「今回の事件は大きな問題をはらんでいる。(8000ベクレル以上の)放射性がれきを山野にばらまき、放置。水を含ませて再検査をすれば、放射能値は下がる。こういう逃げ道を開いた滋賀県の責任は深刻だ」──。
2014年1月17日の12時から、滋賀県大津市の滋賀県庁前で、「滋賀県高島市放射能チップ問題に対する申し入れ行動後の緊急集会と抗議行動」が行なわれた。高島市の琵琶湖湖畔に、福島県内から運び込まれた放射性木材チップが不法投棄された問題で、市民たちが滋賀県庁に申し入れを行い、県政記者クラブで記者会見を開催。その後、集会と抗議行動が行われた。
「誰のための行政か」「国は国民を守る、県は県民を守るのが、行政の仕事だ」「嘉田知事は『3.11以降、滋賀県の知事を務めているのは宿命だ。琵琶湖の水を守り、滋賀県民の命を守る』と約束した。その原則を曲げるな」と参加者たちは訴えた。
1人でもやるつもりが、239名と53団体が賛同
雨混じりの中、滋賀県庁前の抗議集会では、まず、滋賀県に申し入れをした八木美砂子氏が報告をした。「239名と53団体の賛同をもらった。今日も和歌山、高島市などから応援に駆けつけてくれた人たちがいる。(今回の申し入れには)自分が主催する保養キャンプに、野菜などを寄付してもらっている近隣の農家のみんなの思いも含んでいる。風評被害になると言う声も上がるが、実害の問題として、とらえなくてはならない」とスピーチをした。
次に、やはりこの問題に関わる梅村真紀氏がスピーチした。「昨年1月、現地に(放射能チップを入れた)フレコンが積まれているのを確認した。その場所は、時代劇の撮影によく使われるので、住民らはその資材だと思っていた。業者による投棄が始まったのは、3月15日から。そして、滋賀県の発表は、台風のあとの9月半ば。県は、放射性物質の数値を最大3900ベクレル/キロ(以下Bq/Kg)と公表した」。
「しかし、自分たちで検査をした結果、1万2740Bq/Kgあった。その間、チップはブルーシートで覆われた状態で、撤去し始めたのは12月末だ。77袋がまだ残っていて、現在、その数値は7000~8000Bq/Kgに下がっている。これらは国に管理させたい」と語った。
国が国民を守る。県は県民を守る。それが行政の仕事だ
日本科学者会議滋賀支部の震災がれき問題専門委員会委員長、畑明郎氏は、「滋賀県の対応を見ると、栗東の産廃の最終処分場問題を思い出す。これは前知事から嘉田知事に引き継がれて、業者の責任を問わなかった」と、過去にも同種の問題があったことに言及した。
続けて、「8000Bq/Kg以下は安全だというが、3.11以前の基準は100Bq/Kgだった。原発事故後、国が基準を80倍ゆるくした。そして、県は当初、投棄した業者を刑事告発すると言いながら、何もしない。関わった産廃業者3社も、仲介した個人名も県はわかっているのに」と指摘した。
(今回の数値を測定した)市民環境研究所代表の石田紀郎氏は、「まず、地域の環境破壊を止めること。今回の事件は、氷山の一角で、全国でも同様のことが行なわれていると思う。今の行政は最悪だ」などと話した。
参加者の1分間スピーチに移り、「誰のための行政か」「みんな、東電、国の被害者だ。さらに被害者を増やそうとしている。国は国民を守る、県は県民を守るのが、行政の仕事だ」「嘉田知事は『3.11以降、滋賀県の知事を務めているのは宿命だ。琵琶湖の水を守り、滋賀県民の命を守る』と約束した。その原則を曲げるな」などと、それぞれが県庁に届くように声を上げた。
そして、県庁に向かって、「嘉田知事、県庁の皆さん。高島放射能チップの情報開示をしてください。知事は住民との約束を守れ。情報公開をしろ」とシュプレヒコールで訴え、散会した。
今回の滋賀県の対応は、40年間で最悪
集会に先立つ10時30分、県庁に要望書を提出したメンバーが、記者会見を行なった。まず、代表の八木氏が「放射能チップの扱いに関して、県にはあまりにも危機感がないため、きちんとした対応を要望書で求めた」と話した。そして、チップを放射性廃棄物として管理し、処置をしてほしいことなどを申し立てた要望書「高島市・鴨川の河川敷およびその周辺における木材チップの不法投棄と処理についての要望書」の全文を読み上げた。
石田氏は「今回の事件は大きな問題をはらんでいる。(8000ベクレル以上の)放射性がれきを山野にばらまき、放置。雨水などを含ませて再検査をすれば、放射能値は下がる。こういう逃げ道を開いた、滋賀県の責任は深刻だ」と批判した。
また、「周辺への安全対策を確認するため、チップの撤去現場を見に行った際に、県職員が警察に連絡。警察官4名、刑事4名が『県の要請で来た』と言って、われわれを尋問した。今まで40年間、環境問題をやってきたが、今回ほど行政対応の悪かったことはない」と怒りをあらわにした。
放射性物質は琵琶湖に流れ込んでいる
次に、高島市の住民から「木材チップがばらまかれて10ヵ月経つが、県は『セシウムなどは飛散していない。健康被害はない』と言う。12月24日と25日に行った撤去作業は、まったく普通のゴミ処理のやり方だった。県の土木部に、飛散・流出防護を要望したが、現在まで何もしない。集めたチップは野ざらしなので、雨などで、放射性物質は琵琶湖に流れ込んでいる。12月7日の説明会で、県は現場を公開すると言ったが、それも反故にしている」と話した。
梅村氏も「かき集められたチップは、むき出しのまま、小山になっている。産廃許可のない業者が作業をしている。警察に言っても、腫れ物に触るような対応だ」と説明した。
「木質チップ利権」があるのではないか
質疑応答になり、NHK記者から「要望書に対し、県から何か回答はあったのか」という問いがあった。メンバーの1人は「これまでにも、何度も回答はもらったが、『調査中だ、わからない』のオンパレードで、内容はない」と答えた。
また、「知事は『1月末までにチップを撤去させる』としているが、これが一般廃棄物か、放射性物質かは、撤去後に発表するという。事前にも、中途にも、何も明らかにしないので、不信感が広がっている」と述べた。「今まで、琵琶湖を抱える滋賀県は、環境問題に厳しかった。ところが、こういうことになり、県民の信頼を大きく裏切った」。
さらに、ほかのメンバーからは「県が何もできないのは、利権が絡んでいるからではないか。これは、利権疑獄の始まりだ。木質チップは壁材にもなる。今回は、建材として処理できなかった木片が捨てられたのだろう。これから新築の家を建てたら、建材からどんど放射能が出ることになる。全容解明をしてほしい」などの意見が出た。