2014年5月22日、東京都千代田区の司法記者クラブで、「PC遠隔操作事件 第9回公判後記者会見」が行われ、片山祐輔被告の弁護人3名が会見した。佐藤博史弁護士は、この日、片山被告が罪状をすべて認め、被害者、支援者、警察、検察、裁判官へ、謝罪の言葉を述べたことを報告した。
「片山被告はあらかじめ真犯人メールを仕込んでおいて、有罪判決が出たら、その2日後に送信し、無罪になったら遠隔操作で解除することを考えていた。そういう人を見破れなかった。司法に携わる人間として、いろいろな意味で反省させられた」。
このように述べた佐藤弁護士は、「これも刑事弁護の仕事だと割り切っている。英語で、天の邪鬼という意味で使われる、悪魔の代理人(Devil’s Advocate)という言葉は、宗教裁判の時、悪魔として裁かれる者を弁護する人のことだが、刑事弁護人の生き様を現す言葉だ。私は学生に、悪魔を弁護する覚悟がないと刑事弁護人はできない、と説いてきたが、まさか、自分がこれだけの悪魔と対峙するとは思っていなかった」。
「この事件に社会的意味があるとすれば、片山被告が、どうしてこのような犯罪者になってしまったかに、光を当てることだ。服役するにしても、彼は治療が必要な人。これは、われわれの社会が抱えている、とんでもない悪魔を白日のもとにさらす作業だ。これが私たちの仕事になる」と述べた。
第10回公判は5月30日。片山被告が5月16日にスマートフォンから送信した、いわゆる「真犯人メール」について、これが新たな犯罪であると同時に内容が重要でもあるため、検察官の取り調べを予定している。そして、6月9日に協議を行い、以後の審理計画を決めるという。弁護側は、片山被告の精神鑑定を請求する方針を示している。
- 日時 2014年5月22日(木)
- 場所 司法記者クラブ(東京都千代田区)
サイバー空間の堕ちたヒーロー
はじめに、この日の公判の様子を報告した佐藤弁護士は、今後の弁護方針として、精神鑑定も含めて、片山被告の悪魔的部分と善なる部分とを、社会の病理という視点で解明していく必要性を説いた。
「今まで不可解な事件がたくさんあった。片山祐輔予備軍のような人たちが、たくさんいるかもしれない。彼は、サイバー空間の中で間違ったヒーローになりかかっていたが、もう、嘘をつく必要がなくなった。裁判官、検察官にも、そこに焦点を当てて機会を与えてほしいとお願いした」。
「精神鑑定とは責任能力の有無を問うものだが、今回の件では、被告は知的にきわめて優れており、多重性人格障害という可能性がある。(連続幼女誘拐殺人事件の)宮﨑勤被告の場合、多重性人格と鑑定されたが、責任能力はあるという判断を下されている」。
このように述べて、「片山被告はやったことは自覚している。『自分が無罪になるわけがない』と言い、私も無罪を主張するつもりはない。だが、自分でもコントロールできないものに支配され、悪い事だとわかっていながら、彼はこの事件を起こしている。そういうプロセスを明らかにできれば、情状面で考慮される可能性もあるだろう」とした。
検察官からは「もし、片山被告が自殺していたら、捜査当局には厳しい目が向けられただろう。よく生きて収監させてくれた」と言われたといい、佐藤弁護士は「私も、本当によかったと思っている」と目に涙を浮かべた。
「今回の事態に遭遇して、私は動揺することはなかったし、片山被告をひと言も叱責せず、彼を見捨てないと、すぐに言うことができたのは、自分なりの言行一致だと思う。これからは、私が言ってきたことが本物かどうか、試される局面が来るだろう」と、再び目を潤ませながら語った。
錯綜する悪意と不安、虚言と本音