TPPと並んで臨時国会での最大の争点の一つ、いわゆる「年金カット法案」が、11月16日、衆議院の厚労委員会で本格審議入りした。
年金制度のルール改正が実現すれば、物価と賃金の変動に合わせて、国民年金の受給額は年4万円、厚生年金では年14万2千円ほど将来的に減額されるおそれがあると、民進党の井坂信彦議員が試算を発表。野党が年金制度改革関連法案を「年金カット法案」と呼んできた根拠である。
▲10月12日、衆議院予算委員会で民進党・玉木雄一郎議員が示したパネル
しかし、政府与党はこれを、「レッテル貼り」だと批判するのに熱心で、ルール改正は将来世代の年金を確保するための「痛みの分かち合い」だと強調する。が、野党が出だしから要求したように、国民の判断材料となる試算を、法案提出者である与党が自ら示し丁寧な説明に努めていれば、「レッテル貼り」合戦に陥ることはなかったはずだ。しかも、16日の厚労委で塩崎恭久大臣は民進党の上記パネルで適用された計算方法は正しいと認めている。
今の若者たちが、将来、安定した年金財源を受けとる必要性については、誰も異論は挟まないだろう。しかし、年金受給額が減ることで、今の低年金受給者がどんな深刻な打撃を受けるのか。政府与党はその実態を把握し、対策を講じる準備があるのかが今、問われているのだ。
- 日時 2016年11月15日(火) 10:00~
- 場所 衆議院(東京都千代田区)
『下流老人』著者・藤田氏「年金を減額するのであれば生活保護制度を強化すべき」
▲ 『下流老人』著者、藤田孝典氏
2016年11月15日、民進党が行った厚労省へのヒアリングで、『下流老人』の著者であり、NPO法人ほっとプラス代表理事の藤田孝典氏が講演。自身の活動を通して見える低年金受給者の危機的な実態について訴えた。
「年金を減らすのであれば、生活保護がちゃんと機能している社会でなければ、本人が自殺を考えたり、結局、家族が追い込まれることになる」
藤田氏のもとには年間500件の相談が寄せられるが、その半数は高齢者からのものだ。中には、「医療費が払えず病院を受診できない」、「要介護4なのに要介護1のサービスしか受けられない」、「住む家がなく友人宅を転々としている」というケースもある。近藤克則千葉大教授の調査によれば、低所得者高齢男性のうつ発症率は富裕層の7倍と報告されている。また、65歳以上の労働人口は年々増加傾向にある一方で、高齢者の窃盗や強盗未遂事件が増えていることを法務省が発表しており、その要因が貧困にあると藤田氏は指摘した。
現在、生活保護を受給している高齢者は100万人いると言われているが、その約7倍におよぶ700万人が、受給資格があるのに受給できていない生活保護基準以下で暮らす高齢者だという。