安倍首相の「五輪招致発言」で不信感増大。小出氏「フクイチ敷地内は、放射能の沼」 ~小出裕章さん講演会「私たちの未来と原発」 2013.9.14

記事公開日:2013.9.14取材地: テキスト動画
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(IWJテキストスタッフ・富田/奥松)

 「自民党は福島のことを忘れてしまったのか」──。小出裕章氏(京都大学原子炉実験所)はこう懸念を示し、顔を曇らせた。2013年9月14日、札幌市民ホールで行われた小出氏の講演会「私たちの未来と原発」の一幕である。約1週間前のブエノスアイレスでの五輪招致プレゼン会で、安倍晋三首相が、福島第一原発の高濃度汚染水問題は「コントロールされている」と明言した一件を巡るものだ。小出氏は「今なお、コンクリートの割れ目から汚染水が漏洩している、とみるのが妥当だ」とも語り、汚染水問題の解決が極めて難しいことを、客席を埋め尽くした市民ら約1500人に説明した。

 冒頭、上田文雄氏(札幌市長)が「この8月の、汚染水問題に関する東京電力の発表は、当初は『海洋への流出は120リットル』だったのに、その舌の根も乾かぬうちに『実は300トンだった』と説明が一変した」と指摘。「安倍首相は、福島第一原発の汚染水問題は『コントロールされている』と言い切ったが、テレビであのシーンを見た日本人の多くは、驚きを禁じえなかったに違いない」と言葉を重ね、次のように強調した。「(一国のトップは)どのような場でも嘘を言ってはいけないと思う。安倍首相のあの発言は、大勢の日本人に『もはや、政府の発表は信用できない』との感情を植えつけたのではないか」。

 続いて登壇した小出裕章氏は、まず、「18世紀末に英国で起こった産業革命を機に、人類のエネルギー消費量がぐんと増えた」と述べ、豊かさを享受するために、自然環境の破壊を重ねる人類の増長を振り返った。その上で、安倍首相のブエノスアイレスでの発言に触れた小出氏は、「自民党は、福島のことを忘れてしまっているのではないか」と懸念を示した。

■全編動画
・1/2(18:32~ 1時間21分)

1分~ 上田市長あいさつ/18分~ 小出氏講演

・2/2(19:56~ 58分間)

冒頭~ 小出氏講演〔続き〕/44分~ 上田市長/51分~ 川原氏/55分~ 猫塚氏
  • 来賓挨拶 上田文雄氏(札幌市長)
  • 講演 小出裕章氏(京都大学原子炉実験所 助教)
  • 呼びかけ 川原茂雄氏(Shut泊 共同代表、高校教諭)
  • 閉会挨拶 猫塚義夫氏(医療九条の会 共同代表、医師)

原子力を学ぶうちに気づいたこと

 小出氏は広島原爆のキノコ雲の写真をスクリーンに映し出し、「戦後の日本でも、核の恐怖は、やがて『その技術を人類の平和のため使えばいい』という、核の夢へと変わっていった」と述べ、自身もまた、核の未来に夢を馳せながら東北大学で原子力工学を専攻したことを明かした。「しかし、1950年代に新聞などが喧伝した、限りなく安い電気料金、大工場は不要という、原発によるエネルギー供給は実現しなかった。そればかりか、燃料である天然ウランの有限性という問題にも出くわした」。

 「100万キロワットの原発1基が1年間運転されると、燃やされるウランの総量は1トンに達する」。大学生の段階で「反原発」の姿勢を鮮明にし、その後は原発をやめるための研究に励んだ小出氏は、「広島原爆で燃えた、800グラムというウランの量と比較すると、原発の場合は、その1000倍超となる計算だ」と、原発で一度事故が起こった場合の被害の甚大さをしきりに訴え、こう語った。「原発推進派の人たちも、原発事故の恐ろしさについては異論はないはず。都市部への原発建設を避けるのは、事故があった場合の経済的損失の大きさを心配している証拠だ」。

汚染水「敷地内管理」には限界がある

 「私はこれまで、原発の廃絶を政府に訴え続けてきたが、思いは届かなかった」と語る小出氏は、「福島第一原発の事故は収束していない」と強調。「すでに溶け落ちている炉心の所在すらわからない状況が、今なお続いている」とし、1~3号機で起こったメルトダウン(炉心溶融)を図を使って解説した。

 水による原子炉の冷却については、「水をかけるしかない、という判断から、この2年半の間、水を注入し続けた。その結果、汚染水が格納容器から溢れ続けている状態だ」と指摘し、次のように力説した。「原子炉建屋で、最終的なバリアの役割を担っているのはコンクリートの壁だが、巨大地震に見舞われた福島第一原発の場合、あちこちに割れが生じていても不思議ではない。つまり、今なお、割れ目から汚染水が漏洩しているとみるのが妥当だ。漏洩した汚染水は地下水と混ざっており、敷地内はすでに『放射能の沼』と化している公算が大きい」。

 「敷地面積が有限である以上、汚染水を溜めるタンクを増やし続けることは不可能」。こう指摘した上で、小出氏は「遠からず、海への放出という苦肉の策が、現実味を帯びるだろう」との見通しを提示した。「それを避ける手立てとして、冷却の手段を、水から金属にシフトすることが考えられるが、事故全体の収束という点では、依然として明確な方法は示されていない」と述べ、溶け落ちた炉心の取り出しなど、極めて難しい作業が待ち受けていることを聴衆に伝えた。

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「安倍首相の「五輪招致発言」で不信感増大。小出氏「フクイチ敷地内は、放射能の沼」 ~小出裕章さん講演会「私たちの未来と原発」」への1件のフィードバック

  1. 大野圭市 より:

    札幌公演ありがとうございました 
    昨日より日本の原発がすべて停止たことをニュースで聞きました
    以前小出さん(失礼ですがあえて先生と敬称しません)電力の問題と原発の問題はまったく違うところにあると
    電力が足りなくなると東電が国民を脅している最中も小出さんは電力は足りるのですと説明をしていました
    あの3・11のあといろんな情報がたくさん出ましたがウソの情報はあとからすべてがばれることになり
    小出さんが一生懸命伝えてくれたことだけがすべて今になって本当の現実となって来ています 
    札幌公演の少欲知足を実践されている小出さんの生き方に感銘と震えるような畏敬の念に打たれます
    本当にありがとうございました

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