「県外移転者も多くなったので、国の支援が必要だ。検討委員会の見直しもある。データを集めたり、調査をするのが目的ではない。あくまでも県民の健康を守り、良くすることが委員会の目的だ」――。
第10回目となる「東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う住民の健康管理のあり方に関する専門家会議」が2014年8月27日(水)17時より、東京都千代田区にあるイイノカンファレンスセンターにて開催され、「県民健康調査」検討委員会座長の星北斗氏は、参考人として検討委の目的を冒頭のように述べた。
今回の専門家会議では、8月24日に福島市で開催された「第16回 福島県『県民健康調査』検討委員会」の報告を踏まえた上で、健康調査の開始から3年が経過し、検討委が16回を重ねたことをひと区切りととらえて、これまでの懸案点や今後の方針について、意見交換が行なわれた。
星氏は、小児甲状腺がんの検診結果に対して「過剰診断」という指摘があることに関し、「36万人を検査したが、甲状腺がんは3ヵ月で15人という一定の割合で増えている。(その理由を知るためにも)手術した内容は、個人情報を守りながら知らせるべきだ」とした。
また、委員同士が「臨床と、疫学的な観点とは違う」「過剰診断は、前例もあるので考慮はすべき」、「甲状腺がんは違う。もっと配慮が必要だ」と議論し合う一幕もあった。
- 被ばく線量把握・評価に関すること
- 健康管理に関すること
- 医療に関する施策のあり方に関すること
104人が「悪性もしくは悪性疑い」
冒頭で、環境大臣政務官の浮島智子衆議院議員が挨拶をしたのち、退席した。議事に入り、まず環境省の事務方より、配布資料の「福島県『県民健康調査』と既存の健診・検診制度に関する概要」を読み上げた。内容は「県民健康調査の全体像、日本の健診制度の概要、既存の法定健診と県民健康調査『健康診査』との関係、市町村のがん検診の項目について」である。
「平成23年から24年度にかけて、肥満、高血圧、脂質代謝異常など生活習慣病は減少傾向だが、肝機能障害、γーGT高値、高尿酸血症、腎機能障害などは増加傾向になった」と報告し、生活習慣の改善に務める必要性を説いた。
次に、法定がん検診(胃、子宮頸、肺、乳、大腸)と甲状腺がん検診の結果、第16回県民健康調査の資料によれば、平成23~25年度で104人が『悪性もしくは悪性疑い』の甲状腺がんと診断されたことを簡単に述べた(25年度だけでは35人)。
「こころの健康度・生活習慣に関する調査について」「妊産婦に関する調査」では、平成26年度の調査対象、実施計画などを話し、「24年度は、前年よりやや増加したが、早産率、未熟児出産などの出産異常は、全国平均と変わらなかった。また、うつ傾向の母親の割合はやや減少したが、いまだ高率で安心できない」と述べた。
「被曝影響のない甲状腺がん」を把握するための検査
次に、福島県立医科大学教授の安村誠司氏が、県民健康調査の目的を、「震災での県民の不安を払拭するため」とし、「その結果を公表し、活用していく。県民205万人が、どれだけリスクを受けたか、被曝線量の実態を把握することだ」と話した。
また、被曝以外の避難に伴う健康影響に対し、適切な支援を行なうため、甲状腺検査、健康調査、こころの健康調査、妊産婦調査を4本柱としたと説明。甲状腺がん検査は36万人が対象となり、チェルノブイリの知見を参考に、「放射能の影響のない甲状腺がん数を把握するため、3年間で検査を終えること目標にした」と述べた。そして、この3年間で明らかになった「リスクを持つ集団」を参考にして、追跡調査を続行していく、とした。
安村氏は、避難区域以外の健康診査、こころの健康、妊産婦に関する調査の概要を話し、「妊産婦では、24年度は1万4500人で1500人減少したが、25年度には1万5000人に回復した。また、奇形、早産率なども増加は認められなかった」と報告した。
被曝影響の有無ばかりが問題になった県民健康調査
続いて、県民健康調査検討委の座長である星北斗氏が、基本調査の回答率の低さを指摘した。その上で、甲状腺がんだけに世間の関心が注がれ、数値がひとり歩きしてしまったことへの忸怩たる思いを滲ませた。そして、「県民健康調査を、相対的、全体的に分析できるデータにすべきだ」と述べて方針転換を示唆しつつ、8月24日に第16回県民健康調査検討委へ提出した「中間まとめ」を説明した。
「中間まとめ」では、甲状腺がん検査については、被曝影響の有無ばかりに議論が集中したこと、過剰診断の問題、受診率の低下、学校などの集団検診でとらえられなくなる今後の追跡調査の問題点などを挙げた。
星氏は「甲状腺検診は、2次検査以降は一般の保険診療になる。現在、18歳未満は無料だが、それ以上の年齢になると医療費負担の問題が出る。また、進学や就職などで県を離れた人たちへの対応はどうするのか」と述べ、今後、対象者の年齢が上がり、居住地域も広がる可能性があることに言及した。
また、がん検診の受診率低下の阻止と受診向上の必要性、甲状腺の診療や検査体制のための人材育成、軽度うつ病の増加による精神科の医師不足などの問題を列挙し、「今、健康調査の回答率が下がっている。もう安心しているのか、それとも別の理由があるのか、もっと検討を要する」と懸念を表明した。
過剰診断による手術への負担、無用な手術の可能性
質疑応答に移り、星氏の中間まとめについて、「過剰診断により、さらに一定数のがんが発見されることによる2次被害を述べているが、それは何か」という質問が出た。星氏は「手術への負担、無用な手術の可能性」と答えた。
精神科の受診への偏見と、こころのケアセンター(相談員支援センター)の効果について問われた安村氏は、「精神科受診に対しては、それほど拒否反応は見受けられない。こころのケアセンターでは、県立医大、市町村とで情報共有して、きめ細かな対応ができるようになる」と評価した。
がん検診の受診率の低さの理由を問われると、星氏は「検診全体の受診率が下がっている。がん検診は複数の施設で受けるため、わずらわしさがあるからではないか」と述べた。
受診率の低下と県外移住者への対応について