「国が進める帰還政策は、放射線量の高いところで我慢して暮らせ、というもの。人権侵害であり、民意無視。今回の安保法案の成立と同根だ」──。武藤類子氏は、このように指摘した。
福島第一原発事故で「特定避難勧奨地点」と指定された地域が、2014年12月、年間20ミリシーベルト超の基準を下回ったとして指定解除された件で、福島県南相馬市の住民ら808人が、解除の取り消しと1人あたり10万円の損害賠償を国に求める訴訟を起こした。その第1回口頭弁論が、2015年9月28日に東京地方裁判所で行われた。
口頭弁論終了後、東京都内で開かれた「南相馬・避難 20ミリシーベルト基準撤回訴訟支援の会」と原告弁護団による報告会で、福田建治弁護士は、被告(国)は「指定解除は行政処分に当たらない」と対抗姿勢を鮮明にしていることを伝えた。
原告側は、「被曝限度は年間1ミリシーベルト」との立場から、同20ミリシーベルトという国の基準を「リスクの強要」と指弾している。福田弁護士は、健康被害と低線量被曝の因果関係は立証しにくいとし、将来、南相馬の健康被害者らが、国相手の長い裁判闘争に苦しまないようにするためにも、「今の時点で、行政が行うべきことを、裁判で明確にしておく必要がある」とし、今回の裁判が「未来志向」である点を強調した。
多発する「甲状腺がん」への不安
冒頭、支援の会世話人代表の坂本建氏があいさつを兼ねて立ち、年間20ミリシーベルトという避難基準が導入されたことへの、住民の怒りを絶やさないことが鍵だ、と力説。「もはや、被災地支援は『する・される』ではなく、住民が勝ち取るものだ」と訴えた。
この日、東京地裁には、南相馬から原告33人が駆けつけた。報告会でマイクを握った原告団長の菅野秀一氏は、全国から約150人の傍聴人が集まったことへの感謝の意を表明した。
そして、南相馬でも、低線量被曝が原因とみられる甲状腺の異常などが多発している点に触れ、「医師らは『原発事故との結びつきは定かでない』という調子ではっきり言わないから、われわれ住民は釈然としない」と不安を口にした。そして、国は帰還を促しつつ、希望者にはミネラルウォーターの購入補助をすることなどに触れ、「本当に安全だったら、すべての補助を引き上げてもいいはずだ。何を信じればいいのか」と顔を曇らせた。
▲南相馬特定避難勧奨地点地区災害対策協議会・菅野秀一会長
司会を務めた満田夏花氏(支援の会事務局長、FoE Japan)は、福島での甲状腺がん増加と低線量被曝の因果関係が認められにくい実態を、福島県の第19回県民健康調査検討委員会が、2015年5月に発表した甲状腺検査の中間報告を例にとって説明した。
報告は、「2011年10月開始の先行検査は、震災時に福島県在住の、おおむね18歳以下の全県民が対象で、約30万人が受診した。これまでに112人が甲状腺がんの『悪性ないし悪性疑い』と判定され、うち99人が手術を受け、乳頭がん95人、低分化がん3人、良性結節1人という確定診断を受けた(2015年3月31日現在)」とした上で、次のように考察している。
「わが国の地域がん登録で把握されている、甲状腺がん罹病統計などから推定される有病数に比べて、数10倍のオーダーで多い。この解釈については、被曝による過剰発生か、過剰診断かのいずれかが考えられ、これまでの科学的知見からは、前者の可能性を完全に否定するものではないが、後者の可能性が高いとの意見があった」
満田氏がこの資料を読み上げて、「わけのわからないまとめ方をしている」と話すと、出席者たちはざわめき、嘆息がもれた。
「帰還政策」と「安保法制」は同根