「自治体よ、原発避難計画など作るな!」 ~井戸川前双葉町長「原発より住民優位」を訴える 2014.5.24

記事公開日:2014.5.24取材地: テキスト動画
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(IWJテキストスタッフ・富田/奥松)

 2014年5月24日、滋賀県大津市の解放県民センターで開かれた講演会「この夏、原発再稼動許すまじ!」に、2011年の福島第一原発事を受け、埼玉県で長期の避難生活を続けている、前双葉町長の井戸川克隆氏が登壇した。

 井戸川氏といえば、週刊『ビッグコミックスピリッツ』(小学館)に連載中の『美味しんぼ』の中で鼻血の症状を訴えたことで、今や時の人に。「今日のような集会で、私が原発事故被害の深刻さをいくら訴えても、新聞やテレビは、それを一切伝えない」とした井戸川氏は、「多分、コミックは情報統制の対象外だったのだろう。当局は、私が漫画に登場して、ああいった発言をすることは想定外だったに違いない」と苦笑してみせた。

 60分余りのスピーチは『美味しんぼ』の騒動にも触れたが、話題の中心は、国が原発周辺自治体に「避難計画」づくりを求めている一件。3.11フクシマショック後に原子力災害対策指針が見直され、原発から30キロ圏となる全国135の市町村で、事故を想定した避難計画が作成されることになったのが背景だ。

 昨年12月に行われた内閣府調査では、避難計画を作成済みの市町村は4割に留まっていることが判明。それだけに、計画作成の要請は、一見「時代の要請」と映る。しかし、井戸川氏は、避難関連の法律が未整備であることを「国の怠慢」と叱り、国がやるべきことをやらない中で、自治体が有効な避難計画を作ることには無理があると力説した。

 その上で、住民に対しても「避難拒絶」を推奨。自治体と住民が「電力会社のために、自分たちが地元を離れる必要はない」という姿勢を、平時の折に強く打ち出すことが原発追放につながる、との持論を展開した。

 演壇に立ち、マイクを握った井戸川氏は開口一番、自身の体の不調を訴えた。「特に、呼吸器系統が痛んでいる。年中、じくじくしているのだ。鼻水か鼻血の連続で、空気を快適に吸うことが難しい」。

 そして、くだんの『美味しんぼ』騒動について、「閣僚からかなり責められたが、私は、あの漫画に登場する前(双葉町町長だった2012年11月)の時点で、岡山大学や熊本学園大学などの研究グループの協力の下、全町民対象の疫学調査を実施している。そして、鼻血が多いことなどが指摘された結果を、双葉町に報告している。おそらく、今の(井沢志朗)町長はそれを見ておらず、だから、版元の小学館にあんな講義を行ったのだろう」と語った。

 「疫学調査を福島県が行っていないのが、そもそも問題だ」と言葉を重ねた井戸川氏は、「『美味しんぼ』の件では、われわれが言えないことをよくぞ言ってくれた、との声が(避難したくても避難できずにいる福島県民から)、私のもとにかなり届いている」とも伝え、次のように強調した。

 「疫学調査の結果は、大学がお墨付きを与えたもので、それに対し、政府は『そんなことはあり得ない』と否定の言葉を発したが、それは、とんでもない人権侵害に相当する。福島で鼻血に苦しんでいる人たちに向かって、『鼻血など出っこない』と言うしかないのが、今の国と県のスタンスだが、嘘の壁は自らの重みで剥落する。私はすでに、佐藤雄平福島県知事に対し公開質問状を出しており、これから反撃に出るつもりだ」。

■全編動画 1/2 講演

■全編動画 2/2 デモ

  • 講演 井戸川克隆氏(前福島県双葉町長)「双葉町から遠く離れて…原発事故の放射能汚染で」
  • 日時 2014年5月24日(土)14:00~16:00
  • 場所 解放県民センター(滋賀県大津市)
  • 主催 さいなら原発・びわこネットワーク
  • 告知 この夏、原発再稼動許すまじ!緊急講演会(NO NUKES from shiga 脱原発・滋賀☆アクション)

有効な避難計画は作れない

 その後、福井県の住民らが県内の大飯原発(関西電力)3、4号機の運転差し止めを求めた訴訟で、福井地裁が5月21日に、住民の訴えを認める判決を出した一件に話題を移した。

 井戸川氏は「非常に嬉しいと思った。国民の生命が原発(経済、企業)より上にある、という判決が下されたのだ。あの判決は、大勢の国民によって財産として共有されるべきものだ」と発言。その上で、原発事故発生を想定した、自治体の「避難計画」づくりに異議を唱える方向へと話を進めた。

 原発事故を巡って、国が避難に関係する法律を整備しないのに、個々の自治体が避難計画を策定するのは困難、との認識が土台にあるが、「実際に原発事故が起こり、政府が情報統制を敷く中で、避難の責任を自治体が負うことなど不可能」と断言した井戸川氏は、3.11の折の自身の経験則から、次のように話した。

 「パソコンは使えず、インターネットからの情報取集は無理。携帯電話も大混乱で、役所が住民を安全に避難させるための必要情報を確認することは不可能だった。つまり、自治体が事前に避難計画を作ったとしても、実際の場面では、まず役に立つまい」。

 そして、「原子力災害対策特別措置法の目的が、国民の生命と財産を守ることにある以上は、避難計画を作るのは国の仕事である」と力を込めた井戸川氏は、「日本の、今の原子力行政の最大の欠点は、人権を無視していること」と述べ、国が原発がらみの利権体質に根ざした制度を抜本的に改めない限り、自治体への避難計画づくりの要請は無理強いにしかならないと訴え、「自治体が避難計画を作成するにしても、役割分担はどうなるのか、といった現実問題が横たわっている」と指摘した。

「避難拒絶」という意思表明

 「象徴的なのは、『住民を被曝させないように避難させる指揮を、一体、誰が担当し、誰が責任を取るのか』という問題。国なのか、都道府県なのか、市区町村なのか、電力会社なのか。知事に権限を与える災害救助法なるものが存在するが、あれは自然災害が対象。(放射能という目に見えない災害を相手にすることになる)原発事故は対象外だ」。

 「ほんの少し思考を深めただけで、自治体レベルでは有効な避難計画づくりはできないことがわかる」と井戸川氏。「国が、原発事故の避難関連の法律をしっかり作らない限り、避難計画づくりの求めに応じてはならない」と市区町村に呼びかけ、都道府県に対しても、「国からいろいろやらされてはダメだ。原発事故では、県の立場は被害者であることを忘れてはならない」とメッセージを送った。

 井戸川氏は「電力会社という一民間企業のために、何かあったら住民に避難を強いるという発想が、そもそも間違っている」と語る。そして、愛媛県の伊方原発(四国電力)の再稼働に反対する松山市の有志らが、「避難拒絶」の内容証明郵便を、国(安倍総理)をはじめ、原発事故が起こった場合に避難を要求してくる関係各位に送ったことを紹介。これは、井戸川氏の提言をきっかけにしたもので、同氏は、この4月に当該する有志グループと松山市内で交流した折に、「電力会社のために住民を避難させるくらいなら、危険な原発を避難させろ」と発言している。

 「避難計画書を作れ、という求めは、『原発が危険である』と宣言されているのに等しい」。講演の終盤で、こう指摘した井戸川氏は、大飯原発の運転差し止め訴訟で、「国民の生命が、原発より上にある」という判決が下されたことを重ねて強調しつつ、「だったら、自治体や住民は避難計画づくりにおとなしく応じるのではなく、『自分たちは、今後もずっとこの土地で暮らしていくから、お前たちこそ出ていけ』と、原発の退去を強く迫る立場に立てばいい」と力説した。

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