「堂々と刑務所に、留置所に、拘置所に入る、というような時代になるのではないでしょうか。今回逮捕されるかもしれない私は、善いことをして逮捕されるのだ、と思っています」
フリーランス表現者43名が提起した「特定秘密保護法違憲確認訴訟」の原告団が主催で、11月14日(金)17時から、ジャーナリスト・常岡浩介氏による講演会が霞ヶ関・弁護士会館508号室にて行なわれた。
イスラム国(IS)に関連しているとして強制捜査を受け、「私戦予備及び陰謀罪」の被疑者として、自ら「逮捕間近」と語る渦中の常岡氏。この一件が12月10日に施行される「秘密保護法施行の前哨戦」であると位置づけ、ジャーナリズムへの締め付けに警鐘を鳴らし、報道の自由を訴えた。
会場には大勢の報道陣のみならず、特定秘密保護法施行後の社会を危惧する多くの市民が詰めかけた。講演会後には、日比谷公園霞門から法務省、警視庁、警察庁、外務省、内閣府など周辺を1時間ほど行進するデモが行なわれた。
- 集会 常岡浩介氏(フリージャーナリスト)「私に対する強制捜査は秘密保護法施行の前哨戦」
- デモ 日比谷公園霞門 → 祝田橋左 → 桜田門左 → 霞が関二丁目右 → 財務省上 → 官邸前左 → 内閣府下左 → 財務省上右 → 日比谷公園西幸門内
※以下、発言要旨を掲載します
公安部による家宅捜査――「秘密保護法施行の前哨戦」
常岡氏「『秘密保護法』という言葉が聞こえ始めた頃、私は逮捕第一号になるんじゃないか、と思っておりました。それでも、施行前から捕まる(可能性が出てくる)とは予想しておらず、まさに予想の斜め上を行く結果となりました。
11月13日の午後1時、警視庁公安部外事三課から電話がかかってきて、『あなたを「私戦予備及び陰謀罪」の被疑者として取り調べたいので、出頭願います』と言われました。家宅捜索を受けた10月6日には『被疑者は北大生26歳』、私は参考人でした。
任意同行を拒否しましたので、すでに逮捕状が出ているのでは、と思っていましたが、今日(11月14日)のところは、まだわが家には誰も来ていませんし、家から普通にここ(会場の弁護士会館)へ来ることができました。しかし、明日はどうなるか、分かりません。
家宅捜索の時、『私戦予備及び陰謀罪』とは関係ないはずの取材道具であるビデオカメラなどの電子機器を問答無用で持って行かれました。すぐに弁護士に相談し、準抗告という手続きをしましたが、裁判所から『準抗告を棄却する』という手紙が届きました。
12月に施行される特定秘密保護法を、自分たちでどう運用していけばいいのか、公安部も考えていると思います。そこで今回、私の家や、中核派系のシェアハウスに家宅捜査をしたら、メディアがどう報じるか、試しているのでしょう。そのために、現在にわかに公安部が目立って活動をしているのを見せているのだと思います。今後、私や中田考先生や北大生を逮捕するのか、についても、公安警察は今、世間を見ているのだと思います。
私がTwitterで『逮捕秒読み』とつぶやいたら『それはあまりにもひどい』というリアクションがあり、驚きました。今回(会場に集まった)市民の反応が、おそらく警察に相当の影響を与えるであろうことを期待しています」
公安部による取材妨害―― 警察の組織体質への警鐘
常岡氏「被疑者になろうが、刑務所に入ろうが、捜査協力や事情聴取を一切拒否します。今回の事件は報道の仕事をする上で致命的な、有害な警察の捜査です。特定秘密保護法施行後に、これが当たり前になってしまうと、やばいことだと改めて思います。
世界中がイスラム国の残虐性を叫んでいるのに、直接イスラム国に取材できている人は、誰もいません。私は先進国、主要国では唯一イスラム国に取材を認められて、(現地に)入れる記者だと思います。イスラム国に捕まっている湯川遥菜氏の通訳ができるジャーナリストとして、私と中田氏が招待されて取材しに行きました。次に湯川さんの消息が届くのはいつになるかわからない状態の今、私への取材妨害は、日本人の安否に関する情報の妨害です。
他にも、シリアに入って、帰国しないまま、連絡が途絶えているフリーのジャーナリストがいます。この方も、イスラム国に捕まっているかもしれない。彼に連絡できる私と中田氏のアクセス手段が使えなくされており、これは日本の国益にマイナスにしかなりません。
外事三課は、今回もまた、日本に害毒を垂れ流すだけの存在になってしまっています。特定秘密保護法も、国家の秘密を守るため、という前提があるのかもしれませんが、それは、今の警察のシステムではできないでしょう。警察がこれまでにどんな失態を続けてきたか、分析しないといけないのに、できていない。単に無能な集団に、秘密を楯にした権限を与えてしまうと腐敗するだけになってしまいます。
私が取材してきたプーチンのロシア、サダム・フセインのイラクのような国に、自分の国がなってしまうことはない、とつい最近まで思っていましたが、家宅捜索を期に、考えを改めました。ロシアのKGBでさえ、あそこまではやらなかったのですから。公安の悪口を言い続けていますので、明日、明後日にも捕まるのかな、と思っていますが、捕まるまでに、言いたいことは言い尽くしておこうと思っています」
不自由に抗して―― ジャーナリストとしての戦い
IWJ記者「12月に施行される特定秘密保護法に対して、ジャーナリストとして、また、市民として、具体的に、どのように対抗していくつもりなのでしょうか」
常岡氏「『国境なき記者団』に連絡して、(重要なデータを収めた)ハードディスクを保管できる場所はないだろうかと相談しましたが、返事がありません。いざとなったら、ジャーナリストは亡命して、海外を拠点に取材をするしかないと思います。また、一般市民であっても、(特定秘密保護法に)生命を脅かされる危険性があり、海外に安全を確保できる場所があるのなら、そちらに拠点を移すことを考えるのも一つの手段だと思います」
IWJ記者「事情があって、日本を離れられない人や、あくまでこの国に残ってこの流れに立ち向かいたいという人に対して、何かメッセージがあればお聞きしたいと思います」
常岡氏「不自由な国は世界にたくさんあります。(そういう国には)みんなでがんがん刑務所に入って、刑務所をパンクさせるという手段があります。日本国内でどうしようもなければ、(その状況を)世界に見せ続けるということです。逮捕されることで、国内ではイメージが悪くなったり、就職にも響くということがありますが、堂々と刑務所に、留置所に、拘置所に入る、というような時代になるのではないでしょうか。今回逮捕されるかもしれない私は、善いことをして逮捕されるのだ、と思っています。
ガンディーは、何度も逮捕されています。国によっては、刑務所に何年いた、という人のほうが人格的にまともだったりします。官憲がおかしくなった場合、我々は刑務所の中で闘うしかない、という時代が来るのではないかと思っています」
特定秘密保護法下で腐敗する警察―― アメリカ法との比較