「子どもたち8人くらいで、私の小屋めがけてロケット花火を打ち込んできました。夜になる度に不安になって、寝られなくなります」――
墨田区内で野宿をしているAさんが、8月14日に開かれた「野宿者への襲撃の実態に関する調査」の報告記者会見で、日常的に続く嫌がらせについて体験談を話した。物を使った嫌がらせのほか、Aさんは「働かない乞食」「泥棒野郎」「死ね」といった暴言も吐かれるという。
(IWJ・ぎぎまき)
「子どもたち8人くらいで、私の小屋めがけてロケット花火を打ち込んできました。夜になる度に不安になって、寝られなくなります」――
墨田区内で野宿をしているAさんが、8月14日に開かれた「野宿者への襲撃の実態に関する調査」の報告記者会見で、日常的に続く嫌がらせについて体験談を話した。物を使った嫌がらせのほか、Aさんは「働かない乞食」「泥棒野郎」「死ね」といった暴言も吐かれるという。
■ハイライト
今年の6月下旬から約2週間、NPO法人自立生活サポートセンター・もやいなど、都内のホームレスを支援する団体が、野宿者への襲撃実態を把握するため、新宿や上野、浅草などで聞き取り調査を実施した。回答を得たのは合計347人、平均年令は59.8歳で、その約5割が60代だという。襲撃の内容として顕著なのは、殴る、蹴るといった「身体を使った暴力」と、さらに、ペットボトルやたばこ、花火などの「物を使った暴力」が62%を占めた。
平成24年1月、厚生労働省もホームレスの実態に関する全国調査を行なっている。その際、襲撃を受けたことがある野宿者の数は12.4%と、今回の調査結果とは統計が大きく異なっている。それは、なぜなのか。考えられる理由として、もやいの大西連氏が説明した。
「国の調査では、嫌がらせや暴力は12.4%だという統計しかなかったが、より当事者に近い立場である支援団体が今回聞き取り調査をしたところ、40%という統計がでた」
政府の調査結果とは明らかな違いが見られたのは、日頃から野宿者と交流のあるサポート団体が、丁寧に聴きとり調査をしたことが背景にあるという。
定期的に路上生活者を訪ね、おにぎりを差し入れているという、「ひとさじの会」の吉水岳彦氏は、今回の調査で見聞きした体験を報告した。
「(野宿者の)おじさんたちは、『俺はたいしたことされてないよ』とまず言うのですが、良く聞いてみると、仕事で使う大事な自転車を川に投げ込まれたり、水が入ったペットボトルを集団の少年たちに投げつけられたりしている。そうした話を聞きました」
自分は「物」としか思われていないと嘆く野宿者もいたといい、吉水氏は、少年たちの暴言や暴力がこれ以上エスカレートしないよう、学校現場における人権教育の必要性を訴えた。
2年前になるが、大阪・梅田で67歳の野宿者が若者5人に殺害された事件が実際に起きている。95年まで遡ると、襲撃によって命を落とした野宿者の数は10人にも及ぶ。対策を早急に講じなければ、少年たちが近い将来、犯罪者になる可能性もあるのだ。
「(襲撃にくる時間帯は)深夜12時から3時頃までが一番多い。鉄パイプを持った3人組が、振り回しながら向かってきたことがある。その時は運良くパトカーがいたからよかったが」
Aさん同様、都内で野宿生活をするBさんも会見に出席し、日常的に受ける嫌がらせについて訴えた。襲撃されやすい時間帯は深夜が多いというが、その理由は、顔などが特定しにくい暗い時間を狙っていると考えられている。加害者の約4割は年齢が識別できないという結果が出たのもの、そのためだ。
しかし、衝撃的な事実は、加害者の38%は子どもや若者であるということが調査によって明らかになったことだ。被害状況を報告したAさんとBさんの場合も、中学生の集団に襲われている。アンケート調査の中には「小学生」という回答もあった。
未成年者による暴力やいたずらが頻発する背景には、「野宿しているのが悪い」と考える大人の影響が大きいと、山谷労働者福祉会館活動委員会の向井宏一郎氏は説明した。
「2012年に、大阪で野宿者を殺害した加害者の若者が、『働かなければホームレスになる』と親から再三言われていたことが、裁判の傍聴で分かっています。襲撃問題は大人の差別と偏見が子どもたちに反映されていることを認識せざるを得えません」
向井さんは、「少しずつでも正確な知識を得てもらいたい」と話し、野宿している人がどんな困難に直面しているのか、社会的構造を含め、大人がまず理解することが必要であると訴えた。
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