「今回もし、2月の名護市長選に続いて(自・公・維推薦の)佐喜真淳さんが辺野古の『へ』の字も言わずに選挙に勝つということになると、『辺野古の基地を作るかどうか』ということを、争点隠しで隠されてしまう程度の問題としか見ていない沖縄県民が増えているということだと、大変懸念しています」
沖縄国際大学の佐藤学教授は、告示直前の2018年9月6日におこなわれた岩上安身によるインタビューで、今回の沖縄県知事選について悲観的な見通しを語っていた。
2018年2月4日の名護市長選挙では、「辺野古に基地を作らせない」と訴えて2期務めたオール沖縄の稲嶺進前市長が、自民、公明、維新が推薦する渡具知武豊現市長に破れている。この名護市長選では、辺野古新基地建設に反対の立場を表明しているはずの公明党の沖縄県本部が、渡具知氏と政策協定を結び全面協力した。このため渡具知氏は選挙戦では争点を隠す戦術に徹し、辺野古の「へ」の字も言わなかった。何から何まで、今回の県知事選でのオール沖縄の玉城デニー氏に対する自公維推薦の佐喜真陣営と全く同じ構図、同じ戦い方だった。佐喜真氏が勝利すれば、争点を隠しさえすれば、沖縄の有権者は欺けるということになる。佐藤学教授の懸念はもっともだった。
▲沖縄国際大学 佐藤学 教授(2018年9月6日IWJ撮影)
今回の県知事選に対して佐藤教授は、9月6日の岩上安身のインタビューで次のような分析を示した。
「2014年の前回県知事選で、翁長さん(翁長雄志前知事)が36万票、仲井真さん(仲井真弘多元知事)が26万票取りました。10万票の大差でした。
その時と明らかに違うのは維新。前回は下地幹郎さんが自分で出た。維新の票は過去の選挙から見ても常に7万票あります。今回、これがそっくりそのまま佐喜真さんに行くと、仲井真さんの26万票が33万票になります。10万票差が3万票差になってしまいます。
そして前回自主投票だった公明党が今回は佐喜真さんと政策協定を結びました。沖縄の公明票は過去の選挙から見て、8万から9万票あります。沖縄の公明党は、辺野古基地建設に反対していますから、前回相当数が翁長さんに入れたはずです。
もしも翁長さんが公明票のうち半分近い4万票を取っていたと考えると、翁長さんの票から4万票減って相手側に行くわけですから、3万票差があったものが、逆にマイナス5万票になります。翁長さんが公明票を全部取っていたとすると9万票減って相手側に行き、15万票負けちゃう。これは、そういう選挙なんです」
佐藤教授は、「維新、公明、どちらも『堅い票』だ」と指摘する。この指摘は前述の名護市長選の結果を見れば明らかである。前回の2014年では辺野古新基地建設反対を掲げた稲嶺氏が4000票差で圧勝したにもかかわらず、公明党・創価学会が渡具知陣営に事実上回った今年2月の選挙では3500票差をつけられて敗北した。
ところが今回、オール沖縄の玉城デニー氏は、自公維推薦の佐喜真淳氏に勝利した。しかも蓋を開けてみれば、過去の沖縄県知事選で最大得票数だった稲嶺恵一氏の37万4833票を上回り、39万6632票を獲得した史上最多得票で、佐喜真氏に8万票の差をつけての圧勝だった。
自民党の大物議員が何度も佐喜真氏の応援演説に入り、創価学会が組織立って本土から数千人の運動員を沖縄に送り込みながら、玉城氏が圧勝した理由はどこにあるのだろうか。IWJは選挙後、再び佐藤学教授に取材した。以下は佐藤教授のコメントである。
勝因はオール沖縄の結束!さらに玉城デニーさんが候補者としての真価を発揮した!
「私の予想は外れまして、全く逆の結果になりました。政治学者として、私は修行のし直しだと思っております(笑)。
一言で言うと、翁長さんの『弔い合戦』になったということで、説明できる部分が大きいと思います。
翁長さんが病に倒れた時、辺野古の基地建設反対運動の現場では『なんで早く埋め立て承認の撤回をしないのか』という翁長さんへの批判が、ずっと出ていました。それが、翁長さんの予期せぬ急逝ということで、言ってみれば『翁長さんを悼む』というところに全部収斂した。『翁長さんの遺志を継がねばならない』というメッセージに全てが収斂された。それが、ものすごく大きな結果になったということだと思います。
翁長さんの後継者を誰にするかということも、オール沖縄の中で当初は相当もめたはずだし、玉城デニーさんというのは、録音が残っていたからといっても批判の余地はある。だけど、ここでまとまらなければどうにもならないという危機感があったので、結束した。その強さを、翁長さんの急逝のインパクトを僕は読みきれていなかった。
▲2018年7月27日、生前最後となった翁長雄志知事の会見(IWJ撮影、2018年7月27日)
翁長さんは、国に屈することなく亡くなった。最後の最後に『埋め立て承認を撤回する』という言葉を残して。それによって全ての対立点が解消したんだと思います。『翁長さんが知事としてやれることは、もっとある』と、僕なんかはずっと思っていた。けど、『ひとまず、とにかくそれはいい』ということで、『翁長さんの遺志を継いで翁長さんが指名したデニーさんを支える』ということになった力の大きさを、僕は読みきれなかった。
それから9月22日の支援大会で、デニーさんが素晴らしい演説をしました。ご自分の生い立ちを語って『多様性を認め、みんながみんなを支える沖縄にしていく』と。ご自分の生い立ちを自然な形で話し、そこから出てくるメッセージを伝えたことで、これ以降、デニーさんのメッセージがより明確に(有権者に)届くようになった。その力があった。
これは言ってみれば、デニーさんの候補者としての真価ですよね。デニーさんがそういう言葉を自分で作り出したということ、その力は過小評価すべきでないと思います」
▲支援大会でときおり笑顔を見せながら演説する玉城デニー氏(IWJ撮影、2018年9月22日)
「公明党は創価学会員に、安倍政権の進める改憲をのませるための地ならしをしていた」!?
こう語る佐藤教授だが、一方で公明党支持者(創価学会員)の投票行動の揺らぎも見落とせないのではないか。公明党本部や創価学会の幹部が指示を出したらその通りに従い行動する、そうした公明党支持者、学会信者の鉄板の行動パターンが今回は大きく揺らぎ、上層部の指示に従わずに自分の考えで動くものが多数あらわれた。実際に出口調査では公明党支持者の3割弱が玉城氏に投票したと答え、開票時、当選を喜ぶ玉城陣営の事務所では創価学会の三色旗が翻っていた場面も、IWJのカメラは捉えている。
これについて佐藤教授は、次のように分析した。
「公明党は創価学会員に、安倍政権の進める改憲を飲ませるための地ならしをしていたんだと思います。
公明党は支持者に対して、『自民党の改憲には慎重姿勢だ』と言い続けてきました。『(公明党は連立を組む)安倍政権のブレーキ役だ』と、創価学会の人たちには言っていましたが、安倍政権は『次の3年で改憲する』と言っている。そのために安倍政権は、公明党が改憲のブレーキ役であることを許さないでしょう。そうなると公明党は、安倍政権での改憲を認めるか、政権から捨てられるかしかない。今の自民党は、もう公明党の票がなくても(選挙で十分)勝てる。そうなると自民党政権を維持するために連立を組む必要のなくなった公明党は、消滅の危機にもつながる。
だから創価学会員にとって抵抗の大きな改憲をのませるために、特に沖縄の公明は普天間基地の県外移設という立場を堅持していることになっているわけですから、沖縄の学会員、全国の学会員を動員することで、そのための地ならしをしたんだと思う。
ところがそれに失敗した。
創価学会の中には、今でも辺野古新基地建設を受け入れられない人たちが一定数いる。創価学会の青年部、婦人部の平和運動なんていうのは形骸化した話だと思っていたら、実はそうではないのではないか。
これは公明党にとっては危機だと思いますよ。僕はむしろ、公明党は生き残るために野党になった方がいいんではないかと思ったぐらいです。あれだけの大量の動員をかけて、戸別訪問もやって、組織立てて必死になってやったのは、必死になってやらないと自分達、公明党が消える、改憲の時には潰されるという危機感があったからだと思うんですよ。これ、本当に彼らにとっては深刻な危機だと思います」
「デニーさんがこれからやらなければならないのは『辺野古が唯一の解決策だ』という嘘を暴いて行くこと」
一方で当選した玉城デニー氏側も喜んでばかりはいられない。辺野古新基地建設という政府の方針に異を唱え、埋め立て承認を撤回した翁長県政を引き継いだのだ。10月2日に発足した第4次安倍改造内閣で岩屋毅新防衛大臣が表明したように、国が法廷闘争に持ち込んでくることは明らかだ。
最後に佐藤教授は玉城デニー県政の課題について、次のように語った。
「埋め立て承認撤回が法廷に行けば、日本の裁判所は政権が左右しちゃうわけですから、この道(安倍政権の路線)は止められない。
デニーさんがこれからやらなければならないことはこの前お話しした通り(※)で、『辺野古が唯一の解決策だ』という安倍政権の嘘を暴いていく。国民に対して辺野古新基地建設は無駄なことなんだっていうことを訴えていくことです。そうでないと、新基地建設を止めるのは大変だと思います」