「戦争に近づかないためには、どうしたらいいか」――新作『野火』に込めた思い「若い世代に観てほしい」塚本晋也監督インタビュー(聞き手:IWJ中継市民・山田朋洋) 2015.6.22

記事公開日:2015.7.14取材地: テキスト動画独自
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(IWJテキストスタッフ・富田)

特集 戦争の代償と歴史認識

※7月14日テキストを追加しました!

 「(戦後の日本ではあたりまえだった)『戦争はダメ』が、最近、そうではなくなっているように思える」──。1960年生まれの映画監督、塚本晋也氏は、2015年6月22日、新潟市内で行われたインタビューの終盤で、このように口にした。

 第二次世界大戦のフィリピン戦線で、飢えと孤独から極限状態に追い込まれる日本軍兵士の姿を描いた大岡昇平の小説『野火』(1951年)は、日本の戦争文学の代表とされる。映画化は、1959年の市川昆監督に続いて二度目で、構想に20年をかけた塚本監督の同作は、2014年の第71回ヴェネツィア国際映画祭コンペティション部門出品作に選ばれ、高く評価されている。2015年7月25日から全国で公開予定だ。

 「映画は、政治的思想など特定のメッセージを観客に伝えるための手段ではない」と語る塚本監督は、「戦争に近づかないためには、どうしたらいいのか。そういう思いは、強くある」とも言及。「非戦の願い」が、この作品に自然に反映されていることを言外に示した。

 「高校時代に大岡昇平の原作に接し、実際に、狂気の世界を体験したような気になった。映画化の構想は20年間抱き続けてきたが、ここにきて『急がねば』との衝動にかられた。こういう映画は、これからは作りにくくなるのかもしれない」と語る塚本監督は、「ぜひ、若い世代に観てほしい」と呼びかけた。

■全編動画

  • 収録日時 2015年6月22日(月) 18:00〜
  • 配信日時 2015年6月23日(火) 13:00〜
  • 場所 新潟市民映画館シネ・ウインド(新潟県新潟市)

原作との出会い──「狂気の世界」に身を置いた感覚に

 「子どもの時分、漫画を読んでいて、その世界に没入してしまう経験があったでしょ? 小説で、それと同じ経験を、初めて私にさせてくれたのが大岡昇平の『野火』(現在、新潮文庫)だった」

 原作は、大岡昇平自身の、太平洋戦争末期のフィリピンでの戦場体験がベースになっている。結核になって軍隊を追放された日本人兵士の田村が、飢え抜いた果てに、それでも生への執着が萎えないことから、屍体(人肉)にまで目を向ける「狂気の世界」を描いた傑作だ。兵士同士の人肉食いは、戦場で実際に行われていたという。

 塚本監督は、「読んだ時、自分が、まるでその世界に身を置いているような感覚に見舞われ、その感覚が、その後もずうっと残った」と振り返りつつ、次のように話した。

 「小説の序盤で、主人公の田村が軍隊から追い出される場面が出てくる。(日本軍が抗戦相手と見なされていた)当時のフィリピンで、軍隊からの追放は、その先に死が待ち受けていることを意味するが、一方では、兵士であることから解放された安堵感も、田村の中には広がっている。その辺の心のバランスが、実に印象的に描写されていた」

フィリピン人元兵士「戦場では人間が、単なる物体になってしまう」

 この映画のロケ地は、フィリピンと日本(沖縄と埼玉)だという。フィリピンでの撮影は、2013年の初夏から年末にかけて断続的に行われたが、苦労の連続だった、と塚本監督は明かす。

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