「見識なき会長」「サラリーマン化した記者」…大本営発表から再出発を誓ったはずのNHKの“リアル” 内部事情を実名告発!NHK現役プロデューサーに岩上安身が訊く!~岩上安身によるインタビュー 第533回 ゲスト NHK現役プロデューサー氏 2015.4.29

記事公開日:2015.4.30取材地: テキスト動画独自
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(青木浩文・原佑介)

※5月18日テキストを追加しました!

 「このままではいけない。今回の署名もNHKの人間というより、NHKの良い部分を残したいという、一視聴者として署名しなければいけないのでは、という部分もあった」

 安倍政権が露骨にメディアへの介入を強める中で、元経産官僚の古賀茂明氏やジャーナリストの今井一氏が「翼賛体制の構築に抗する 言論人、報道人、表現者の声明」を発表した。声明は「私たち言論・表現活動に携わる者は、政権批判の『自粛』という悪しき流れに身をゆだねず、この流れを堰き止めようと考える」と宣言。賛同人は1200名を超えた。

 これに関連して、2015年4月19日に、都内で開かれた「報道や表現を自粛しない人たちのオフ会」で挨拶した飯田能生(いいだよしき)さんは、NHKの現役チーフプロデューサーだったことで注目を集めた。

 「会社の中で圧力を受けてクビになるよりも、はるかに恐ろしいものが僕には見えている。だから僕は署名もするし、発言もする」

 NHKの職員として、NHKの一視聴者として賛同の署名をしたという飯田氏だが、NHK内での「立場」は危うくはならないのだろうか。

 「もし、今日この会で発言したことに対して何かを言われたら、申し開きをする。『では、あなたは、なにも言わずに、このまま通り過ぎると思っているのか』と。報道局長だろうが、会長だろうが、言ってやります。今、そのぐらい危機的な状況になって来ていると思うので」――。

 NHK籾井勝人会長は「政府が右と言うことを左と言うわけにはいかない」と漏らして多くの批判を浴びたが、NHKは、今まさに籾井会長のこの言葉通りの報道姿勢を取っているように思えてならない。これはNHKに限った話しではない。「報道ステーション」に古賀茂明氏を出演させたテレビ朝日幹部を政権与党の自民党が呼び出し、事情聴取を行ったことも露骨な圧力である。

 結果として、大手メディア全体に自粛ムードがただよっている。こうした現実に直面した飯田氏が危惧するものは何か。岩上安身が聞いた。

記事目次

■イントロ

  • 日時 2015年4月29日(水)18:00~
  • 場所 IWJ事務所(東京・六本木)

現役NHK職員が「翼賛体制の構築に抗する声明」に署名した理由

岩上安身(以下、岩上)「本日は私も賛同の署名をした『翼賛体制の構築に抗する声明』の賛同者の一人、飯田能生さんにお話をうかがいます。飯田さんは、NHKの本当に現役プロデューサーなんですね」

飯田能生氏(以下、飯田 敬称略)「チーフプロデューサーと言っても、一般職の記者があって、管理職があってという中での、ひとつの一般職ではないですよ、という格好での肩書きで、特にそんなに大それたものではないんです。私は元々記者系の人間なので、取材畑で仕事をしてきました。今いる『首都圏放送センター』という部署は関東甲信越のニュースの制作に携わる部門です」

岩上「今、政治権力によるメディアへの圧力が強まっており、一般の市民から危機感が沸きあがっています。飯田さんはNHKの中にいて、その体制の中で仕事さえしていれば無難に人生も送れるのでしょうが(笑)、あえて呼びかけに応じて賛同の署名をする、名前を連ねられたのはどうしてなんでしょうか」

飯田「私自身は、大それた事とは思っておりません。今日こちらにお呼びいただいたのも、私個人にお声掛けいただいただけで、NHKの人間として呼ばれたわけではないですし、私はNHKを代表する者でも、NHKの職場の声を代表するものでもない。あくまでも一個人として署名したんです。

 声明は極めて単純で、当たり前のことを言っています。言論だけでなく、文芸や演劇、教育も含め、いろんな表現活動の中で、自分の良心に従い、おかしいことはおかしいと言う。これは当たり前のことです。これが制約される世の中のほうが本来おかしいわけで。

 ニュース制作という不特定多数の多くの皆さんに真実を伝えなければならない業務に携わる人間として、『私は真実を伝えますよ』という当たり前の声明に署名するというのは、自分が所属している組織に遠慮したり、誰かが署名することで組織の中で波風が起きるのも本来おかしな話です。

日の丸・君が代…20世紀末から感じていた表現の自由への「枠」

飯田「ただ、じゃあなぜ敢えて積極的に署名しなければならなかったのか。ここ何年かの日本の状況を見ていると、いろんなものに、いろんな制約が生まれてきているような気がしたからです。

 遡れば1999年に国旗国歌法が作られました。いわゆる『日の丸・君が代』問題です。

 これについて賛成・反対があるのはいいと思うんです。お互いの意見に耳を傾け、建設的な議論があるのが民主主義の基本的な姿。それを一方に軍配を上げて、しかも強制力を持たせるということになると、『思想信条の自由』に抵触する危険性が出てくる。

 『国旗国歌法』は国会で成立した法律ですから、法律として存在しているということを認めなければならない。法律が成立しても、なおそれに疑念を持っている方がいる。その人たちに対して、法律の成立をもって『その考え方は間違っているから排除』はできません。

 21世紀を迎える頃から、表現の自由に枠がはめられ始めているのではないかと感じていました。特定秘密保護法案も『スパイ防止法』『国家機密法』と呼ばれていた時代があり、いずれも市民の反対で成立せずにいましたが、第二次安倍内閣で法律化されました。

 一番大きなことは『国が把握している一定の情報を外に出してはいけない』と公務員にまずタガをはめることです。取材する側も『そこまで情報を取りに行ってはいけない』という制約が出てきています。表現の自由に対してタガが掛かる部分です。

 報道できなくなる、しづらくなることが、国民の知る権利に影響を及ぼしてくる。民主主義にタガがはめられて、どんどん崩壊していくという方向になるのではないか。その行き着く先を考えると、今この段階で声を上げなければ、という危険があります」

戦後70年、薄れた戦争の教訓 戦後再出発した「NHKの歴史」

岩上「飯田さんが問題意識として『日の丸・君が代』の問題からスタートし、秘密保護法の問題も考えて、日本がちょっとおかしな方向へ行っているんじゃないかという点は、まったくその通りです。そこを土台にして話を進めていくのは、本当に大事なことだと思います」

飯田「戦後70年、75年と過ぎていく中で、戦争に対する反省や教訓が薄れてしまい、継承されていない次世代が出てきている。非常に心配なところです。日本放送協会は、戦前、戦中とラジオ放送をしていました。大政翼賛状況の中で、政府のプロパガンダの道具として、戦争のお先棒を担ぐという結果になりました。その反省を踏まえて、戦後、放送法もでき、NHKとして再出発するわけです。

 『日本放送教会』が『NHK』になったのは、元々GHQがアルファベットを使えと言って命名したらしいです。戦後すぐにNHKがラジオだけでなく、テレビを始めます。そのテレビの普及を推進していたのはGHQでした。

 GHQのテレビの普及の狙いはアメリカ文化と民主主義の普及。つまり、テレビは民主主義のために日本の中で普及したメディアだと思います。だから、このテレビ報道が偏った方向に行ってしまうのは、いかがなものかという問題意識が強いです」

「政府が右というものに左とは言えない」…籾井会長へのNHK職員の思い

岩上「籾井さんという問題発言をする人がトップに据えられています。『従軍慰安婦』について否定的な自説を述べたり、『政府が右と言っている時に反対の番組は作れない』とも。内部の人達はあの声を聞いてどんなふうに感じ、どんな制約を受けているのでしょうか?」

飯田「最初に登場した時に『政府が右というものを左とは言えない』とおっしゃったのは、多分ほとんどの職員が衝撃的な思いで聞いていたと思うんですね。みんな心の中でどう思ったかと言うと、『ああ、やっちゃった』と。

 本人がどう思っていようと自由ですが、失言なわけですよね。『報道機関の長たるものが、そんなことを大勢のカメラの前で、公の席でそんなこと言ってしまうんだ』と。

 『その程度の見識しかない人が、今回、会長職に就いたんだなあ。まあ、辞めるまで直接顔を合わせるようなことは多分一度も無いんだろうけどね』というのが、大多数の職員の思いだと思うんですね。

 そのようなNHK職員の感覚というのは、一般市民の持っている感覚と変わらないと思うんです。また、少なくとも私が働いている現場で見聞きする限りで、『会長がこう言ったから』という方針変更や圧力は、ほとんど感じたことがないです。

 NHKでは、『報道を守ろう』という意識があると思うんです。報道というのは影響を受けてはいけない、自主独立でなければいけないということは、管理職、職員問わず誰もが思っているはず。どんな圧力があるのか、無いのか、分からないけど、仮にあったとしても、現場まで及ばないような、組織的なガードが出来ているとは思います」

天皇陛下の護憲発言をカットしたNHKの舞台裏はどうなっていたのか

岩上「天皇、皇太子などが折に触れて護憲的なご発言をされますが、NHKではそういう発言だけが削られていたりする。そういう静かな形での現政権への配慮、忖度がされていると見ている方は非常に多いと思う。疑心暗鬼を国民の中で膨らませていると思いますが」

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  1. @55kurosukeさん(ツイッターのご意見) より:

    「見識なき会長」「サラリーマン化した記者」…大本営発表から再出発を誓ったはずのNHKの“リアル” 〜内部事情を実名告発! NHK現役プロデューサーに岩上安身が訊く! http://iwj.co.jp/wj/open/archives/244020 … @iwakamiyasumi
    文字通り「NHK」が報じないリアル。
    https://twitter.com/55kurosuke/status/614588349760737280

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