小保方晴子研究ユニットリーダーらが発表した、新たな万能細胞「STAP(スタップ)細胞」の、英『ネイチャー』誌に発表した論文を巡り、数多くの疑問点が指摘されている問題で、理化学研究所は14日、東京・八重洲で記者会見を開き、中間報告を行った。
「世間の多くの人に迷惑をかけた」と謝罪したノーベル化学賞受賞者で、同研究所理事長の野依良治氏は、「未熟な研究者がデータをずさんに、無責任に扱ったことはあってはならない」と小保方氏を批判。「徹底的に教育しなおさなければならない」と言葉を重ねた。
会見で200人超の報道陣と対座したのは、野依理事長、調査委員会の石井俊輔委員長らで、そこに小保方氏ら論文執筆者の姿はなかった。
日本中の注目を集めた記者会見。その全編を中継したIWJが、概要を速報としてお伝えするーー。
- 出席者
野依良治氏(理化学研究所 理事長)、川合眞紀氏(理化学研究所 理事(研究担当))
竹市雅俊氏(理化学研究所 発生・再生科学総合研究センター [CDB] センター長)、
石井俊輔氏(研究論文の疑義に関する調査委員会委員長、理化学研究所 上席研究員)
3時間を超えた質疑応答
この論文疑惑では、「焦点は、STAP細胞づくりに本当に成功したのかにある」とのクールな意見があるが、世間の関心は、他人の論文からの盗用や画像流用といった不正を、日本のトップクラスの研究機関に所属する若い女性科学者が平然と行った疑いがある点に集まっている。3時間を超えた質疑応答では、小保方氏の科学者としての倫理観を疑問視する質問が相次いだ。
石井委員長からは、今回はあくまでも「中間報告」で、不正有無の認定は最終報告の段階でなされることが強調されたが、野依理事長以外からも、「科学者として倫理に反する振る舞いがあったのは事実」(川合眞紀理事)などと、小保方氏を断じる発言が聞かれた。小保方氏らの弁明は、最終報告が出たあとに行われる模様。
記者から、理研の論文チェック体制の甘さを指摘する質問が飛ぶと、川合理事は体制強化の必要性を認めつつも、「ベースは、あくまでも個々の研究者の倫理観」と言明し、組織内のチェックには限界があることを暗に示した。
これは今の科学界では、成功者への妬みや嫉みが渦巻くインターネット上の「あら探し」が、事実上のチェック機関になりつつあることを物語っている。野依理事長は「10年前とは状況が大きく異なる。ネット社会には、良い面がたくさんあるが、影の部分も非常に多い」と話した。
「小保方氏は不正の認識がなかった」
石井委員長が、インターネット上で指摘されている、6つの疑問点 ーー1. STAP細胞の画像のゆがみ、2. 2つの胎盤画像の酷似性、3. 実験画像の切り貼りによる改ざん可能性、4. 実験方法記述の盗用可能性、5. 書かれている実験方法が実際の手順と違う、6. 博士論文からの画像流用の可能性ーー に関する調査の、現時点での結果報告を行った。
最初に、1. STAP細胞の画像のゆがみ、2. 2つの胎盤画像の酷似性──の2点については、ミスであり、不正ではないと結論づけた。石井委員長は、それぞれについて、「コンピュータの仕様の違いで生じるもので、『ネイチャー』編集部内の作業中に生じた可能性がある」「不要になった画像を除去し忘れたと判断できる」と説明した。
残りの、3. 実験画像の切り貼りによる改ざん可能性、4. 実験方法記述の盗用可能性、5. 書かれている実験方法が実際の手順と違う、6. 博士論文からの画像流用の可能性──の4点については、調査は継続中である旨が示された。3. に関しては、記者からの質問を受け、「小保方さんは『やってはいけないという認識がなかった』と話している」との説明があった。
「間違って使ってしまった」とは考えにくい
テレビのワイドショーなどでも取り上げられている、4. と6. については、小保方氏の科学者としての姿勢に疑念を抱かざるを得ない内容が報告された。
まず、4. で石井委員長は、小保方氏が他人の論文をコピーしたことを認めていることを指摘しつつ、小保方氏が「どこからコピーしたかを覚えていない」と話していることを紹介した。
これについて、小保方氏が所属する理研の、発生・再生科学総合研究センター(神戸市)の竹市雅俊センター長は、「どこから引用したかを明記するのは当然のこと。(小保方氏は)科学者として未熟だ」と表情を曇らせた。
一方の6. は、小保方氏が2011年に書いた博士論文にある画像との酷似性の指摘で、石井委員長は「同一のデータと判断せざるを得ない」と言明した。
石井委員長が、小保方氏が「誤使用」を言っていることを伝えると、複数の記者からは異口同音に、「そのような間違いがあるとは、とても信じられないが、科学の世界では、そういうことが実際に起こり得るのか」との疑問の声が上がった。
竹市センター長は「通常、研究者は、こういうことを決して行わない」と言明。石井委員長も「客観的に見て、かなりレアなケースだろう」と回答するも、記者からは「そんなミスは通常あり得ないことだ、と小保方氏を問い詰めなかったのか」との畳み掛けの質問が。石井委員長は「調査には、ある程度の時間がかかることを理解してほしい」と答弁した。
調査委はSTAP細胞の存在真偽を検証しない
川合理事は「最終的な調査報告で、不正が認められた場合には、厳正に対処する」とし、「理研として、職員の研究倫理の欠如を見逃すことはできない」と語気を強めた。理研がこれまで「小保方氏らの研究成果そのものに揺らぎはない」との認識を表明してきたことに関しては、「調査開始前には若干の楽観があった点は否めない」と認めた。
そして、小保方氏が14日朝に米ウォール・ストリート・ジャーナルに、電子メールで「現在、マスコミに流れている博士論文は下書き段階のもの」と説明している点については、「個人の発言の自由を妨げる気はないが、委員会が調査を公正に行うことに力を入れている現段階で、個人の判断で取材に応じることは控えてほしい、という気持ちはある」と発言。「われわれが調査に使った、早大から提供された小保方氏の論文は『正本』だ」と強調した。
竹市センター長は、すでに小保方氏に論文撤回を要請しているとした上で、「今回の出来事を教訓とし、従来以上に、研究の実施と論文の作成における倫理観の育成を行っていく」と表明した。
そして、STAP細胞存在の真偽については、「第三者の研究機関によって、検証されるのを待つのが唯一の道」と強調。「山梨大の若山照彦教授が実験に使った細胞は、小保方氏から受け取ったものだが、本当にSTAP細胞だったのか」との記者の質問には、石井委員長が「論文の不正有無のみを対象にする調査委員会は、それが本当にSTAP細胞であるかを確認する立場にはない」とし、「小保方さんから(若山氏に提供した細胞に関する)話を聞いたことはない」と明かした。石井委員長は、これまで計3回のヒアリングを小保方氏に行っている、と説明した。
笹井副センター長という存在
論文のチェック体制の甘さに関する質問では、川合理事が「理研には、所属長の許可を取って論文を発表する決まりがあるが、所属長が論文をどこまでチェックするかはケースバイケースで、著者を信頼している部分はある。しかし、今回のように不注意では片づけられない問題が、現に起きている」と述べ、管理体制見直しの必要性を認めるも、「ベースは、あくまでも個々の研究者の倫理観」と言い切った。
職員への倫理教育の強化については、野依理事長も「今回の問題は、理研内部では氷山の一角かもしれない。倫理面の教育を、もう一度、徹底させていきたい」と表明したが、記者からは「駆け出しの若手研究者は別として、(今回の問題で隠れた重要人物と言われている)理研の発生・再生科学総合研究センターの副センター長である笹井芳樹氏のような立場の科学者に、これから教育をして間に合うのか」と疑問の声が上がった。
野依理事長は「シニアになればなるほど、たとえ故意でなくとも、起こしたことへの責任は重くなる」とした上で、次のように語った。
「(笹井副センター長は)これまで、センター長である竹市先生の下で研究を続けてきた以上、竹市先生がどう考えるかが重要だが、私は(今回の問題での笹井副センター長の)責任は非常に重いと思っている。まず、第一に反省してほしいし、今後、研究者としてどう活動していくかを表明することも大事だ」。
理研が小保方氏に無理をさせた可能性
野依理事長からは、現代の科学研究が「専門分野横断型」になっている点に、ある種の「陥穽(かんせい=落とし穴)」がある、との言及もあった。
「伝統的な科学研究の多くは、比較的狭い分野別に実視されており、単一の研究室で行われていたケースが多かった。しかし、今はネットワーク型の時代で、先端的な研究は、複数の研究室が自分たちの強みを生かして協業しなければ、研究成果の最大化は図れない」。
野依理事長は、専門分野横断型の研究では、責任者の役割が非常に重要になってくると訴え、「小保方氏には、分野横断型研究でリーダー役を担えるだけの実力が備わっていなかった」と重ねて強調した。
小保方氏をユニットリーダーに選抜したことについて、竹市センター長は「私たちの研究室のヘッドとなる人は、公募で決める。書類審査とプレゼンテーションで決めるが、STAP細胞の研究をしていたことにインパクトを感じて、小保方氏を採用した。過去の調査が不十分だったことを強く反省している」と謝罪を口にした。
「論文としての体をなさない。撤回すべき」
また、記者から、小保方氏がSTAP細胞の論文を2013年内に『ネイチャー』に載せようと無理をしたことと、今回の問題発生との因果関係を問われると、「『ネイチャー』に載せることを目標に、頑張った部分はあると思う」と、所属長としての認識を示しつつも、「詳しいことはわからない」と発言した。
論文の撤回について、竹市センター長は「『ネイチャー』掲載の論文で流用した博士論文の写真は、骨髄から取った細胞の実験結果を示すもの。これは完全に不適切であり、私はこの点で、ネイチャー論文は論文としての体をなさないと判断し、著者に撤回を要請した」とし、たとえ、小保方氏に悪意がなかったとしても、「正しいデータを載せていない以上、撤回すべきだ」と主張した。
小保方氏ら理研の主要執筆者3人は、論文撤回に同意しているが、共同研究者であるチャールズ・バカンティ教授(米ハーバード大)は、「データが誤りであるという決定的な証拠が存在しない以上、論文を撤回すべきではない」との声明を出している。論文の撤回には、執筆者全員の同意が必要との原則があるが、全員が同意していなくても、『ネイチャー』誌の判断で撤回されるケースもあるという。
リンク
4時間を超える動画は見ておりません。サマリーだけを呼んだ立場からコメントします。
わたくし内科医をしています。Natureなどとんでもありませんが、臨床研究の結果をいくつか海外の雑誌に投稿したことがあります。
まず、小保方さんの認識の甘さに驚きます。STAP細胞作製が現実のものになれば、世界的な注目が集まるのは容易に想像がつきます。小保方さん個人も注目されますし、非常にたくさんの研究者・専門家が論文を読み込みます。論文の読者は必ずしも「粗探し」のために読むわけではありません。それでも画像のおかしな点などには気付きます。
なぜそうなることを予測せずにこんなずさんなことをしてしまったのか?この騒ぎを彼女は想像しなかったのでしょうか?この認識の甘さが全く信じられません。「博士論文からの画像流用の可能性」ですが、あれは可能性ではなくて流用ですね。同じ画像をソフトで処理しただけでしょう。
「理研の論文チェック体制の甘さ」を指摘されているとありますが、これは厳しすぎるように思います。論文チェックで何を見るかというと、方法論におかしな点はないか、結果の解釈は正当なものか、論理展開におかしな点はないか、を考えます。研究者が過去の論文の画像を転用するという「ずる」を想定して論文チェックをしていたら、きりがなくなります。
小保方さんの認識の甘さにつきます。目を覆わんばかりのレベルです。
某動画サイトで会見は見ました。
理研側は彼女に無理をさせたわけではないと言っていましたが、おそらく無理をさせたかもしれないなんて、どんなに無理をさせていても言わないでしょう。私は無理をさせていたというよりも、教育や博士号認定も含めた構造的な問題だと思っています。それは、博士号の価値が欧米のそれと違い過ぎるからです。
博士号は研究者の免許です。手に入れた人はその資格に恥じない研究をするべきだし、認定した人もそのような権利を与えたことに対して一定の責任を持つはずです。しかし、国策により、質を向上させるという議論と確認を一切行わないまま、博士号取得者数を倍増させることが行われました。さらに、教授側も質を向上させるという面倒を放棄して、今も博士号の認定数だけを競っています。
さらにテュニアのような制度をどのように維持するかという議論も十分ではなく、今回のような事態はいずれ起こったはずです。「査読のクラウド化」なども叫ばれ、論文も今後はすべてwebベースになっていくでしょう。そうしないと、今回のような不良論文を見逃してしまいます。必ずしも悪意によるものではなく、正義心も原動力だったと思いますよ。