福島県鮫川村の焼却炉爆発事故、再稼働に向け環境省が村民限定で一度きりの住民説明会を開催 村外への説明は「チラシかインターネットで」 2013.11.14

記事公開日:2013.11.20取材地: テキスト動画
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(IWJ・佐々木隼也)

 「なんとか施設の運転を再開できるように取り組んでいきたい」――。

 福島県鮫川村の高濃度放射性廃棄物の焼却施設で起きた爆発事故について、11月14日、環境省が初めて住民説明会を開いた。事故が発生したのは8月29日午後。環境省は、現場の作業員が運転マニュアルに反したことが事故原因だと断定。事故当時、消防や警察への通報が遅れたことについても「現場のルール違反」と結論付けた。

 同省の山本昌宏課長(廃棄物対策課)は、「人為的ミス」を未然に防ぐための管理・設備強化などの再発防止策を説明し、早期の再稼働に理解を求めた。炉そのものについては「安全な施設である」とし、かねてから指摘されている構造的欠陥を否定した。

■全編動画 説明会

■説明会後、駆けつけたいわき市民へのインタビュー

  • 日時 2013年11月14日(木)

村外の近隣住民は排除 かつてない厳戒態勢

 焼却施設は隣接するいわき市や塙町に近く、茨城県北茨城市との県境に立地しているため、これら近隣自治体からの不安の声が根強い。説明会には近隣住民も駆けつけ、会の傍聴を求めたが、環境省はこれを拒否。塙町の住民が持参した「鮫川村民名義の説明会の出席委任状」の受取りも拒否し、会場入口を数人でがっちりガードするなど、これまでにない厳戒態勢で行われた。

 こうした環境省の姿勢に対し、出席を求める近隣住民との間で押し問答が起こり、職員が警察に通報するなど、現場は一時騒然となった。

▲村外の住民が入ってこないように、会場内で出入口を厳重に押さえる環境省と鮫川村職員

 環境省は、鮫川村民限定で行った今回の説明会をもって、鮫川村の監視委員会(議員11名、行政区長7名、住民代表7名)の判断を仰いだうえで、再稼働したい考え。村外の近隣住民への説明会は行わず、チラシや環境省のホームページなどで説明を尽くしていくという。

「『爆発』ではない」環境省の矛盾する説明

 環境省は、事故当初から一貫して「主灰コンベア破損事故」と発表し、「爆発」を否定している。

 環境省は事故原因について、「焼却灰がコンベア内に詰まることを恐れた現場作業員が、運転マニュアルに反し、灰を排出するゲートを『開』の状態にしたままだったため、可燃性ガスが閉鎖空間であるコンベアやサイロに溜まり、こぼれ落ちた灰に引火し、異常燃焼した」としている。

 説明会では、村民から「なぜ爆発事故と言わないのか」「『引火した』ということは爆発ではないのか」との質問が相次いだ。

 山本課長は「『爆発』の定義は難しい。壊れたのは主灰コンベアのみなので、起こった事象を正確に表現した」と説明した。そのうえで、「『爆発』というと福島の原発事故を想起させてしまい、誤解をうむ」と繰り返し強調した。

 しかし、11月5日に山本太郎参院議員が消防庁に資料請求した、この事故の「火災調査書」では、「爆発」「引火爆発」という表記が数回にわたって使用されている。

【山本太郎議員ホームページ】

通報しなかったのは「『現場の』重大な過ち」

 事故が起こった際、焼却施設事務所や環境省は、緊急対応連絡網で義務化されていた消防・警察への連絡を一切行っていなかった。事故の6時間後、20時半に地元の消防署が環境省に事実関係の問い合わせがあり、それを受けて初めて同省が、地元警察に連絡したのだ。

 この重大な義務違反について山本課長は、「環境省と現場で整理していたルールでは、緊急時にはすぐに消防・警察に通報しなければならなかったが、爆発音で駆けつけた職員が、『火が出ていないので消防への連絡は必要ない』と判断した。これは重大な過ち」と語り、「現場の人間がそのルールをきちっと認識していなかった」と、現場の判断ミスであることを強調した。

 そのうえで、「我々(環境省)は通報しているものと思っていて、確認をしなかった」と付け加えた。

地権者の同意を「偽造」した建設着工 環境省「残念な状況」

 この焼却炉建設については、「地権者の同意を得ている」という村と環境省の「正当性」そのものが揺らいでいる。村は「建設着工の前、2012年4月に地権者18名と周辺住民9名に対し説明会を開き、全員の名前と印鑑をもらった同意書がある」と、「周辺住民と地権者全員の同意」を根拠として主張していた。

 しかし地権者の一人である堀川宗則氏が、説明会には一度も参加したことがなく、署名捺印を求められたこともなく、サインも判子も押していないことが、IWJの取材で発覚した。施設の建設は、「偽造」された書類を「根拠」として進められていたのだ。

 堀川氏は、「同意書に第三者が勝手に自分の名前で署名捺印した」として、有印私文書偽造などで地元警察署に刑事告訴を行い、9月19日に正式に受理された。

 説明会でも堀川氏は、この件について「犯罪ではないか?」と環境省に訴えた。しかし山本課長は「確かに、ご本人には同意をいただいていないという残念な状況ではある」と回答。施設の正当性については、「18名の地権者のうち16名と契約を結んで進めている。なかなかそこをご理解いただけなくて、契約をさせていただいていないのは残念ではあるが、引き続き、ご理解いただけるように努力していきたい」と、曖昧な答弁に終始した。

村民との約束をはぐらかす鮫川村長

 大樂勝弘鮫川村長はこれまで、数回にわたる村民への説明会のなかで、施設稼働にあたり「もし何かあったら、計画自体を中止にする」と何度も強調し、村民と約束してきた。

 しかし説明会でこの約束について問われた大樂村長は、施設建設の経緯や必要性を説明したあと、「放射能との戦いはまだ始まったばかりだ。みなさんにご理解いただきながら、除染、復興に取り組んでいかなければならない」と発言。村民との約束については明言を避け、さらに再稼働へ意欲を示した。

 大樂村長は、2月14日に行ったIWJのインタビューで、「もし焼却炉に不測の事態があった場合でも、1万ベクレルくらいの、本当に線量の低い、(村の中では)すぐそこにあるものが(狭い範囲に)散らばるくらいだから問題はない」と語り、事故が起こっても環境に影響はなく問題ないとの認識を示していた。

再稼働は説明会の「雰囲気」で判断

 今後の再稼働の見通しについて、村の担当者はIWJの取材に対し、「村の監視委員会が説明会の様子や、環境省の再発防止策を検討したうえで評価し、その評価をふまえて村長が判断する」と答えた。

 さらに担当者は、「環境省が信用できる安全対策を住民に説明し、住民からも対策が不十分だとの声も上がらなかったので、その『雰囲気』を監視委員会の方が感じ、判断する」と語った。説明会では確かに、「今後も国が責任を持って頑張っていただきたい」と再稼働に賛成する声も上がったが、施設の安全性や環境省への不信、不安の声も多かった。

 しかしこの担当者は、監視委員会が説明会の「雰囲気」を「再発防止策が住民の理解を得られたもの」と解釈することを示唆した。3月5日に行ったIWJのインタビューでも村長は、施設建設について「署名や拍手、多数決ではなく、説明会の『雰囲気』で判断する」と語っている。そしてその後、住民説明会では反対意見も上がっていたにも関わらず、村長は「大半の住民の同意を得た」という「雰囲気」を感じとり、施設建設を決定した。

 今回、その「雰囲気」を判断する村の監視委員会については、「議事録を公開しない」「稼働推進派が多数を占めている」など批判の声があがっている。村民全体、近隣自治体にも関わるこの問題については、ブラックボックス化した空間ではなく、公開の場で議論を行い、判断することをIWJとしても要請していきたい。

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「福島県鮫川村の焼却炉爆発事故、再稼働に向け環境省が村民限定で一度きりの住民説明会を開催 村外への説明は「チラシかインターネットで」」への1件のフィードバック

  1. NO MORE FUKUSHIMA 2011 より:

    鮫川村公民館にて行われた焼却施設爆発事故についての環境省主催の説明会は、当該村民限定となり、他の近隣市町村の住民に対しては、
    傍聴すら許されませんでした。このような環境省の閉鎖的理念の姿勢が、今回の爆発事故を招いたのではないでしょうか。

    焼却炉の構造的問題を無視し、作業員の人為的ミスや事故後の対応等の不備などから、このような焼却施設の再稼動は断固反対である。
    まずは今回の爆発事故の責任の所在を明らかにせよ!。
    稼動前と同様に近隣市町村での説明会の開催を強く要求する!、逃げるな環境省!。

    ■これまでの環境省からの報告等
    福島県鮫川村における実証事業 http://shiteihaiki.env.go.jp/04/03.html

    主灰コンベア破損事故の原因調査結果及び再発防止対策に係るご説明資料
    http://shiteihaiki.env.go.jp/pdf/q5_info_samekawa_131115a.pdf

    福島県鮫川村における農林業系副産物等処理実証事業の主灰コンベア破損事故の再発防止対策について(お知らせ)
    http://shiteihaiki.env.go.jp/pdf/q5_info_samekawa_131025a.pdf

    林業系副産物等処理実証事業主灰コンベア破損事故の再発防止対策
    http://shiteihaiki.env.go.jp/pdf/q5_info_samekawa_131025b.pdf

    農林業系副産物等処理実証事業(福島県鮫川村)有識者委員会(第1 回)の議事概要
    http://shiteihaiki.env.go.jp/pdf/q5_info_samekawa_131017a.pdf

    農林業系副産物等処理実証事業(福島県鮫川村)主灰コンベア破損事故について
    http://shiteihaiki.env.go.jp/pdf/q5_info_samekawa_131007a.pdf

    福島県鮫川村における農林業系副産物等処理実証事業の主灰コンベア破損事故の原因調査結果及び再発防止対策(案)について(お知らせ)
    http://shiteihaiki.env.go.jp/pdf/q5_info_samekawa_130925a.pdf?var2

    農林業系副産物等処理実証事業主灰コンベア破損事故の原因調査結果
    http://shiteihaiki.env.go.jp/pdf/q5_info_samekawa_130925b.pdf

    農林業系副産物等処理実証事業主灰コンベア破損事故の再発防止対策(案)
    http://shiteihaiki.env.go.jp/pdf/q5_info_samekawa_130925c.pdf

    農林業系副産物等処理実証事業主灰コンベア破損事故の原因調査結果(第1次報告)
    http://shiteihaiki.env.go.jp/pdf/q5_samekawa_130902.pdf

    農林業系副産物等処理実証事業の主灰コンベアからの異音発生による仮設焼却施設の停止について
    http://shiteihaiki.env.go.jp/pdf/q5_samekawa_130829.pdf

    ■NO MORE FUKUSHIMA 2011【鮫川村焼却施設問題】これまでのまとめページ
    http://1st.geocities.jp/nomorefukushima_2011/samegawa/html

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