鮫川村の指定廃棄物焼却炉問題、地権者が国を相手取り操業差し止めの仮処分申し立て ~「法的根拠」を答えられない環境省 さらなる「偽造」も発覚か 2014.7.29

記事公開日:2014.8.1取材地: テキスト動画
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(取材:鈴木真理・ちばゆみ、文・記事構成:佐々木隼也)

 「まるで日本ではないかのよう」――。福島県鮫川村の高濃度放射性廃棄物(指定廃棄物)の焼却炉建設をめぐり、7月29日、地権者の堀川宗則氏が、国に対し操業差し止めの仮処分申し立てを起こした。その後に行われた記者会見で堀川氏は、環境省による事業の強行姿勢を批判した。

 2013年7月、行政側が焼却炉建設の根拠としていた地権者18名の「同意書」をめぐり、地権者の一人である堀川宗則氏の署名捺印が、第三者によって「偽造」されたものであることが発覚。本人が建設に反対していることが明らかになったにも関わらず、環境省と村は同年8月19日、焼却炉の運転を強行した。

 民法上、共有地において、土地の性質を変える「処分行為」の場合、地権者全員の同意が必要となる。今回は18名中、堀川氏を含めて2名が焼却炉建設に反対しており、賃貸借契約を結んでいない。申し立てでは、「牧場(農地)」の特性を大きく変える焼却炉建設は、「処分行為」にあたり、地権者全員の同意が必要だとしている。

 堀川氏の代理人である坂本博之弁護士は、「地権者18名と賃貸借契約ができていないにも関わらず、環境省は建設:操業を強行した。昔からこうした事業には産廃ヤクザがつきものと言われているが、(環境省の行為は)ヤクザも真っ青の悪質な行為だ」と、厳しく批判した。

 今回の申し立てに踏み切った経緯と、焼却炉建設に反対している理由について記者から問われた堀川氏は、「ここは我々(地権者)の共有地であって、誰か一人でも反対したらこういうことにはならないと思っていたら、嘘をつかれた上に着工ですから、まるで日本ではないかのよう。村長も担当者も偽造が発覚してから、『改めて説明に参上します』と言っていたのにその後来なかった。道理に反している」と、怒りを露わに訴えた。

■Ustream録画(14:08~ 1時間19分)
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  • 日時 2014年7月29日(火) 14:30~
  • 場所 郡山市記者クラブ(福島県郡山市)
  • 主催 鮫川・汚染問題を考える会、放射性廃棄物拡散阻止3.26政府交渉ネット

国に土地の利用権はあるか

 会見で坂本弁護士はまず、今回の申し立ての根拠を説明した。共有地の利用には、「保存」「管理」「処分」の3つの使い方がある。「保存行為」は現状維持であり、「管理行為」は土地を現状のまま利用する行為にあたる。そして土地の特性を完全に変えてしまうものは「処分行為」にあたる。

 「管理行為」であれば、共有持分権の過半数の同意があれば可能であり、「処分行為」は地権者全員の同意が必要となる。

 今回の焼却炉建設は、土地を造成し、しっかりとした基礎工事まで行い、搬入道路を敷設して、農地を農地でないものに変えてしまっていることから、「処分行為と考えられる」と坂本弁護士は主張。また、焼却炉の安全性について十分な説明もされていない段階で、強行に建設を進めた環境省の手法を問題視した。

 さらに坂本弁護士は、村が集めた同意書について、堀川氏の署名捺印が偽造されたことにも言及。「環境省が偽造に関与したことは分からないが、少なくとも村の関係者は偽造に関与していた疑いがある。環境省も、同意書が偽造と分かっても、事業を強行しようとしている」と批判した。

 そして、「ここまでの経緯を見ていると、昔からこうした事業には産廃ヤクザがつきものと言われているが、ヤクザも真っ青の悪質な行為だ」と厳しい口調で断じた。

さらなる「偽造」!? 地権者のうち4人は死亡していた

 坂本弁護士は、「つい最近分かったことだが」と前置きしたうえで、地権者18名のうち4名がすでに死亡していることを明かした。

 地権者が死亡すると、その土地の所有権は「相続財産」となる。死亡した人の持ち分は、相続人全員がまとまって賃貸借契約を結ばなければならない。または、「遺産分割協議」をしたうえで、誰が相続するかを決めてからでないと契約書を結ぶことができない。しかし死亡した4名については、「遺産分割協議」も行われておらず、相続人全員の署名もないという。

 坂本弁護士は、「署名をした人が相続人全員が署名を偽造したようなもの。環境省はもちろん、名義人が生きているか死んでいるかなんてことはわかっているはず。なので、正確に言えば2人だけでなく、18人中6人が同意していない、ということになる」と指摘した。

「過半数の同意で良い」の法的根拠を答えられない環境省

 環境省は、同意書における堀川氏の署名捺印の「偽造」について、今年1月28日に山本太郎議員が提出した質問主意書に対し、「環境省は、実証事業の用地について、その地権者十八名のうち十六名との間で土地賃貸借契約を締結の上、賃借している」と回答している。

 では、16名(過半数)の同意によって焼却炉の建設が認められるとする法的根拠はどこにあるのか。

 堀川氏、坂本弁護士らと会見に並んだ、環境ジャーナリストの青木泰氏が、5月23日に山本太郎議員主催し、環境省の担当者を呼んで行われた「レク」の模様を明かした。

 レクの場で、「過半数の同意で良い」の根拠を問われた環境省の担当者は、「焼却炉は仮設の施設であり恒久的にそこにずっとあるわけではない。仮設の場合は過半数の同意で良い」と主張した。しかし、「仮設だったら過半数の同意で良い」という理屈の根拠となる法律は何かを問われると、「この場に法律の専門家がいないのでわからない」と答え、今ここで法務担当に電話すれば分かるのはないか、という山本議員の問いにも、黙って俯いてしまった。

 山本太郎事務所は、6月9日にあらためて文書で質問したが、環境省から返ってきた回答は、「地権者18名のうち16名との間で土地賃貸借契約を締結して賃借しており、法的には問題ないものと考えています」というもので、その根拠法については頑に答えようとしなかったという。

 坂本弁護士はこの環境省の回答について、「処分行為」の定義を再度説明し、「土地の性質を完全に変えることになるから、それは仮設だろうが、恒久的なものであろうが、処分行為になる」と強調した。

県内20カ所での焼却事業の「安全性を確認」するはずが、稼働10日で「爆発」

 青木氏は、鮫川村と同様の焼却事業計画が、現在福島県内の20カ所で進められていることを紹介。「世界にも例にない高濃度の放射能汚染廃棄物の焼却事業なので、環境省も、鮫川の実証試験によって安全性を確認しますよ、という触れ込みだった。なぜ安全性を確認するという鮫川で、こんなことが起こっているのか」と語った。

 さらに青木氏は、稼働からわずか10日後の昨年8月29日に「爆発」事故を起こしたことに言及。しかし環境省は頑に「爆発」を今も認めようとしない。青木氏は、「爆発だから本来は消防署に連絡しなければならないが、環境省は消防署に連絡しなかった。消防署は、夜の8時にメディアから問い合わせがあって初めて事故について知った」と、環境省の対応の不備を指摘した。

 さらに、「山本議員が1月28日に提出した質問主意書への答弁書で、『福島県鮫川村を管轄する白河地方広域市町村圏消防本部から消防庁に対し、本件事故において、爆発が発生した旨の火災に関する報告がなされている』という答弁が返ってきている」と、国も「爆発」を認めていることを明らかにした。

 青木氏は「安全性を確認する事業のなかで、この爆発について真剣に取り組まず、建設における手続きにおいてこのような酷いこと(偽造)が行われていた」と語った。

「本当に偽造なのか?」と堀川氏を取り調べる捜査当局

 堀川氏は昨年9月19日、同意書の偽造について、有印私文書偽造で地元の棚倉警察署に告訴し、受理された。その後、今年5月20日には検察庁に送致され、現在も捜査は続行中だ。

 会見の質疑では、この捜査内容について記者から質問があがった。

 警察の聞き取りについて堀川氏は、「自分が悪いことをされて告訴申し立てをしているのに、まるで、それ(告訴)をやめろという感じの聞き取りと捜査だった」と語った。

 同意書の署名捺印の「偽造」について、容疑者と目される人物は、堀川氏以外の人間が書いたことを認めているものの、「堀川氏から了解をとって代筆をした」と語っている。警察も検察もこの証言の方を重要視し、堀川氏に対して「堀川氏は本当に代筆させていないのか?」と、堀川氏の方を疑うような聞き取りを行ったという。

 堀川氏は、「言った言わないの水掛け論。私の方が証拠を出せ、というようなものだった」と、疲れた様子で語った。

 青木氏はこの件について、「潔白を証明するのは本来は偽造した側であり、どこで堀川氏に了解をとって、誰に頼んでそういうこと(代筆)をやったのか、というのを開示しなければならない。了解を得た、ということを証明しなければならない」と憤りを見せた。

もし裁判で負けた場合、行政側から損害賠償を請求される可能性は?

(…会員ページにつづく)

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  1. @55kurosukeさん(ツイッターのご意見より) より:

    無能・無責任な行政。国営ヤクザと言ってもいいだろう。

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