日本の自由主義と民主主義の根幹である「放送法」の解釈変更。法規範の破壊はどのように行われたのか?総務省の職員から立憲民主・小西参議院議員に託された「内部文書」に記された内容とは?~ 3.2立憲民主党 小西洋之参議院議員 記者会見 2023.3.2

記事公開日:2023.3.3取材地: テキスト動画
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(取材、文・浜本信貴)

 2023年3月2日、16時より、東京・参議院議員会館にて、立憲民主党・小西洋之参議院議員による「総務省の内部文書」についての記者会見が行われた。

 小西議員は、総務省の職員から提供されたという、安倍政権下の2014年から15年にかけて、首相官邸側と総務省側でやりとりした内容を示す政府の内部文書とされる資料(A4、約80ページ)を公表した。

 会見冒頭、小西議員は会見の趣旨について、以下のように語った。

小西議員「今日の記者会見の趣旨でございますが、私が総務省の職員の方から提供を受けました、ある総務省の内部文書についての公表と、その内容についてのご説明でございます。

 この文書は、平成27(2015)年の5月12日、参議院の総務委員会において、高市早苗氏(当時の総務大臣)が、『放送法4条の政治的公平(※1)』という、番組編成の準則と呼ばれるものがあるわけですが…。まあ、放送局が守らなければならない、番組作り、局の運営にあたってのルールでございます。

 その一つの『政治的公平』について、これまでは、放送局の番組全体で、その『政治的公平』を判断するという、確立した政府答弁をしていたものを、突如、その5月12日の答弁(※2)で、『たった一つの番組でも、政治的公平を判断する』、つまり、放送法違反を判断することができる、という答弁を出しました(後略)」

※1 放送法第4条:
 第四条 放送事業者は、国内放送及び内外放送(以下「国内放送等」という。)の放送番組の編集に当たっては、次の各号の定めるところによらなければならない。
一 公安及び善良な風俗を害しないこと。
二 政治的に公平であること。
三 報道は事実をまげないですること。
四 意見が対立している問題については、できるだけ多くの
角度から論点を明らかにすること。
・放送法-総務省 電波利用ホームページより
https://www.tele.soumu.go.jp/

※2 2015年5月12日参院総務委員会での高市早苗 総務大臣(当時)放送法・電波法を巡る答弁:
「一つの番組のみでも、選挙期間や近接する期間に特定の候補者のみを相当の時間取り上げる特別番組を放送するなど、選挙の公平性に明らかに支障を及ぼすといった極端な場合は、一般論として政治的に公平とは認められない」
・毎日新聞、2016年2月11日より抜粋
https://mainichi.jp/articles/20160212/k00/00m/040/071000c

 高市総務大臣(当時)の答弁は、政治的公平を放送局の番組全体で判断するとしていた慣例を、「たった一つの番組」であっても政治的公平を欠けば、放送法4条違反となるというものである。放送法4条違反は、50万円の罰金以下の罰金に処されることになる。

 しかし、それだけではなかった。

 高市総務大臣は、この発言の翌年2016年2月8日の衆議院予算委員会で、電波停止を命じる可能性にも言及した。

 高市総務大臣は、野党議員から「憲法9条改正に反対する内容を相当の時間にわたって放送した場合、電波停止になる可能性があるか」との質問に対して、「放送局が政治的な公平性を欠く放送を繰り返し、行政指導しても全く改善されない場合、それに対して何の対応もしないと約束するわけにいかない」と答弁した。

 「たったひとつの番組」の放送法4条違反を理由に電波法76条に基づいて、政府が放送局に対し、電波停止を命じる可能にも言及したのである。

 小西議員は元総務官僚、2004年から2005年にかけて、総務省 情報通信政策局 放送政策課で課長補佐を務めた。つまり、小西議員は、さまに放送法の解釈の責任をもつ行政官としての経験をもつ。

 「たった一つの番組でも、政治的公平を判断する」という2015年の高市大臣の解釈・答弁は、小西氏がその後、国会議員となったあとも、一度も聞いたこともなく、考えたこともない放送法4条の解釈であった。小西議員はその後も、なぜ、どのような経緯で、このような解釈が作られたのか、わからないままであったという。

 それが、このたび、総務省職員から提供を受けた内部文書によって解釈の理由と経緯が判明したと、小西議員は報告した。

 第2次安倍政権下の2015年当時、小西氏の上司であった磯崎(陽輔)総理補佐官が、総務省の局長を呼びつけて、TBSの「サンデーモーニング」の番組名を挙げながら、「あれは放送法違反だ、おかしい。なので、たったひとつの番組でも、『政治的公平』に違反すると判断できるように放送法の解釈を作ろう」と、政治的圧力を使い実行したことが判明したのである。

 当時の総務省は解釈変更に対して抵抗を試みたが、最終的には磯崎補佐官が自ら書いた解釈を示され、結果、それとほとんど同じ内容の答弁を高市大臣が行うこととなった。そして、それを当時の安倍総理が承認することで、この放送法第4条の解釈変更が行われた。より正確に言えば、法規範の破壊が実行されたというわけである。

 小西氏は「民主主義の根幹である放送法の解釈を、少人数の権力者だけで作ってしまうことが文書によって明らかになった」と訴えて、会見の趣旨説明を終えた。

 小西氏「いずれに致しましても、これは、今日この瞬間も生きている放送法の解釈でございます。多くのテレビ局が、これは私自身も実感するところですが、この解釈のあと、今日いらっしゃっている皆さんは負けてないとは思いますが、放送番組の現場、番組作りというのは変わった、という意識は、私だけではなくて、いろんな人が残念ながら思っているのが実状だと思います。

 特定の権力者が、適正なプロセスではない、まあ、違法なプロセスと言っていいと思いますが、自分の政治目的で、民主主義の根幹である『放送法』、日本の自由主義と民主主義の根幹であるこの『放送法』の解釈を、特定の少人数の、数名の権力者だけで作ってしまう。

 このようなことが、この内部文書によって明らかになったわけでございます。戦後の日本における大事件であり、放送によって届けられる政府の活動、あるいは国会の活動といった民主主義の基礎が、今大きく脅かされている。そういう問題だと思います」。

 小西氏は、この会見翌日の3月3日、午前の参議院予算委員会にて質問を行なったが、この内部文書の行政文書としての「正確性」が確認できないとして、その配布を与党側が認めず、一旦質疑を取りやめた。

 結局、内部文書の配布は認められなかったものの、小西氏は、午後の委員会で質問を行なった。しかし、岸田総理は質問をはぐらかし続け、松本・現総務大臣は「放送法の従来の解釈を変更したものとは考えていない」、および、高市内閣府特命担当大臣は「(内部文書は)まったくの捏造である」と反論した。

 小西氏は次のように自身の質疑を結んだ。

小西氏「日本の民主主義、その言論報道の自由がまさに今、危機に瀕している。それを救うために、会派をあげて全力で戦う決意、そして、この文書を私に提供してくれた総務省職員の思いに応えて、全力で尽くす決意を申し上げて、質疑を終わります」。

 詳細についてはぜひ全編動画をご視聴ください。

■全編動画

  • 日時 2023年3月2日(木)16:00~
  • 場所 参議院議員会館 B-107(東京都千代田区)

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