米軍普天間基地の辺野古移設強行をめぐり、沖縄では地元を中心に反対運動がわき起こっている。同じように今、京都でも米軍Xバンドレーダー基地の建設強行が問題となっている。
2014年9月6日(土)、京都市中京区にあるウィングス京都で開かれた「米軍犯罪を許さない!『日米地位協定』の改正を!9.6京都集会」では、冒頭であいさつに立った「Xバンドレーダー基地反対・京都連絡会」共同代表の白井美喜子氏が、「安倍政権は、7月1日に集団的自衛権の行使容認を閣議決定し、同日に沖縄県名護市辺野古に米軍の新基地を建設すべく、沿岸から50メートル沖までという従来の立ち入り禁止区域を、最大2.3キロ沖まで一気に広げた。これは刑事特別法による取り締まりで、基地建設反対の市民勢力を封じ込める暴挙だ」と強い調子で語り、8月18日に基地建設のためのボーリング調査が始まったことに、怒りをあらわにした。
その上で白井氏は、「ここ京都でも、京丹後市に(弾道ミサイルの探知・追尾に使われる=敵軍の標的にされやすい)米軍Xバンドレーダー基地を作る動きが、地元住民の安心・安全を求める気持ちを宙に浮かせたまま本格化した」と発言。10月にはレーダー機材搬入、12月末には第1期工事が完成という、防衛省が明らかにした工程を示しつつ、「現地を訪れると、工事が日々進んでいる様子が見て取れる」と報告した。
そして、レーダーの運用開始後は、最大で160人の米軍関係者(軍人と警備・技術に従事する軍属、以下同)が京丹後に暮らすことになると発表されたことに触れて、「それが、どういう『リスク』を伴うものなのか。私たちは、沖縄の市民有志の方々の戦いから学ぶべきだ」と強調。「今後は沖縄市民の方々の戦いと連携しながら、京丹後のXバンド基地建設を中止に追い込む運動を続けていきたい」と表明して、沖縄から招いた高里鈴代氏(基地・軍隊を許さない行動する女たちの会共同代表)を紹介した。
- 主催あいさつ 大湾宗則氏(Xバンドレーダー基地反対・京都連絡会共同代表)
- 話 高里鈴代氏(沖縄、基地・軍隊を許さない行動する女たちの会共同代表)/服部良一氏(前衆議院議員)/質疑応答
- アピール/閉会あいさつ 上岡修氏
- デモ行進 ウィングス京都前 → 烏丸通 → 四条烏丸 → 四条河原町 → 京都市役所前
- 日時 2014年9月6日(土)14:00~
- 場所 ウィングス京都(京都市中京区)
- 主催 米軍Xバンドレーダー基地反対・京都連絡会
日本の警察が逮捕できない
「京丹後の基地建設は、5月27日の朝6時半という、寝込みを襲う形で始まった」──。高里氏の講演に先立ちマイクを握った、基地反対・京都連絡会共同代表の大湾宗則氏は、昨年2月22日に実施された安倍晋三首相とオバマ米大統領による日米首脳会談で、京丹後市に、青森県つがる市に次いで日本で2ヵ所目となる米軍Xバンドレーダー基地を作ることが決まって以来、自身らが、地元市民たちの問題意識を呼び覚ましつつ基地建設阻止に向けて全力で戦ってきたことを紹介。「にもかかわらず、基地建設が開始されたことは大変遺憾だ」とした。
「日本に新たなXバンド基地が誕生すれば、集団的自衛権の行使を促す要因にもなる」とも語った大湾氏は、基地建設を止めることの大切さを訴え、「今年10月にレーダーが搬入されることが、予告されている。われわれは、9月28日に京丹後で搬入阻止に向け大集会を開く。地元住民が戦いの前面に立つことを支援していく構えだ」と力を込めた。
大湾氏からマイクを譲り受けた高里氏は、「日米地位協定の問題部分が、どこにあるかを簡潔に話していきたい」と宣言し、1995年9月に沖縄で発生した、当時小学6年生だった日本人少女が3人の米兵に拉致・レイプされた事件を取り上げた。
高里氏は「あの事件が、沖縄で地位協定見直しの必要性が議論される大きなきっかけを作った」とし、「特に、沖縄の女性たちの間には『地位協定とは何か』を学ぼうとする機運が一気に高まった」と指摘した。
くだんのレイプ事件では、実行犯3人が「特権的」に扱われた。公務外に米兵が基地の外で犯罪を起こし、米側が先に容疑者の身柄を拘束した場合、日本が起訴するまでは、日本の警察は逮捕して取り調べることができないと定めた、日米地位協定(旧第17条5項C)によって守られたのだ。
これに対し、反基地感情を募らせていた沖縄県民の怒りが爆発。「協定見直し」を求める声が沸き上がった。
米兵犯罪の割合は低いから問題ない?
地元世論をバックに、当時の沖縄県議会は、米軍への協定改定要求を含む抗議決議を採択するのだが、それから約20年が経った今も、「全28条からなる協定は、ただの1条も変わっていない」と高里氏は言う。
17条5項Cについて、米政府はレイプ事件発生後の1995年10月に、運用面での改善を表明した。しかし高里氏は、これはあくまでも改善の努力を言っているもので、「『容疑が確定する前でも、凶悪犯罪に関しては、容疑者を日本の警察に引き渡すように考慮を払う』という内容で、『渡します』とは明言していない」とした。
高里氏は協定そのものを、「日本が米軍への基地提供で担う義務と、その基地に駐留する米軍関係者にはどのような権利があり、保護されるのかに関する取り決め」と説明。その上で「その規定の中に、地域住民の安心安全面の保護や環境汚染の責任を問う文言は、一切盛り込まれていない」と指弾すると、「『不平等きわまりない』という表現がぴったりなのが、日米地位協定だ」と喝破した。
沖縄での米兵によるレイプ事件は、ほかにもある。2008年2月に起きた事件について、高里氏は、当時の『週刊新潮』が「被害者である女子中学生が、危険な米海兵隊と知りつつ、付いて行ったことのツケは大きかった」という記事を書いたことを改めて非難。
海兵隊を危ない存在と見ていたのなら、その海兵隊を基地の外に出すことを許している「日米地位協定」に、批判の矛先を向けるのが筋だったのではないかと指摘して、地位協定を巡る問題意識は、沖縄と本土との間に温度差が感じられるとした。
さらに、高里氏はこのように語る。「米軍関係者による犯罪が減ってきていることを示すデータは、確かに存在する。それに接すると『米兵が起こした犯罪に、いちいち大騒ぎするのはナンセンス』と、つい思いたくなる。しかし私たちは、『沖縄に駐留する米軍人・軍属やその子どもたちが、沖縄県民から乱暴されているのか』という視点を失ってはならない。こっちは恐らくゼロだ」。
基地の「外」にも軍関係者が住む
Xバンドレーダー基地に話が及ぶと、「京丹後には、最大で160人の米軍関係者が住むことになると発表されているが、『誰が、いつ、別の基地に移り、新たに誰が入ってきた』といった、詳しい情報は日本側には開示されない。地位協定の言い分は『これは重要な軍事情報だから、日本に伝えなくていい』というものだ」と述べた。
高里氏は、2012年10月、沖縄で2人の米兵が帰宅途中の日本人女性を襲ってレイプした事件について、「加害者の米兵は、米テキサスの部隊からグアムに移動する途中の数日間、沖縄に滞在した。宿泊先は、基地の外の民間ホテルだった」と語る(この事件では、沖縄県警が基地の外で容疑者を逮捕しており、沖縄県警が引き続き身柄を拘束して捜査した)。
沖縄では、こうした短期駐留組以外にも、基地の外に住む、家族を含む米軍関係者が1万数千人いる、と続けた高里氏は、「そのこと自体が、地位協定違反だ」と強調。沖縄の米軍基地がフェンスの外側に浸食する「液化現象」が、すでに生じていると話した。
「今や、米軍関係者の4人に1人は、基地の外の住宅で暮らしている。これは、沖縄以外の米軍基地にも当てはまる」。次のスピーカーの服部良一氏(前衆議院議員)は、同じ話題で、こう指摘した。「彼らは住民登録をしないため、自治体の職員が一軒ずつ訪ね歩いて、実態を把握しなければならない」とし、「このままでは早晩、京丹後も似たことになる」と警鐘を鳴らした。
市民グループ「米軍人・軍属による事件被害者の会」で事務局長を務めた服部氏は、「日米地位協定の理不尽さは、当事者でなければわからない」と訴える。「憲法で保障される基本的人権よりも先にくるのが、地位協定であり、その(米軍関係者に圧倒的に有利な)ルールが、京丹後に持ち込まれようとしている」と力説して、「海老原鉄平」という故人の名前を口にした。
裁判で戦うことは非常に難しい
1996年2月、沖縄県北中城村の国道で、当時19歳だった海老原氏が運転するバイクが、米兵が運転する乗用車と衝突。海老原氏は死亡した。「兵庫県出身で、沖縄国際大学への合格を果たした海老原君は、入学式を待たずに帰らぬ人なった。大学の入学式には、胸に遺影を抱いたお母さんが出席し、沖縄のメディアは総じて、これを大々的に報じた」。