警察と検察による取り調べ可視化(録音・録画)の義務づけや司法取引の導入など、数本の法律を一本化して改正する「刑事訴訟法等改正案」が2014年9月4日、「十分な審議時間を確保できない」として今国会で見送りとなった。しかしこの法案の中には「通信傍受法」、いわゆる「盗聴法」が盛り込まれていたことに注目しなければならない。
「盗聴法」の改正は、これまで「薬物犯罪」「銃器犯罪」「集団密航」「組織的殺人」でのみ許されていた警察による盗聴を、「殺人」「傷害」「放火」「爆発物使用」「誘拐」「監禁」「窃盗」「詐欺」「児童ポルノ」でも可能にするものだ。しかも、従来は捜査員が通信会社の「本社」に出向き、社員立ち会いのもと許されていたが、改正案では、捜査員は「本社」に出向く必要も、社員を立ち会わせる必要もなくなる。
警察はこれら犯罪の「疑い」があるという理由で、何を盗聴したかの第三者のチェックも受けず、ほぼ好き勝手に盗聴が可能となり、「疑わしい会話」をキャッチすれば即座に連行できてしまう——こうした懸念が多くの専門家から指摘されている。
この改正案は、8月9日に本会議で賛成多数で可決された。しかし参議院で民主党が「ヘイトスピーチ規制法案」を優先審議するよう求めたことから審議入りが難航。自民党は今国会での成立を断念した。
しかし一度は衆議院で可決されたこの法案。今後も「ゾンビ法案」として復活する可能性は高い。
8月28日に参議院議員会館で行われた、参議院議員会館で盗聴法廃止ネットワーク主催による「憲法違反の盗聴法を許さない!―盗聴法・刑訴法改悪法案を廃案へ!―」で、上智大学教授の田島泰彦氏は盗聴という行為は通信の秘密の侵害21条2項、プライバシーの侵害13条、表現の自由侵害21条1項、令状主義の侵害35条と一つの条文には留まらない憲法違反の疑いがあると指摘した。
田島氏は「盗聴行為そのものが一つの憲法の人権侵害ではなく、いろんなレベルで人権侵害している行為ということです。そこが恐らく盗聴を考える出発点でなくてはならない。盗聴する側にきちんとした説明責任と証拠に基づく理由を示した上で国会などでやるべき」と述べた。