【IWJブログ】営利追求主義で歪められた科学的営為 ~「STAP細胞騒動」から見えてくるもの 2014.3.26

記事公開日:2014.3.26 テキスト
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(平山茂樹)

 東日本大震災から3年目を迎えた3月11日、テレビ朝日の情報番組「モーニングバード」にコメンテーターとして出演した岩上安身は、理化学研究所の小保方晴子ユニットリーダーが科学雑誌「ネイチャー」に発表した、新型万能細胞「STAP(スタップ)細胞」の論文を巡る一連の疑惑についてコメントした。

 STAP細胞の論文を巡る一連の「騒動」は、小保方氏というひとりの未熟な研究者の問題だけに還元できるものではない。そこには、日本の科学界で蔓延する不正論文の問題、さらにはその原因として考えられる、商業主義や過剰な成果主義が背景にあると考えられる。

 3月14日、IWJは小保方氏の疑惑に対する理化学研究所の会見を、約4時間にわたり中継した。会見の冒頭、日本を代表する科学者の一人で、2001年に「キラル触媒による不斉反応の研究」によりノーベル化学賞を受賞した野依良治・理化学研究所理事長が、「おわび申し上げます」と、約10秒間にわたり深々と頭を下げ、謝罪した。

▲野依良治・理化学研究所理事長

▲野依良治・理化学研究所理事長

記事目次

マスコミが踊った「リケジョ・ブーム」

 では、なぜこんなことになってしまったのか。まずは、今回の「騒動」の経緯について、簡単に振り返っておきたい。

 1月28日、理化学研究所が記者会見を開き、弱酸性の刺激を与えるだけの簡単な方法で、あらゆる細胞に分化できる万能細胞の作製に成功し、論文が「ネイチャー」に掲載されたと発表した。理研はこの細胞を、「刺激惹起性多能性獲得細胞」(Stimulus Triggered Acquisition Of Pluripotency)=「STAP細胞」と命名。ノーベル生理学・医学賞を受賞した京都大学の山仲伸弥教授が作製に成功した「人工多能性幹細胞」(iPS細胞)と比べ、遺伝子を初期化する必要がなく、酸性の溶液に浸すだけという簡単な手順で作製可能であるとされたことから、大きな注目が集まった。

 この「STAP細胞」に大きな注目が集まった理由の一つに、「細胞の開発に成功した」として記者会見に登場した、理研・発生再生科学総合研究センターの小保方晴子ユニットリーダーの存在がある。

 女性で30歳という若さだったということはもちろん、理研がメディアに公開した小保方氏の研究室の壁がピンクや黄色に塗られていたこと、実験器具にムーミンやスナフキンといったキャラクターのシールが貼られていたこと、有名ブランド「ヴィヴィアンウエストウッド」の指輪をつけて会見に臨んだこと、さらには祖母からもらったという割烹着姿で実験を行う姿などが大きな話題を呼び、各種メディアの報道は、STAP細胞自体よりも、小保方氏の人物像に集中するようになった。また、「理系女子」を意味する「リケジョ」という言葉も流行語になった。

 理研の発表とマスコミの過熱した報道をうけ、政治も動き始めた。下村博文文科相は、理研を「特定国立研究開発法人」に指定する方針を固めたことを1月31日の定例会見で発表。「将来的に革新的な再生医療の実現につながると大いに期待している」と語った。

 「特定国立研究開発法人」とは、世界最先端の研究開発と人材育成を目指すためとして昨年12月に安倍政権が閣議決定した制度で、法人に選ばれると巨額の予算がつくと言われる。小保方氏の「発見」とマスコミが作り上げた「リケジョ・ブーム」は、日本の科学行政を動かすまでになったのだ。

 このように、マスコミと政治が「リケジョ・ブーム」に沸き返る一方、インターネット上では、「STAP細胞」の存在を証明したとされる「ネイチャー」に掲載された小保方氏の論文に不備があるとして、それを冷静に指摘する声があがった。

ネットから次々とあがった疑問の声

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