原発事故には、放射能の拡散による健康被害とともに、戦争のリスクも付随する――。
放射性セシウムの心筋に対する影響を指摘した、ユーリ・バンダジェフスキー『放射性セシウムが人体に与える医学的生物学的影響~チェルノブイリ原発事故被曝の病理データ』(2011年12月、合同出版)の翻訳者で、「チェルノブイリの子ども救おう会」の代表として、ベラルーシの子どもたちの体内の放射能を減らす活動を行っている茨城大学名誉教授・久保田護氏は、2011年12月26日に岩上安身のインタビューに応じ、原発が持つ多面的なリスクについて改めて語った。
インタビュー当時、86歳の戦中派である久保田氏は、岩上安身に艦砲射撃によって撃ち込まれた錆びた鉄片を示し、54基もの原発を海岸線にずらっと並べることは、安全保障の観点からいって、非常に危険なことだと語った。
- 日時 2011年12月26日(月)
- 場所 久保田邸(茨城県日立市)
放射性セシウムによる心筋への影響を指摘したバンダジェフスキー
岩上安身(以下、岩上)「本日は、茨城大学名誉教授の久保田護先生にお話をうかがいます。先生は、ユーリ・バンダジェフスキー著『放射性セシウムが人体に与える医学的生物学的影響~チェルノブイリ原発事故被曝の病理データ』を翻訳された方です」
久保田護氏(以下、久保田・敬称略)「私は、『チェルノブイリの子どもを救おう会』の代表をしておりまして、放射線安全研究所とのつきあいがありました。それで、所長のネステレンコさんと会い、この本の原本を手渡されました。彼は、バンダジェフスキーが出獄した時の身元引受人でした。
バンダジェフスキーが今年、キエフで出版した本というものがあります。チェルノブイリ事故による放射線被害によって生じた生殖問題、それから人口問題に関する論文です。私が注目したのが、ベラルーシでは、子どもの数が毎年毎年減っているということです。
日本では、放射線によって発病したのは認められていないというけれど、実際、このように、事故の後、どんどん病人が増えているというデータがあるわけです。小児甲状腺がんも増えています。子どもだけでなく、大人も増えているのです。
バンダジェフスキーが言っているのは、ガンよりも心臓のほうが危ない、ということ。こういうことが、日本では言われていない。なぜかというと、日本の研究は、米国による原爆投下の影響を研究するというところから始まっているからです。
IAEAは、国際的に原子力発電を進めるグループ。日本では、原子力工学を学んだ人のうち、原発に賛成する人は教授になるけれども、反対する人は教授になれません。原発を作るための研究にしか、文科省は研究費を出しません。
これは、原発推進のための大本営発表と同じことです。私が小さい時、大本営発表がありました。大本営にいた人は、ほとんどが真面目な軍人で、お国のためを思ってやっていた。ミッドウェー海戦で空母がすべて沈められた、などということを発表するわけにはいきませんでした。
今の政府でも、かつての大本営と同じように、嘘をつかざるを得ないという人が、かなりいるのではないかと思います」
前放射線影響研究所理事長・長瀧重信氏への反論
岩上「なるほど。戦争に反対する軍人が、軍隊の中で出世するわけがありませんよね。それと同じ話で、原発に反対する人が、原子力ムラの中で出世することができるはずがない、ということですよね」
久保田「ある組織は、その組織の立場に立って報告をします。だから、報告を読む時は、そういう立場の人が出した報告なんだ、ということを前提にして読む必要があると思います」
岩上「先生が今回、バンダジェフスキーの本を出版されようと思ったのは、前放射線影響研究所理事長の長瀧重信氏による朝日新聞の寄稿がきっかけだったということですが」
久保田「私はこれまで18回ベラルーシに行き、放射能汚染地区に行きました。そこで聞き取りをすると、明らかに子どもの元気がなくなった、ということでした。学校も、授業を短縮せざるをえなくなった、ということがあるわけです。
そういうことを踏まえると、甲状腺がん以外に放射線の影響による健康被害を否定する長瀧さんの言い方は、それは違うだろう、というふうに思うのです。
岩上「先生が翻訳されたバンダジェフスキーの論文の中で、重要な点というのは、どういった所なのでしょうか」
久保田「それは、心臓が危ない、という点です。放射線セシウムは体の中に入ると、ガンマ線の他に、ベータ線を出します。体内に入っている放射性セシウムの影響は、体外から来るものとは話が別なのだ、と。水分を電離して、そういうものがいろんな作用をして、組織を変えます。ベータ線によって発生する『毒作用』というものが、この本には書いてあるのです。
バンダジェフスキーの特色というのは、ゴメリという、汚染地帯の中にある大学の学長だった、ということです。したがって、ゴメリ周辺の病人を中心に見ていました。さらに、病気で亡くなった人を解剖して、心臓や腎臓に溜まっている放射性セシウムの量を調べる、といったことも行ったのです」
原発は、戦争で真っ先に狙われる
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久保田「私の家は、東海第二原発から10キロです。東海第二が福島第一と同じことをやれば、日立と水戸は20キロ圏内です。退避すべき人数は、福島どころではありません。津波があと1メートル高ければ、本当に危ない状況でした。
地震、津波というのは、まだこれからも起こるかもしれません。それから、原発について質問が出た時に、北朝鮮のミサイルが飛んできた時に、原発は安全ですか、というものがありました。戦争をするとなったら、攻撃目標は原発になると思います。
ミサイル一発で原発をひとつ壊したら、非常に効果があることになります。原発は、戦争に対して弱いと思うのです。戦争が絶対にないならば、自衛隊はいりません。戦争がありうるという前提で、自衛隊が作られているわけですから」
岩上「戦中世代としては、戦争のリスクに対して、リアリティをお持ちだということですね」
久保田「日本は明治維新後、何十年かおきに戦争をしていたわけです。日本には、そういう歴史があるわけですよね。今の教育では、なぜ日本が米国と戦争をすることになったか、全然教えません。
私は、戦争は絶対にない、などということは言えません。そのような時に、日本列島に54基の原発があるというのは、攻撃のポイントが54基あるということです。
これが、家のすぐ外に落ちていた、砲撃の破片です。米国の艦隊が釜石あたりの海上から撃ってきたものなんですね。こういう艦砲射撃の目標としては、原発ほど格好のものはありません。何しろ、海沿いにあるわけですしね。
原発は、目標がはっきりと分かっていますから。日本の防衛という点で、非常に弱いと思います。日本は、戦争で攻撃された際の国づくりというものを、全然考えていません。原発がそういうリスクを持っているということは、考えておかなければいけません。
そもそも、原発は安くありません。日本では、廃棄物の処理費用を安く見積もって計算しています。高木仁三郎さんも言っていましたが、米国が原発をずっと作っていないのは、原発が高いと考えているからではないでしょうか。
日本が原発を維持しているのは、将来的に、核兵器を持ちたいという考えがあったからではないでしょうか。戦争をやる人にすれば、できるだけ優秀な兵器をほしいと考える。そうなると、最も優秀なのは、ミサイルに積んだ核兵器だ、ということになります。
原発を抱えるリスクについて、全然報道されていません。こうしたリスクについて、よく考える必要があると思うんですけれどね」
※2015年3月16日テキストを追加しました!
バンダジェフスキー論文の翻訳者が語る、「原発×戦争×健康被害」リスク~岩上安身による茨城大学名誉教授・久保田護氏インタビュー http://iwj.co.jp/wj/open/archives/238804 … @iwakamiyasumi
原発事故には、放射能の拡散による健康被害とともに、戦争のリスクも付随する。
https://twitter.com/55kurosuke/status/604421572850360320