「福島第一原発はホントに廃炉にできるのか」!? 改訂続きのロードマップは「夢まぼろしマップ」――東電ウォッチャーの木野龍逸氏が政府の杜撰な対応に苦言! 2015.9.30

記事公開日:2015.10.10取材地: テキスト動画
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(取材:阿部洋地、文・IWJテキストスタッフ・田岡えり子)

※10月10日テキストを追加しました!

 マスメディアでは、福島第一原発事故で避難していた住民たちの帰還と、「復興」への動きが報じられているが、現実はどうなっているのだろうか。ジャーナリストの木野龍逸氏は、「福島第一原発事故の被害状況を把握する研究調査は、本来は国が行うべきだが、誰も手をつけていないのが現状だ。そして、問題を先送りした影響は市民に回ってくる」と指摘した。

 2015年9月30日、東京都文京区の区民施設アカデミー茗台で、放射線被ばくを学習する会主催による「第24回被ばく学習会:東電はいったい何をしているのだ! ~廃炉の現実と復興加速化」が開催された。

 講師は「日本最強の東電ウォッチャー」と呼ばれ、『検証 福島原発事故・記者会見』(岩波書店)シリーズの著作がある木野龍逸(きの・りゅういち)氏。2011年3月の福島第一原発事故の直後から、日隅一雄弁護士(2012年没)とともに東京電力の記者会見に通い、事故処理のあり方や汚染水問題などに警鐘を鳴らしている。

 木野氏は、「正確な情報を出さないまま、帰還政策を進めるのは倫理的におかしい。今の時点で、明らかに事故は収束していないのに、避難指定を解除し、被曝の影響はないと喧伝する。『政府が言うのだから大丈夫だろう』という人も出てくる。これが、住民の分断を生む」とし、コミュニティの破壊や社会の分断という視点を持たなければ、原子力発電所の事故がどういうものかは見えてこないと語った。

 また、放射線被ばくを学習する会の共同代表、田島直樹氏による、福島の子どもたちの甲状腺検査についての報告も行われた。福島では、小児甲状腺がんの発症が明らかに増えている、と言う田島氏。そこには、政府が描く「復興」のロードマップとは程遠い現実が横たわっている。

記事目次

■ハイライト

30~40年で廃炉にできる? 東電のロードマップに根拠なし

 木野氏の講演テーマは、「福島第一原発はホントに廃炉にできるの?」というもの。東京電力は2015年6月12日、「福島第一原子力発電所の廃止措置等に向けた中長期ロードマップ」の改訂版を発表した。そこでは「廃止には30年~40年かかる」とされている。しかし、現場の状況は過酷で、トラブル発生のたびに工期が遅れていると、木野氏は語る。

 「ロードマップは核燃料の取り出し方針を細かく決めている。しかし現状では、溶融した核燃料の量がどれだけあるのか、どんな性状であるのか、どこまで落ちているのかも、わかっていない。格納容器の損傷の程度も不明だ」

 東電が、ロードマップ立案の参考にしているのは、アメリカのスリーマイル島原発事故だ。同事故では、メルトダウンした2号機の燃料および燃料デブリ(配管などの金属類を含む溶けた燃料の堆積物)は全体で134トンだった。うち燃料部分が20トン。1979年に事故が起きてから、取り出し開始までに6年半、取り出し完了までは、さらに5年かかっている。

 しかし福島の場合は、「燃料デブリがどれだけの量になるか、国も計算できていないのではないか」と、木野氏は案じる。

 スリーマイルでは燃料デブリが圧力容器の中にとどまっており、水を注入して作業ができた。福島では1号機から3号機までがメルトダウンし、穴が開いた格納容器には水を注入できない。水を注入しないで放射線を遮蔽する方法は確立しておらず、作業の際の被曝線量なども、まだ正確にはわかっていない。

 事故を起こしていない中部電力の浜岡原発の場合でも、廃止措置計画(※)には25年を予定している。「福島第一原発の廃炉に30年~40年というのは、東電と政府がメルトダウンを公式に認めていない段階(2011年6月頃)から検討を始め、被害状況がわかっていない時期に出された数字。その根拠はわからない」と木野氏。東電には協議の議事録を開示するよう、何度も要請しているが、議事録は出されないままだという。

  • (※1)廃止措置計画
     使わなくなった原子力発電所から放射能を取り除き、安全に解体する措置計画のこと。

▲木野龍逸氏

誰も把握していない、原発事故被害の全容

 現地では除染をしながら作業を進めているが、建屋内での作業の詳細は公表されていない。木野氏は、「2号機では、格納容器の中を調査するために、東芝製のロボットが導入されることになったが、ロボットを入れる箇所がブロックなどでふさがれているとわかり、その撤去作業に2ヵ月以上かかっている。こうした予測できない追加作業の積み重ねで、工程は先延ばしになっていく」と説明した。

 ロードマップが改訂されたのは、これで3回目である。メルトダウンした燃料の取り出し作業の開始は、1号機、2号機、3号機とも2020年度から2021年度とされており、「つまり、東京オリンピックが終わるまで手をつけないのではないか」と木野氏は言う。

 チェルノブイリ原発事故では、高線量のため作業ができない炉はコンクリートの「石棺」で固められ、100年後に放射線量が下がってから作業をすることになった。木野氏は、「福島では、線量が下がるまで待つ必要はないのか。そこが疑問だ」とした。

 さらに深刻なのは、取り出した核燃料を最終的に、どこにどう処分するのかが未定のままで、議論もされていないという現実だ。木野氏は、「全体の被害状況を把握する研究調査には、誰も手をつけていないのが現状。本来は、国や大きな研究機関がやるべきことだ」と述べ、政府の場当たり的な対応に苦言を呈した。

放射線管理区域以上の線量で帰還「元のようには生活できない」

 木野氏は、問題を先送りした影響は市民に回ってくるとし、避難した住民に判断材料を与えないまま、帰還を促進する政府の姿勢を問題視した。廃炉へのロードマップが「ドリームマップ」、すなわち「夢まぼろし」のプランと揶揄されるような現状にもかかわらず、国は福島県内の「特定避難勧奨地点」の指定を解除、避難している住民に帰還をうながし、メディアには「復興」を広報している。

 その根拠になっているのが、「年間積算線量が20ミリシーベルト以下になることが確実」という基準だ。この基準に基づき、大熊町、双葉町の帰還困難区域を除いて、2017年3月までに、全地区の避難指示を解除するという指針が出されている。

 しかし、そもそも年間20ミリシーベルトという基準自体、国が労働安全のために定めた線量の基準と合致せず(※2)、法のダブルスタンダードになっている。事故直後に出されたICRP(国際放射線防護委員会)の勧告でも、住民が住み続ける場合、長期的には年間1ミリシーベルトを目指すべき、としている。(※3)

  • (※2)国はレントゲン技師などの健康を守るため、医療法、労働安全衛生法令で「放射線管理区域」を定めている。そこでは外部放射線被曝の実効放射線量は、3ヵ月で1.3ミリシーベルト(年間で約5ミリシーベルト)と決められている。
  • (※3)2009年のICRPの勧告では、事故直後などの非常時に設定する参考レベルが20~100ミリシーベルト、非常状況での避難参考レベルが1~20ミリシーベルト。公衆被曝に設定する数値は年間1ミリシーベルト未満となっている。

 このような安全面への懸念のほかに、木野氏は、住民が帰還しても生活するためのインフラが整っていない点も指摘する。「2014年10月に避難指示が解除された川内村では、当初、スーパーも病院もなかった。国がコンビニを1軒誘致し、診療所を開設したが、総合病院は今もないままだ」と述べて、事故前と同じようには暮らせないことを示唆した。

 また、国が放射性廃棄物の処分方針を先送りしてきたため、避難指示区域の中には、除染で出た廃棄物などの仮置き場が数十ヵ所ある。そこからいつ、どこに運び出すのかは決まっていない。

(…会員ページにつづく)

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「「福島第一原発はホントに廃炉にできるのか」!? 改訂続きのロードマップは「夢まぼろしマップ」――東電ウォッチャーの木野龍逸氏が政府の杜撰な対応に苦言!」への3件のフィードバック

  1. @55kurosukeさん(ツイッターのご意見) より:

    2015/09/30 「被ばく学習会:東電はいったい何をしているのだ! ~廃炉の現実と復興加速化」木野龍逸さん講演 http://iwj.co.jp/wj/open/archives/267772 … @iwakamiyasumi
    木野さんによる東電会見のまとめ。あらためて東電と政府の無策、無能に愕然とする。
    https://twitter.com/55kurosuke/status/649560712981774336

  2. 武尊 より:

    廃炉まで40年というのは、決めた時の官僚が定年になるまでの期間。現役世代に責任が有る期間の内に終わらせる気でもいたんでしょう。
    だってそうしなきゃ、誰も責任取らない事になってしまうので、それじゃあ国民が納得しない、と考えた数字として出してきただけの、机上の空論数字。

  3. 浦嶋 邦彦 より:

    小出さんからのメッセージで実態がよく理解できると思います。

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