「国境の守りを固め 安心・安全・島の活性!」、「神高い島 軍隊はいらない!」
町内のいたるところには、賛成と反対ののぼりが対立するように立ち並んでいる。
2015年2月22日、日本最西端に位置する沖縄県与那国町では、陸上自衛隊配備の賛否を問う住民投票の投開票日を迎える。
2005年に自衛隊配備が打診されてから、与那国町民は、賛成派と反対派に二分されてきた。かつて、1万人以上いたと言われる与那国町の人口は、現在、約1500人にまで減少。賛成派は、自衛隊配備によって駐留する約150人の部隊とその家族の来島によって、人口減少に歯止めをかけ、町の活性化を狙う。
自衛隊誘致を推進する外間守吉(ほかましゅきち)町長は、2013年の町長選で3選を果たしたが、誘致反対派の候補との得票数の差はわずか47票。昨年2014年4月から、配備予定地ですでに工事は始まっているが、反対派の声も根強い。特に、島の中心部に位置する祖納地区と西部の久部良地区の住民の中には、基地レーダーによる電磁波の健康影響に不安を抱く住民も多い。今回の投票結果次第では、工事の計画に影響を与える可能性もある。
有権者の数は、中学生や永住外国人を含め、1300人弱。投票結果に法的拘束力はないものの、外間町長は「反対が上回ったら、町としては配備に非協力的にならざるを得ない」と語っている。
基地に反対する理由「備えがある方が、むしろ危ない」
反対派の中には、戦争体験者も少なくない。与那国町比川地区に住む牧野トヨ子さんは、現在92歳。22歳当時、乳飲み子を抱えながら太平洋戦争の戦火を体験した一人だ。隣国から近い位置にある与那国島の警備強化は、経済を活性化すると共に、島の安全にもなると賛成派は主張するが、牧野さんはこれに強く反対。「備えがある方がむしろ危ない」と警鐘を鳴らす。IWJは2月20日、牧野さんの自宅で、その胸の内を聞いた。
「戦争体験からいっても、備えがある場所の方がむしろ危ない。何もない所に(攻撃)は来ない。人が住んでいるから、軍事基地を作ったら危ない。止めた方がいいと、周りには言ってきた。自然がないと観光にも来てもらえなくなる。先祖代々残した自然を、これからの世代に残してあげたい。
今の世代は戦争を知らない世代が多い。22歳の時、長男がまだ乳飲み子の頃、戦争が盛んになった。3月3日浜降(はまおり)の日に、米軍が上陸しているというから、洞窟に避難した。食べ物も持たないで逃げて、子どもは泣くし、大変だった。洞窟から出ようとしても、次から次へと(戦闘機が)こちらめがけて飛んできた」
基地に依存しない経済をどう実現するか
「兵隊の島になる。島の人はみんな出て行ってしまう」
島を活性化する方法について、牧野さんは観光を掲げる。しかし、基地ができれば、島民のさらなる流出に繋がると不安を抱く。
「人口が増えるとか、お金のことだけを考えてはだめだと思いますよ。戦になったら、何のためにもならない。与那国は景色もいいし、自然にも恵まれているから、観光客を呼んだ方がいい。基地がある所に観光客は来ない。お金に目がくらんでいる人が、島を売ろうとしている。先祖代々守ってきたこの土地を、次の世代に渡すのが私たちの責務だと思っている」
戦争を体験した一人として、牧野さんは戦争へと道を開く選択には、断固反対する。インタビュー途中、外を走る賛成派の街宣カーの音が聞こえた。
「不思議だね。自分の島を売り払おうとするなんて考えられない。これは、みんな戦争を知らない人。自衛隊は、人を助けるからためになるという人もいるが、これは大きな間違い。地震や災害の時は助けるかもしれないが、いざ、戦争となったら向こうも命ある人間。人を助ける余裕はない。
絶対に、戦争で人を助ける余裕はありません。沖縄本島では、戦争の時、防空壕の中に島民をみんな外へ出して、兵隊が中に入ったという話もある。戦争が分からない人は、(自衛隊が自分を)助けてくれると思っている」
「島の生活が変わってしまうのは、大変なこと」
「台湾から持ってきたお米とかね、ヤマトから商売の人が来て、バーター(物々交換)したりね。とても賑やかだった」
牧野さんは、過去、与那国島が台湾との貿易で栄えた時代を懐かしく振り返り、周辺諸国との関係について触れた。
「みんなと仲良くしたらいい。(隣国と)行ったり来たりすればいい。沖縄は昔日本のものではなかった歴史があるから、みんなと仲良くしたら戦争はしないはずと思っている。昔みたいに、できないかもしれないけど、みんなが本土とも仲良くして、戦争のないようにして、できたらその方がいい。他の国と仲良くしたら戦争することはない」
住民投票の行方が気になる。結果によっては、基地建設が加速する可能性もあり、そうなれば、この島の生活は一変する。「賛成」票が上回った場合はどうするのか。牧野さんに聞いた。
「軍隊や自衛隊でいっぱいになるでしょう。統制されて、ここから先は入れない、あっちから先は入れない、となる。島の生活が変わってしまい、自由にはできないはず。これは大変なこと」
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