽に」自分の個人情報が渡る!

IWJ「韓国では、実際にどのような場面で住民登録番号が使われているのでしょうか?」

(…会員ページにつづく)

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「「全員が持つと、カードの性格が変わってくる。場合によっては『監視目的』だ」――マイナンバー先進国・韓国で取材した白石孝氏が、日本政府の真の目的を暴く!〈シリーズ1〉」への1件のフィードバック

  1. @55kurosukeさん(ツイッターのご意見) より:

    「全員が持つと、カードの性格が変わってくる。場合によっては『監視目的』だ」――マイナンバー先進国・韓国で取材した白石孝氏が、日本政府の真の目的を暴く! http://iwj.co.jp/wj/open/archives/285987 … @iwakamiyasumi
    それは「動物農場」と「1984」を足した世界だ。
    https://twitter.com/55kurosuke/status/695214430397706240

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