毎時1マイクロシーベルト!福島第一原発事故から4年半以上たった今でも、東京都内にマイクロホットスポットが~足立区職員立ち会いのもとで行われた放射性物資計測の模様を取材! 2015.10.2

記事公開日:2015.10.5取材地: テキスト動画
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(城石裕幸)

※10月5日テキストを追加しました!
※10月11日テキストを更新しました!

 2011年3月11日に発災した福島第一原発事故から4年半が過ぎた。時間の経過とともに、事故当初は東京都内にも散見されたホットスポットは、今ではすっかりなくなったように思われている。しかし、今、東京は本当に安全な場所なのか。

 2015年10月2日(金)、午前10時より、足立区職員により区内で放射性物質の計測が行われた。放射線計測をしている市民から高線量地点の通報があったため、通報者本人の立ち会いのもと計測と除染がおこなわれることになったのである。IWJは、通報者本人から前夜に急な連絡を受けて翌朝、現地に急行した。

 震災後、個人で放射線量計測のため数万円の計測機器を購入し、Twitterなどを通じて発信している人達がいる。埼玉県在住の丹野心平さんもそんなひとりだ。週に3~4日、仕事が終わった後、足立区、葛飾区などを中心に調べている。

■ハイライト

  • タイトル 足立区職員立ち会いのもとで行われる、足立区の放射性物質の計測と除染の模様
  • 日時 2015年10月2日(金)10:00〜
  • 場所 青井駅周辺(東京都足立区)

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区の除染基準は地上50センチメートルで毎時0.25マイクロシーベルトを超えた場合のみ

▲計測の様子 左側が丹野心平さん

 午前10時、つくばエクスプレス青井駅ロータリーで区役所職員と待ち合わせした丹野さんは、駅周辺のホットスポットを職員に示していく。駅周辺は静かな住宅街。計測中の場所から後ろを振り返ると、すぐそばに保育園がある。

 足立区の除染基準は、「地上50センチメートルで5回計測した平均値が毎時0.25マイクロシーベルトを超えていた場合にはすみやかに除染すること」と定められている。区の工事課担当者に「すみやかに」とはどのくらいかとたずねると、「最速で今日の午後」とのことだった。

 丹野さんにこの日朝まで降り続いた雨の影響を聞くと、「雨が降った後で計ると多少低めに出ることはある」という。また、市販の測定器は、区役所で使っている正確に調整された機器に比べると数値がやや高めに出ることが多いそうだ。

地上5センチで毎時0.9マイクロシーベルト!数センチずれるだけで計測数値に大きな差が

 3ヶ所目、丹野さんの機器で計測したところ、地表5センチメートルで毎時0.9マイクロシーベルト近くになったものの、区役所の測定器は狭い場所や段差のある場所に対応できない。そこで、ほんの数センチ横、かつ数センチ高い場所で計測したところ毎時0.5マイクロシーベルト前後になった。

 数センチの差で結果に大きな違いが出るため、計器の置き方を工夫して地表面5センチでの計測をして欲しいという丹野さんに担当者は、「地上50センチというのが対策の基準ですので、地上5センチで測ってもよろしいですけど、それでどうこうする(除染などの対応をする)ということはありませんよ」と答えた。

道路管理者が違えば区では汚染に対応しない

 4ヶ所目、説明を始めた丹野さんに足立区の担当者は一言、「ここは東京都の管理なんですよ」と話した。

 都道は東京都の管理、国道は国の管理のため、歩道部分の植え込みは高線量であっても区では対応しない。住民から通報があっても、連絡は回すが、都がどういう基準でどういう対応を取っているのかはわからないという答えだった。

 区役所職員6名と次の場所での待ち合わせを約束して別れた後、実際に計測してみると、植え込みの下で毎時1マイクロシーベルトを超えていた。

 人体への影響は都が管理する道路からの放射線であるか、区が管理する道路からの放射線であるか、浴びてしまう側にとって関係のない話だ。しかし行政は自分の管轄外のことはかたくなにやろうとしない。

基準値をわずかでも下回っていれば区は除染を行わない

 綾瀬6丁目に移動して一ヶ所目の計測地点は、雨樋から流れ出た水が植え込みにたまるような場所だった。ここでの計測では、簡易計測計・区役所の計測計ともに、地表面5センチメートルでは毎時1マイクロシーベルトを超えたものの、地上50センチメートルの基準点での計測では、最大で毎時0.24マイクロシーベルト、平均値で毎時0.226マイクロシーベルトにとどまった。

 担当者は「(安全)基準を満たしているので、今回は対応はしません」と言いきった。

 地上5センチメートルでは明らかに毎時1マイクロシーベルト出ているのに計測する高さが基準の高さではないからと、除染しないというのである。

 当日、この測定の取材時午前中の段階で除染基準値の根拠を問い合わせしていたIWJ記者に答えた区の危機管理課担当者は、広報資料を示しながらこう回答した。

 「区の方で指標を決めたのはなんか年間1ミリシーベルトを超えなければ(国際放射線防護委員会の勧告)、とかいうのがあったようので、それで、みたいですね。それにもとづいて指標を定めた、ということのようですね」

 では、その「高さ50センチメートル」という基準は何を根拠にしてきめられたのだろうか。

 私がそうたずねると、担当者が困ったような表情を見せた。

 「50センチはですね・・・ちょっと私の方では、ここに載っておりませんのでまたちょっと後で、もしあれでしたらお問い合わせください、上司の方がお答えしますので」。

 基準値を出した、その根拠を足立区の担当者も理解していない。しかし現場ではかたくなに「50センチメートルの高さ」という基準を厳格にあてはめ、基準に合致しないものはすべて切り捨ててしまう。そういうことでいいのだろうか。

 その後、西新井駅に近いギャラクシティという文化施設敷地内にも計測に行ったが、この日の計測では、この綾瀬での毎時0.24マイクロシーベルト(平均毎時0.226マイクロシーベルト)が一番高い値となり、どこも除染作業にはいたらなかった。

区によってまちまちの除染基準〜チェルノブイリの基準にあてはめると、移住の権利の行使が可能なほどの汚染!

 最後にIWJのインタビューに答えて丹野さんは、「区によって(除染の)基準がぜんぜん違います」「せめて、豊島区や目黒区のほうの基準にあわせてやってほしい」「除染の基準を下げてくださいという署名をとったほうがいい」「おかしいじゃないですか、豊島区や目黒区はどんどんきれいになっていくのに、こっちのほうは残ってるって」「除染の基準というのは非常に高すぎる」と語った。 *行政による除染基準の違い

環境省 地上50センチメートルから1メートルで毎時0.23マイクロシーベルト以上
文部科学省 地表から1メートルの高さで周辺より毎時1マイクロシーベルト以上高い箇所
東京都(建設局) 国(文部科学省)のガイドラインに従って対応
足立区 地上50センチメートルで毎時0.25マイクロシーベルト以上
葛飾区 地上1センチメートルで毎時1マイクロシーベルト以上
砂場は地上5センチメートルで毎時0.25マイクロシーベルト以上
豊島区 地上5センチメートルで毎時0.23マイクロシーベルト以上
目黒区 地上5センチメートルで毎時0.23マイクロシーベルト以上

**平成23年11月11日施行された「平成二十三年三月十一日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境の汚染への対処に関する特別措置法」の中の「土壌等の除染する基本的事項」で「追加被ばく線量が年間20ミリシーベルト未満である地域については」「長期的な目標として追加被ばく線量が年間1ミリシーべルト以下となること。」と定めている。

この「年間1ミリシーベルト」をもとに国は「毎時0.23マイクロシーベルト」という数値を算出している。

***足立区では同じ「年間1ミリシーベルト」をもとにしているが、計算方法が異なるため「毎時0.25マイクロシーベルト」という値を算出している。

 ちなみにチェルノブイリでは年間20ミリシーベルトというのは「強制避難地域」、同じく年間1~5ミリシーベルトは「移住の権利地域」、年間0.5~1ミリシーベルトは「放射能管理地域」である。

 つまり地上50センチメートルから1メートルの高さでの空間線量が毎時0.23マイクロシーベルトあればチェルノブイリでは移住の権利を行使できるくらいの汚染地域だということになる。毎時0.23マイクロシーベルトに満たなくてもチェルノブイリであればそこは「放射能管理地域」にあたる。

4日後、足立区役所が高線量地点一か所を除染

 この記事が出た二日後、通報者の丹野心平さんより新たな情報をいただいた。

 足立区担当者に何度も繰り返し「豊島区・目黒区なみの除染基準値への引き下げ」「除染基準値に達していない高線量地点の除染作業の実施」を求めていた丹野さんのもとに、足立区役所危機管理課からメールが届いたのだ。その内容を要約すると 1. 区の除染基準を下げてほしいという要望に関しては、国の基準が体の中心を考慮して地上1メートルとしているところを足立区ではこどもの身長に合わせて地上50センチメートルとしている(国の基準よりきびしくしている)ので変更の予定はない。 2. 10月2日に計測した地点のうち除染の要望の強かった地上5センチメートルで毎時1マイクロシーベルト前後だった2か所のうち毎時1マイクロシーベルトを超えていた1か所は10月6日除染します。超えていなかった一か所は除染しません。

 また、足立区はホームページ内で一連の作業データの結果を公表している。それによると

綾瀬6丁目16番地先 区道植樹帯内
10月2日(金) 地上5センチメートル 毎時1.088マイクロシーベルト
地上50センチメートル 毎時0.226マイクロシーベルト
10月6日(火) 除染前 地上5センチメートル 毎時0.982マイクロシーベルト
地上50センチメートル 毎時0.222マイクロシーベルト
除染後 地上5センチメートル 毎時0.534マイクロシーベルト
地上50センチメートル 毎時0.176マイクロシーベルト

 また除染内容としては「表土の一部撤去」とある。

 この件に関して足立区役所に問い合わせてみた。

 まず、当日「除染基準値を満たしていないので作業はおこないません」と言っていたが、数日後に作業したことについて、足立区危機管理室危機管理課の山上氏がこう説明した。

 「過去にも除染基準を満たしていなかったが、比較的線量が高かったため作業を実施したという事例はあります。通報者の方(丹野さん)の要望がとくに強かったからとか(IWJの)記事が出たからとかいったためではありません。

 作業実施が火曜日になったのは(金曜日の取材時に除染作業は月曜日、最速で金曜午後と答えていた)とくに緊急を要するほどの高線量ではなかったため、作業担当者の時間の都合に合わせました。区所内で審議や検討をしたわけではありません」。

 取材当日に現場で立ち会った足立区都市建設部道路整備室工事課長の長島氏に、具体的な除染作業の内容を確認したところ、「表面の土壌を取り除きました」という説明を受けた。

 「量としては(作業に立ち会っていないので確実ではないが)土嚢袋に何分の一か程度だと思います。表面の落ち葉等を取り除いたらだいぶ線量が下がったということです。取り除いた土壌は区の管理用地に埋めました」。

 除染作業後の計測値が地上5センチメートルで毎時0.534マイクロシーベルト。たしかに作業前の半分近くに下がっているが、それでもまだ豊島区や目黒区の除染基準値の2倍だ。

 東京都の道路管理部に取材した際にも、「道路はそこを通過するだけで長時間とどまることはないので、基準値は(文部科学省のガイドラインにしたがって)高く設定している」という回答だったが、道路清掃を請け負っている業者の作業員たちが、マスクもつけずにブロアーで地面の枯葉などを吹き飛ばしている姿をよく見かける。彼らの健康管理はどうなるのだろう。

 道路は通りすぎるだけの場所、高止まりでもかまわない、という認識でいいのだろうか?道端は人がたたずむ場所でもある。また、地上50センチメートルでの空間線量が基準値内におさまれば、それで本当に安全になったといえるのだろうか。そもそも今回は市民が発見したホットスポット。行政が自ら頻繁に測定を行い続け、マイクロホットスポットを見つけるべく努力し、見つかったら除染する積極的な姿勢が必要なのではないだろうか。

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