2023年2月22日午後4時より、東京都千代田区の参議院議員会館にて、鈴木宗男事務所の主催で、「東京大地塾」が開催された。「ウクライナ問題」をテーマに、作家で元外交官の佐藤優氏が講演を行なった。
佐藤氏は、緊急入院から退院したばかりとのことで、体調もおもわしくないとしながら、舌鋒鋭く、ウクライナ問題について語った。
佐藤氏は、冒頭から、単刀直入に、ウクライナ紛争の「停戦」について触れ、参加者に次のように語りかけた。
佐藤氏「停戦の話については、国内でも、たとえば今日の『朝日新聞』、読んだ?『グローブ(朝日新聞GLOBE+)』。広島総局長で編集委員の副島(英樹)さん、元のモスクワ特派員が、停戦論を前面に打ち出している。おそらく朝日で初めてだと思う。
- ウクライナ侵攻、「戦え一択」にかき消される即時停戦の声 被爆地・広島からの訴え(朝日新聞GLOBE+、2023年2月22日)
それから、『週刊エコノミスト オンライン』で、今井尚哉(たかや)内閣官房参与、現役の参与よ。これも停戦を言っている。流れがだいぶ変わってきたね」
- インタビュー完全版「岸田政権は停戦仲介に動け、資源国と水素外交にシフトせよ」今井尚哉・元安倍内閣首相補佐官(週刊エコノミストOnline、2023年2月20日)
続けて、佐藤氏は、ウクライナ問題の変遷について、次のように概説した。
佐藤氏「去年の2月24日に、ロシアがウクライナに侵攻した。最初、これはウクライナのドンバス地域、ルハンスク州とドネツク州におけるロシア系住民の処遇をめぐる、ロシア・ウクライナ間の2国間戦争でしたよね。
それが今、もうこの戦争の性格は変わっちゃいました。どういうふうに変わったかというのは、ロシア対、ウクライナを支援する西側連合の戦争になっています」
講演後、参加者と佐藤氏との質疑応答の時間となったが、その中で佐藤氏は、フリージャーナリスト横田一氏の質問に答えて、米国の調査報道ジャーナリスト、シーモア・ハーシュ氏が、2月8日に発表した記事について触れた。
その記事は、バイデン政権が、ドイツとロシアを結ぶ天然ガスパイプライン「ノルドストリーム」の爆破を計画・実行させた、とするものである。
横田一氏「今井尚哉さんも佐藤さん、宗男さんに続いて早期停戦を言い出した中で、そういう勢力がどう結集して岸田政権、総理を変えていけばいいのでしょうか。維新と公明がカギを握っているような気がするのですが、具体策があれば、是非お聞きしたいのですが」
佐藤氏「やはり横田さんに今井さんの話を広げて欲しい。(中略)
あともう一つ。これ、今、岩上さんが一生懸命翻訳してる、調査報道の、例のパイプラインの件について、本当のところ、どうだったのかっていう、あのニュースっていうのも、日本でもっと知られて、その調査報道をどう見るか、ということについては色々意見があるかもしれない。
だけれど、その調査報道に関しては、やっぱり、岩上さんのところが一生懸命翻訳してるっていうのも、そう見ると、やっぱり、横田さんのところもそうだし、岩上さんのところもそうだけど、『公共圏』になりえないインターネット空間の中で、『公共圏』の機能を果たそうとして努力している人たち。その人たちの努力っていうのを高く買って、やれる範囲で応援していくことだと思うよね(中略)」
IWJ記者はこのパイプラインの件、ノルドストリームの爆破問題について、佐藤氏に、以下のとおり質問をした。
IWJ記者「先ほど佐藤さんが言及された『ノルドストリーム』についての質問というか、お考えを伺いたい。お二方の。
2月の8日に米国の調査報道ジャーナリストのシーモア・ハーシュさんが、『バイデン政権がドイツとロシアを結ぶ天然ガスパイプライン、ノルドストリームの爆破を計画・実行させた』というスクープを発表しました。
昨日(2月21日)の防衛大臣会見に出席して、浜田大臣に、この件について2点ほど質問をしました。
1点目が、日本政府はこのハーシュ氏の記事内容について検証や情報収集を行っているのかどうか。もう1点が、日本の安全保障をこのまま米国にゆだね、有事の際の自衛隊の指揮権まで米国に渡してしまっていいのか。それを再考すべきではないでしょうかということで、大臣の見解をたずねました。
その回答というのが『報道の一つ一つにお答えするということはできませんので、私の方からはコメントは控えます』。
ひるがえって、米国自身はこの記事について『完全な誤りであり、まったくの創作である』という応答をしているのですけども、お考えを伺いたいのが、この米国の応答と日本側の応答とがずれていて、そこに何か意味というか、注意すべきことがあれば教えて下さい」。
この質問に対して、佐藤氏は次のように答えた。
佐藤氏「日本は読んでいないというのに限りなく近い話だから、一々回答しないということだから、責任を負わないわけだよね。
アメリカの方は完全な捏造だと言った場合には、ジャーナリストの書いたものを捏造だという挙証責任はどっちにある? 権力側だよね。だから、ちゃんと挙証をしてくださいと、どこが捏造なのかということだよね。
それから本件に関しては、エマニュエル・トッドさんが、あげた国の名前が違ったけど、イギリスとポーランドっていう、EUとアメリカということは、たしか彼が文藝春秋で私と対談したとき『やったに決まっている』と。
『どうして?』とトッドさんに聞いたんですね。『ロシアは栓を締めればいいだけだから、やる合理性がない。そういう簡単な話だ』とトッドさんが言ったことに、すっと納得してしまいましたけどね。(中略)
ただ、構図としては、ロシアは栓閉めればいいのに何でそのインフラを壊さないといけないのかと、ここのところに対する合理的な説明が、ロシアの自作自演説にはないので、合理的に説明できないことは大体、外交ルートだっておかしいんですよ。
でも何か嫌だと思いません? 柳条湖とか盧溝橋みたいな話があちこちでたくさん出てくるというのは、一体何を信じればいいのかというふうになって、すごく嫌な感じになってくる。
でも、いずれにせよ、この調査報道の問題というのは、結局世界は無視できないと思う。
でも、この調査報道が出てきても、これに対して極力目を向けたくない力が、なぜヨーロッパで働いているのか、アメリカで働いているのかっていうのは、さっき言ったロシアの反プーチン系の知識人が言っていた、やっぱり恐ろしい反ロ感情というのは、草の根から生じているんだという。こういうところ。
その結果、それが跳ね返ると、この戦争をやむを得ないというロシア人の感情になっちゃうっていうことで、でも、これを日本語にするという、これは大変な作業だと思うんだけれども、それをやられてるということは非常に敬意に値しますし、ファイナンスの面でもできるところでみんな応援してあげて、それから後、まずそれを見て判断するっていう。(記事を)まず読んでそれにコメントすること。(中略)
そして、この調査報道が出てくるっていうところが、アメリカの自由、それから、アメリカのメディア、権力監視の機能っていうのは、生きてるんだなっていうことで、大きい意味では、アメリカの国益になると、僕は思うけどね」。
詳細についてはぜひ全編動画を御覧いただきたい。