2020年9月23日(水)、午後2時から、東京都港区海岸のダイアログ・ミュージアムにて、ジャーナリストの伊藤詩織さんが2020年TIME誌「世界で最も影響力のある100人」のうちの一人として選出されたことを受けての囲み取材が行われた。
「伊藤詩織さんは、性暴力の加害者に対するその勇気ある告発によって、日本の女性たちの人生を永遠に変えてしまった」
この文章は、社会学者・上野千鶴子氏が、2020年TIME誌「世界で最も影響力のある100人」に選ばれた伊藤詩織さんを同誌上で紹介した文章の冒頭のセンテンスである。
伊藤さんは2015年4月3日に元TBS記者でワシントン支局長の山口敬之氏からホテルで性的暴力を受け、準強姦容疑で警視庁に被害届を提出。2016年7月に東京地裁が嫌疑不十分で山口氏を不起訴とする決定がなされて以降、伊藤詩織さんは、「枕営業」などといった心ないバッシングと、「声を上げた女性」に対する称賛の嵐が同時に吹き荒れる中で前を向いて歩き続けた。
それは、依然として男性優位であると言われる日本社会においては、想像を絶する経験である。そして、その歩みの中で、日本の女性たちの人生を永遠に変えてしまったのである。
上野千鶴子氏による伊藤詩織さんの紹介文は、次の一文で終わる。
「日本の社会は、やっと、性暴力を容認することに対し『NO』を突きつけ始めている」
IWJ記者は、上野千鶴子氏のこの認識についてどのように思うかと、伊藤詩織さんに質問した。これに対して伊藤さんは次のようの答えた。
「本当に、正直こうやって皆さんに私の声を聞いていただいているだけで、そう、そうだと思います。やっぱり、なぜ自分の顔を出して話したかというと、そこについての話が本当にどこでもできなかった。被害者に対してもできなかったし、自分のケースはまず話せなかった。
話せても、やっぱり、不起訴という壁があったり、不起訴は結果なんですが、ただ、どうしてそうなったかというところ? じゃあどういった法律が、というところだけでも見て欲しいと思ってても、その願いが届かなかったんです。
そう考えると、今こうやって、何が直すべきことで、どういったところが、という点について話をすることができるようになったというだけでも『第一歩』だと思う。なので、今ここから、どんどん、どんどん変わっていけるポイントだと思うので、これから本当に、やっぱり、私はこうやって、一個人として自分の経験からお話することしかできませんでしたけど、皆さんにはたくさんの得意分野があると思いますので、そこで色々なアップデート、改革ができると思っています。
本当にメディアの報道を見ていても、今まで読まなかったような、読んでいると辛いですけど、性暴力の記事だったり、でもそれをお話されている方は、どうにか、同じことになって欲しくない、そのためにはどうするかという、身を切るような思いで記者の方々に話してくれていると思うんです。
(中略)問題って、やっぱり見えなくては、聞こえなくては解決できないものなので、そこをメディアの人たちがまず起こしてくれたというのは大きなことだと思ってますし、やはり、『#MeTooムーブメント』も来週で3年目になりますが、これもニューヨーク・タイムズなどの報道で始まりました。
ですので、『伝える』ということがどれだけ大切か、『Black Lives Matter』もそうですけど、近年の色々な、今まで根深く直ってこなかった問題に光を当てるためには本当に色々なヒントがあるなと、振り返って思います」
「問題をみんなが『見えるように、聞こえるように』することがメディアの役割である」。記者クラブ制度の是非など、メディアのあるべき姿が議論されて久しい。想像を絶する体験をした伊藤詩織さんが到達したのは、非常にシンプルな「原理」である。