「安保法制は、安倍政権を倒せば廃止にできる。だが、国際協定のTPPは、政権が変わっても破棄できないのだ」──。民主党の篠原孝衆議院議員は、TPPは安保法制以上に危険だと警鐘を鳴らした。
2015年9月29日、STOP TPP!! 官邸前アクション実行委員会が主催する「国会決議破りのTPP『合意』は許さない!9・29緊急国会行動」が、東京・永田町の衆議院第二議員会館前で行われた。アトランタで行われているTPP閣僚会合を見据えて、国会議員や市民、農業や医療の関係者ら約30名が順番にスピーチを行い、3時間にわたってTPPの危険性を多角的にアピールし、強く反対を訴えた。
TPP阻止国民会議代表世話人の原中勝征氏は、TPPの問題点のひとつが知的財産権にある、と指摘。「今の医療制度では、すべての国民が健康保険で同等の治療を受けられるが、TPP合意の果てには、お金の有無で命が計られてしまう」とした。
2013年に「TPP協定交渉参加における国会決議」が行われていることに言及したのは、福島みずほ参議院議員だ。「農林水産物の重要品目について、引き続き再生産可能となるよう除外又は再協議の対象とすること。交渉により収集した情報については、国会に速やかに報告するとともに、国民への十分な情報提供を行い、幅広い国民的議論を行うよう措置すること」と書かれていることを指摘し、「この国会決議を、全部、踏みにじっている」と憤った。
その上で、「TPPで、アメリカとグローバル企業に国民の命が売り飛ばされる。戦争法案では、アメリカと軍事企業の下請けをさせられる。こんな政治が、許されていいわけはない」と断じた。
元農水大臣の山田正彦氏は、「日本は自動車分野で思い切った譲歩をし、農産物では、ニュージーランドが酪農製品の件で降りる可能性があるとも聞く。残るは医薬品だが、もし、合意に至らない場合、日本は、参加国のうちGDPの85%を占める6ヵ国だけで、TPPの効力を発効させる緊急提案をしかねない、という噂を耳にした」と強い懸念を表明した。
全国保険医団体連合会会長の住江憲勇氏は、「ジェネリック医薬品の開発は遅れ、治療、診断、外科的治療法にまで特許制度を持ち込もうとしている。結果、医療費は高騰し、その利益はアメリカに吸い上げられて、医療は利益至上主義になる」とした。
- 内容 内田聖子氏(PARC事務局長)によるアトランタ取材報告など
党派とイデオロギーを超え、「国民を守る」決意で団結を
「安倍首相が明日、TPP最終合意を目指すと発表した」──。冒頭、この緊急行動の呼びかけ人の原中勝征氏がマイクを握って第一声を上げ、TPPについて米国の議員たちに直談判した際のことを、このように語った。
「2000年の日本の歴史も、国民感情も、和を尊ぶ精神も、コメを中心にして築かれてきた。TPP合意に至れば、コメの自給率が下がる。日本の主食を捨てるような政策をする安倍首相は、間違っている。2012年の衆議院総選挙で、自民党は『TPP断固反対。ウソをつかない自民党』と訴えて勝った。それを覆すなら、もう一度、選挙で国民に問うべきだ。
そういう訴えると、共和党、民主党を問わず、面談した米議会の議員たちは理解を示した。われわれ陳情団の記事は、ワシントン・タイムズ紙が4段抜きで掲載した。しかし、日本の記者も大勢いたにもかかわらず、日本の新聞は1行も書かなかった」
そして、医師でもある原中氏は、TPPの問題点のひとつが、知的財産権にあると指摘し、「今の医療制度では、すべての国民が健康保険で同等の治療を受けられるのに
、TPP合意の果てには、お金の有無で命が計られてしまう」と憤りをあらわにし、「次の選挙では、決してTPP賛成議員に票を入れてはならない。安保法制反対の運動と一緒になって、党派やイデオロギーを超えて、国民を守る気持ちで団結しなければならない」と訴えた。
「強行採決」の次は「強行合意」!? 国会決議まで踏みにじる安倍政権
次のスピーカーの福島みずほ参議院議員は、「9月30日からのアトランタの協議で、他の国の出方は不明だが、安保法制も強引に可決した安倍首相であるから、強引に合意させるのではないか」と憂慮し、2013年に衆参両院で決議された「TPP協定交渉参加における国会決議」を読み上げた。
「ここに、『米、麦、牛肉・豚肉、乳製品、甘味資源作物などの農林水産物の重要品目について、引き続き再生産可能となるよう除外又は再協議の対象とすること。交渉により収集した情報については、国会に速やかに報告するとともに、国民への十分な情報提供を行い、幅広い国民的議論を行うよう措置すること』と国会決議にある。これらを全部、踏みにじっている」
続けて、厚生労働委員会で、患者申出療養制度が成立したことに触れ、「『申出』という言葉は美辞麗句。これは、混合診療が解禁されたことにほかならない」と糾弾。「TPPで、日本の農業や労働制度が壊され、遺伝子組み換え食品の流入などで、食の分野も危険にさらされる。つまり、アメリカとグローバル企業に国民の命が売り飛ばされる。戦争法案では、アメリカと軍事企業の下請けとして、リスクと戦費の肩代わりをさせられる。こんな政治が、許されていいわけはない」と力を込めた。
「臨時国会で補正予算は組むだろうが、2016年1月以降で、15ヵ月予算にして時間をかけないと言われている。そして、7月には参院選があるため、6月中旬に終わらなければならない」とし、「TPPが、通常国会に、『条約の批准』という形で出てこないようにしなければ。万が一、上程されるようであるなら、反対議員と国民の反対の声で阻止しなければならない」と、福島議員は表情を引き締めた。
「日本はコメ5万トン……」口を滑らせた甘利担当相
紙智子参議院議員は、先回、最後としたはずのハワイでのTPP閣僚会合で合意できなかったのは、大きな問題点があったからだとし、「医薬品交渉では、命より利益を優先するのか、と折り合いがつかなかった。自動車、乳製品では、各国の利益をめぐって合意ができなかった。それを安倍首相は、最後の閣僚会合をアトランタで強引に開き、甘利担当大臣も『これが最後だ』という言葉を口にした。だとしたら、本当にこれを最後にしてもらおう」と口調を強めた。
紙議員は、先の通常国会での甘利大臣らとのやり取りを、怒りを込めてこう語った。
「守秘義務があるはずだが、甘利大臣はコメの問題で、『日本は5万トンを要求。アメリカは17.5万トン受け入れろ』と口を滑らせた。5万トンだったらいいのかと問い質すと、『数字を出さないとならない』と答えた。農水委員会で、安倍首相にも同じ質問をぶつけたが、否定をしない。林農水大臣は『交渉中で答えられない』と応じたが、選挙の時には『交渉権があるので(聖域は)守れる』と言ったのだ。絶対に許せない」
「6ヵ国だけで」と日本から緊急提案も? 危機感を募らせる元農水相