今回の雪害で一番甚大な被害に見舞われた山梨県は、県として「迅速な対応」をとったとは言いがたかった。SNS上では、山梨県において「災害対策本部」の設置が遅れたことについて、批判の声が上がっている。
災害が発生した場合、まずは地方自治体が首長を本部長にして、「災害対策本部」を設置することが出来る。これによって情報を一カ所に集約し、トップダウンできめ細かな対応を行う。
他県を見てみると、静岡県や長野県では16日日曜日に「災害対策本部」を設置している。しかし山梨県は、最も深刻な影響を受けているにも関わらず、対策本部が設置されたのは17日月曜日の午前9時45分だった。
一方で、14日金曜日から孤立状態になっていた早川町などでは14日から町職員が役場に泊まり込みで、町民の安否確認などを行っていた。
山梨県北杜市須玉町上津金に住むMさんの声
Mさんが住む山梨県北杜市上津金は、200年の歴史がある古い集落だ。50世帯のほとんどが高齢世帯で、一人暮らしのお年寄りも多い。
一週間前の8日にも雪が降り、40センチほど積もっている。その雪が残った状態で、大雪がさらに降り積もり、上津金の積雪量は1メートル30センチを超えた。Mさんの近所に住む、94歳のおばあさんも「こんな大雪は生まれて初めてだ」と話していたという。
誰も予想していなかった大雪に、行政の対応もままならなかったのは、ある意味で致し方ないことかもしれない。山梨県の場合、県内全域で道路も鉄道もストップ、交通機能が完全にマヒしてしまったため、Mさんの集落には自衛隊はもちろん、役場の除雪車すら入ってこれなかったという。
▲Mさん撮影 大雪が降る前の市道の様子。8日に降った雪がまだ残っている 2月14日金曜日午後2時
Mさんのツィート:また大雪だ。これで近くの国道へも出られなくなる。公共交通機関はない。何年か前にバス路線が廃止になったから。
▲Mさん撮影
Mさんツィート:生まれて初めて経験する1m越えの積雪。雪国の人達の苦労が良く分かった。疲れた~ 2月15日土曜日正午。
▲Mさん撮影 家の前から通りまで除雪して作った道 2月15日午後2時
Mさんツィート:苦労して道まで通路を作ったが、なんと道は除雪されてない。車が2台、道の真ん中に止まって雪だるまになってる。当分ワン子の散歩にも行けそうにない。
行政に頼れないとなったら、あとは自助と共助である。上津金という地域は先祖代々暮らす世帯が多いことから、地域の繋がりが強い。自分たちの手で何とかしようという、助け合いの文化が根付いている。
「長い歴史の中で、行政に頼って生きてこなかったのでしょうね。今回も、トラクターやショベルカーを持ってる農家が重機を出して、集落の人間で除雪しましたよ。除雪を要請すらしていないかもしれません」
お腹の当たりまで積もった雪の除雪は、「雪かき」というかわいい言葉ですむものではなかったと話すMさん自身も、2日間かけて、玄関から市道まで20メートルの距離を自力で除雪したという。前出のご近所の94歳になるおばあさんも、自らの手で20メートルを除雪したというから驚きである。
Mさんに話を聞いたのは雪が降り出して6日目になる20日木曜日の正午。ようやく交通も回復し、スーパーへ買い出しに出かけたという。しかし、物流が完全に回復しているわけではなかった。スーパーは品薄。パンやインスタント類は売り切れで、何とか確保できたのは牛乳だけだったという。
「一番の問題は、交通の情報が流れてこないことですね。外に出れば、あちらこちらで雪崩が起きていて、道が通行止めになっている。スーパー1つ行くにも、行ったり来たりです。行政自体も交通事情を把握できていないのだと思いますが…..」
心配の種はつきない。除雪したら一件落着というわけではない。雪が溶け出すと、雪崩や土砂崩れが起きる可能性が高くなる。やっと通れるようになった細い山道がふさがれてしまうかもしれない。いつどこで渋滞が発生するかも分からないのが不安だと、Mさんは話す。
「次の雪が本当に怖いですね。今でも毎日、半日をかけて雪かきしてますから。集落のみんなも高齢なので、本当に疲れてしまってますね。次の雪が降ったらもうお手上げだね、と話してます」
市内の病院まで患者を運ぶ送迎バスは、23日土曜日まで運行しないという。病気を抱えた高齢者が多い地域にとってまだまだ、不安は拭えない。
山梨県甲府市国母に住む文鳥さんの声
さて、一方で、甲府市内の様子はどうだろうか。
甲府市国母在住の文鳥さんは、雪が降り出した14日金曜日から5日目を数える19日水曜日時点でも、「山梨県甲府市は、雪だらけ」「とにかく道路も駐車場も店も、どこも渋滞しまくり」の状態だと語る。山梨大学や武田神社前のコンビニの駐車場には雪が積もっていて、通常の三分の一程度の台数しか駐車できない。普段は2車線の甲府市の平和通りなどは、両サイド1車線となっているため、大渋滞となっている。
雪は、文鳥さんの上半身くらいまで積もり、車、バイク、自転車、庭の柵まで雪で見えなくなり「目を疑った」という。
「ニュースでは積雪117cmと言っていましたが、もっと積もっている気がしました。車が雪に埋まり、車まで辿りつくこともできませんでした。車の屋根にもかなり雪が積もり、湾曲してしまっていました。何件か、カーポートが割れて車に雪が直撃していたお宅がありました」。
物流にも問題が生じている。週末から数日間、コンビニに何もない状態が続いていたという。「19日から少しずつ品物が配送されてきています。やっと、ヨーグルト、パン、おにぎり、カレー、弁当、スイーツが入荷されるようになりました。でも、すぐ売り切れてしまいます」。
▲文鳥さん撮影 甲府市内のコンビニの様子 2月18日火曜日
山梨では、県や国が動くのが遅すぎるという声があがっている。
「テレビはオリンピックの報道ばかりで雪に関する情報が全然得られませんでした。テレビの報道や国や県の動きは本当にだめだと思いました」と文鳥さんは批判する。一方、新潟県の対応が違ったことに感激を覚えている。「19日に新潟から除雪車が甲府市内に来てくれました。ありがたいなあって泣けてきました」。