「朝日新聞『吉田調書記事取り消し』はジャーナリズム史上最大の失態」――海渡雄一氏×鎌田慧氏トークライブ 2015.5.8

記事公開日:2015.5.20取材地: テキスト動画
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(IWJテキストスタッフ・花山)

※5月20日テキストを追加しました!

 「朝日新聞はこんなに重要な報道を、なぜ、全部取り消したのか。ジャーナリズム史上に残る大変な失態だ。社をあげてきちんと議論して、記事の取り消しそのものを、取り消してほしい」──。海渡雄一氏は、このように力説した。

 2015年5月8日、東京都千代田区の東京堂書店神田神保町店にて、『いいがかり:原発「吉田調書」記事取り消し事件と朝日新聞の迷走』(七つ森書館)と『朝日新聞「吉田調書報道」は誤報ではない』(彩流社)の刊行記念イベントとして、弁護士の海渡雄一氏とルポライターの鎌田慧氏によるトークライブが行われ、両者はそれぞれに、「正確に検証した上で、記事を取り消したことを、取り消すべきだ」と主張した。

 2014年5月20日、朝日新聞は、それまで極秘扱いされてきた、政府事故調査・検証委員会による、福島第一原発事故当時の所長、吉田昌郎氏への聞き取り調査の内容をスクープした。「吉田調書」と呼ばれるそれは、原発事故発災当時の混乱と危機的状況を生々しく伝えて、大きな話題になった。

 しかし、「吉田所長の命令に反して、所員らが福島第一原発の外に撤退した」という部分が、所員の名誉を傷つけたとして批判が起こり、その後、朝日新聞の慰安婦報道へのバッシングと抱き合わせの形で、同年9月、朝日新聞社は吉田調書記事も「誤報」として取り消してしまう。

 その背景について、作家、写真家、ジャーナリスト、原発技術者ら61人が異議を唱え、「報道への言論弾圧事件だ」と指摘しているのが、鎌田氏が編集に携わった『いいがかり』である。また、原発違憲訴訟などを手がける海渡氏と河合弘之弁護士、原発事故情報公開原告団・弁護団の共著『朝日新聞「吉田調書報道」は誤報ではない』は、吉田調書を丹念に読み込み、さらに公開されている映像や資料を検証した上で、朝日新聞の吉田調書報道の正しさを主張したものである。

 海渡氏は、「福島第一原発事故の真相はわからないことが山積みである。しかし、朝日新聞の吉田調書記事取り消しが、真実に近づく営みをつぶしてしまった。なぜ、取り消したのかはわからないが、福島原発事故を調べるほどに、この記事が正しいとしか思えない」と指摘した。

記事目次

■ハイライト

  • 海渡雄一氏(弁護士)×鎌田慧氏(ルポライター)

マスコミ史上ありえないことだから、歴史に残しておきたかった

 鎌田氏は、朝日新聞の吉田調書の記事取り消しについて、「マスコミ史上ありえないこと。新聞の1面トップと2面に報道された大スクープを『誤報でした』と取り消す。そして、新聞社の社長が謝る。信じられないことだから、『なぜなのか』をきちんと歴史に残しておきたかった」と、『いいがかり』刊行の理由を話した。

 そして、時間はかかるかもしれないが、(取り消したことを)取り消してほしいと続けると、「今は、安倍政権が進める秘密保護法、集団的自衛権、安保法制など、戦争前夜の状況があるわけだから、メディアはそこに向き合って戦ってほしい。今現在が歴史的な瞬間になっている時に、一番信頼されていた朝日新聞がやった行為は理解に苦しむ。合理性がない」と断じた。

 海渡氏は、まず、「これは、誤報と言えるのか」と問いかけると、「私自身も、自分の目で確認してみたかった。いろいろ調べれば調べるほど、むしろ正しいと思える。吉田調書そのものを読み込み、当時の客観的な資料である東京電力の当日の記者会見、そこで配った資料、吉田所長名義で出ていた原子力安全・保安院宛てのファックス、柏崎刈羽原発に残っていた東電のテレビ会議の筆記メモ、これらを総合すると、どう考えても、もともとの報道が正しく、取り消したことが間違いだと思える」と語った。

 その上で海渡氏は、河合弁護士らとの共著本について、このように述べた。

 「2011年3月15日は、福島第一原子力発電所(以下、1F)の事故で、日本が破滅に向かったかもしれない瞬間だ。その瞬間の真実に迫ろうとした報道を取り消してしまうと、あの時の真実がわからなくなる。本当は、その時のことをもっと掘り下げなければいけないのだが、あれだけの報道を取り消すことで、問題がタブー化してしまう。きちんとした報道ができなくなることを危惧して、弁護士として本に書いた」

なぜ、朝日新聞は記事を取り消したのか?

 朝日新聞の対応について、鎌田氏は、「従軍慰安婦報道での虚報問題があり、その後に吉田調書が問題にされた。社長は、それらを合わせて全部謝ってしまった。それで逃げようと思ったのではないか。社長個人の資質なのか、経営陣の問題なのかはわからないが、とにかく、クレームに敏感に反応してしまった」とし、言論機関であれば是々非々で頑張らなければならなかった、と力を込めた。

 吉田調書の記事では、吉田所長の命令に反して所員全員が1Fから撤退した、ということが見出しにあった。鎌田氏は、「『命令違反と撤退』という文言が強すぎたという意見がある。たかだか『命令違反』の4文字、『撤退』の2文字、それだけで、事実を全部転換させる動きがあったということだ」と眉をひそめた。

 海渡氏は、「吉田調書を読むと、『自分(吉田所長)は、本当は1Fの中に残れ、と言った。ところが(所員たちは皆)福島第二原子力発電所(以下、2F)に行ってしまった。あとから考えたら2Fに行ってよかった』という言い方になっている。後半の部分が、朝日新聞デジタル版には載っていたが、本紙には載っていなかった。ほとんどの人が、調書のその部分と記事とだけを読み比べて、これは朝日新聞のミスリードだ、としてしまった。朝日新聞社内の多くの人たちも、そこで思考がストップしているんじゃないか」と話すと、自身が調べた当時の状況を、次のように説明していった。

 「現実の話は複雑で、前日の夜から2Fに全面撤退する計画が進められていた。それは間違いなく、多くの人が証言している。しかし、それを押しとどめようとしていた人もいる。そういう状況で、2号機が爆発したと思った(実際に爆発したのは4号機)。格納容器が壊れて大量の放射能が漏れてくる、となり、前日から準備していた2Fへの退避行動が始まってしまう。だが、その段階で吉田所長が発したのは、『2Fに行くのではなく、1F内の放射線量の低い場所に待避してくれ』という指示だった。人がいなくなったら、原発を管理できなくなるから、何とか現場を維持しようとしたのだ」

 結果的に、吉田所長の指示通りに現場に残ったのは70人ぐらいで、650人は2Fに行ってしまったという。「それが命令違反にならないのはおかしい」と、海渡氏は口調を強める。なぜなら、このオペレーション後の東京電力本店での記者会見で、東電側は『2号機で爆発のようなことが起きて(所員は)現場を離れた。しかし、1Fの中に待避しています』と説明しており、書面にも書いているからだ。

 「吉田所長が(2Fへの退避を)追認しているのなら、『2Fに対策本部は移りました』と記者会見で言わなければならない。そのことを一切言っていない。まさしく、現場で指示違反が起きたことを隠す記者会見をしていたことがはっきりしている」

 こう指摘した海渡氏は、「朝日新聞はこんなに重要な報道を、なぜ、全部取り消したのか。これは、ジャーナリズム史上に残る大変な失態ではないか。この問題については、社をあげてきちんと議論して、記事の取り消しそのものを、取り消してほしい」と語った。

原発事故再び──その対応を問題提起する良記事だった

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