「日本はアメリカの圧力を口実として、軍事大国になりたいのかもしれない」各国ゲストから厳しい声 ~9条国際会議 全体会 2013.10.13

記事公開日:2013.10.13取材地: テキスト動画
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(IWJテキストスタッフ・阿部玲/奥松)

 「大砲を作ってる人たち、あんた方の正体は丸見えだよ」──。ジーン・マイラー氏は、ボブ・ディランの歌を引用して反戦を訴えた。

 2013年10月13日(金)10時より、大阪府吹田市の関西大学千里山キャンパスで「9条国際会議・全体会」が行われた。日本政府が憲法改正の動きを進め、米軍とともに軍備の強化を急いでいることから、「9条が危機に瀕している」と懸念する声が多く上がった。それに歯止めをかけられるのは、一体誰なのか? 海外ゲストを中心に、日本に対し真摯なメッセージが伝えられた。

■全編動画

  • 司会 奥本京子氏(大阪女学院大学)
  • 挨拶 池田香代子氏(翻訳家)、吉田栄司氏(関西大学教授)
  • 基調報告 高作正博氏(関西大学教授)「憲法9条をめぐる情勢と課題」
  • 海外ゲスト ジーン・マイラー (Jeanne Mirer) 氏、アン・ライト (Ann Wright) 氏、君島東彦氏、イ・キョンジュ (Lee Kyung-Ju)氏

憲法9条は、危機状態にある

 憲法学が専門の高作正博氏は、冒頭、「憲法9条は今、危機の状態にある」と憂いた。「7月の参院選で過半数を獲得し、自民公明の連立政権は、このままいくと3年間は継続する。その間、解釈改憲、明文改憲を狙っている内閣が、政権を維持し続けることになる」とし、さらに、「関西でも、ヘイトスピーチデモに代表されるように、排外的な動きが目立っている。維新の会という、大阪の保守勢力が勢いを増しているのも象徴的だ」と述べて、9条国際会議が大阪で開かれることの意義を強調した。

 また、安倍内閣の特殊性を、「改憲を争点化して勝利を収めた、極めて少ない事例」と指摘した。「戦後、『改憲を試みると票を落とす』と言われてきたが、それが当てはまらなかった。安倍首相は55年体制の打破を標榜したが、奇しくもヘイトスピーチに見られる社会の右傾化とともに、支持を拡大した」との見方を示し、「しかし、一票の格差をめぐっては、裁判所より『違憲』『違憲状態』との判決が相次いでいる。安倍政権自体の違憲性も問われなくてはいけない」と主張した。

 自民党の憲法改正草案については、「簡単に人権を制限する条項を含んでいる。人類が多年にわたって獲得した権利を、すべて無にするものであり、国民より国家優先に変えようとしている」と批判。「原発事故の際、SPEEDIなどの情報がしっかりと国に上がって来なかった。そして、情報を扱えなかった。今、必要なのは改憲の準備をすることではない」と、情報管理の改善を提言した。

「戦争の親玉」から「平和の親玉」になるチャンス

 ジーン・マイラー氏は、IADL(国際民主法律家協会)の事務局長を務めている。「国連憲章は、すべての国が戦争を平和的な手段で解決することを求め、国際関係において武力による威嚇や圧力の行使を禁じているが、この原則は憲法9条の内容と合致している。しかし、9条は更に、武力の保持を認めないばかりか、国の交戦権を否定し、集団的自衛権の行使も防いでいる」と、日本国憲法の先進性を強調した。

 「太平洋戦争後、日本を非軍事化したかった連合国からの押しつけという側面は理解しているが、それでも日本国民は受け入れて、イラク、リビア、シリアでも戦わなかった。9条のおかげで、日本国民は戦争の惨禍を回避してきた」と評価する一方、「現在の政府は、集団的自衛権の行使を目的に改憲しようとしている。なぜ、日本国民がそれに合意するのか理解できない。9条を擁護するのは正しいことだ」と主張した。

 そして、「今、世界最大の軍産複合体が肥大し続けているが、彼らは平和的解決を何ひとつ模索していない」と批判すると、「今年は、ある節目の年から50周年を迎える」と述べた。「そのひとつは、ボブ・ディランが反戦運動へ参加したこと」と言い、『Master of War(戦争の親玉)』という、1963年のボブ・ディランのヒット曲を引用した。「『おい、大砲を作ってる人たち、飛行機を、爆弾を…壁のうしろに隠れている人たち、あんた方の正体は丸見えだよ』という歌詞は、軍産複合体を指している」。

 「もうひとつは、『人種差別のない将来を夢見る』と語った、キング牧師の伝説のスピーチである」と述べ、「日本国民が9条の誓いを守ることで、日本国民も夢を見ることができる。それを現実にするためには、われわれが一緒に力を尽くすこと。そうすれば、『平和の親玉』になれるでしょう」とメッセージを伝え、会場からは大きな拍手が起こった。 

自衛隊は、本当はイラクでどのような活動をしてきたのか?

 アン・ライト氏は、元米陸軍大使で、イラク戦争の際、軍の方針に納得がいかず、当時のパウエル国務長官に辞表を突きつけた、というエピソードを持つ。前回の9条平和会議から5年振りの来日となるが、「悲しい気持ち。なぜなら、皆さんの日本政府が9条を攻撃し、自分の国、アメリカの大統領が、それに共鳴をしているからだ」と心情を語った。

 「ブッシュ政権時、国務副長官だったアーミテージ氏は『9条は日米同盟の障害』と言っていた。自衛隊がイラクに派遣された時、実際には、米国の軍隊のための洋上燃料補給船や、バクダッドへの兵站輸送機の提供をしていた」と証言し、後者については、「名古屋高裁は、自衛隊のイラクへの派遣は9条違反、違憲であるという判断を示した」と付け加えた。そして、「それから5年経って、『9条を改正せよ』とのオバマ政権の要求は変わっていない。戦後、アメリカが日本の非軍事化のために9条を作り、今度は再び軍事化を声高に支持しているというのは皮肉だ」と語った。

 ライト氏は「日本は『滑りやすく急な下り坂』の状況にある」と警告する。「米国は、軍事的同盟関係拡大の合意に基づき、日本の基地から長距離用グローバルホーク無人機を飛ばすことを始めるだろう。2014年春には、北朝鮮をターゲットとした偵察飛行を開始する。合意には、新しいレーダーシステムの構築と、P8対哨戒機の運用も含まれている」などと、具体的な動きを解説。最後に、「新しい駐日大使(キャロライン・ケネディ氏)が、オバマ政権に軌道修正を説得することを願う。アメリカの、日本国憲法への干渉はこれからも続くが、大事なのは抵抗し続けること。9条を皆さんが堅持すること」と、メッセージを伝えた。

「9条は加害責任の免罪符ではない」

 憲法学、平和学が専門の君島東彦氏は、冒頭で「9条は国際関係そのもの。世界から見ることによって、初めて捉えられる」と語った。「以前のロシア・北方領土問題から、現在は北朝鮮と中国の脅威に、日米同盟の軍備配置はシフトしている」と、西日本の軍事化を懸念し、「陸上自衛隊と米軍海兵隊は、琵琶湖の西、滋賀県高島市の饗庭野演習場で日米共同訓練を行っている。10月16日にはオスプレイが参加した。米軍および防衛省は、京都府京丹後市経ヶ岬に、弾道ミサイル防衛の一環となるレーダー基地建設を急ピッチで進めている」と事例を紹介した。

 さらに、「侵略的な武力を完全否定した9条は、日本の安全保障の規定ではない。日本軍の被害者である、アジアの民衆の安全保障の規定だ」と指摘。その根拠として、社会学者、日高六郎氏の『幣原喜重郎の憲法草案要綱を読んだ時の回想』(1946年)を引用した。そこには、「日本の再度の独善的な政治行動を防ぐものとして、9条は懲罰的な意味がある。世界的先駆性を語るのは恥ずかしい。9条は加害責任の免罪符ではない」と書かれてあるという。そして、「世界の平和運動を見れば、9条の理念と同じ目標、方向性が至るところに存在するのがわかる。各国の動きと連携して、法規範性を維持し続けることが求められている。9条は、世界の民衆とともにある」との持論を強調した。

アジアの首脳たちは、安倍首相に会いたがらない

 イ・キョンジュ氏は、イーハ大学で憲法学を教えている。「韓国でも中国でも、新しい政権が誕生し、首脳会談がすでに行われた。新しい政権は、通常、首脳会談を行うものだが、日本と韓国、日本と中国では行われていない」と指摘した。「ブルネイのASEANで挨拶の言葉は交わしたが、今後、会うという話までは進んでいない。日本の首相が歴史問題について、うしろ向きの発言を続けているのが大きい」との見方を示した。

 キョンジュ氏は、アジアの首脳たちが安倍首相に会いたがらないのは、「アジアの被害者への安全保障としての日本国憲法。そのあり方に、安倍政権が反しているからではないか」と述べた。「自衛隊はある意味、憲法違反の存在だが、その存在を正すことなしに『憲法に規定(修正)さえすれば、それは合憲である』という発想は、憲法万能主義であり、立憲主義とはまったく関係ない発想である」と断じると、会場からは拍手が起きた。

 さらに、「慰安婦問題については河野談話を認めていたのに、今、否定するのは、どう理解したらよいのか」と疑問を提起し、「考えられるのは、アメリカとの関係を非常に意識している、ということ。しかし、国防軍は戦争に巻き込まれる軍隊。アメリカの圧力をひとつの口実として、軍事大国になりたいのかもしれない」などの見解を示した。それでも、キョンジュ氏は「テレビの報道で、日本国民の過半数は憲法改正に反対、という世論調査を見た。制定権力者である国民および、ここ関西の皆様に期待をしている」と、一人ひとりの判断に希望を託した。

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