表現の自由はヘイト・スピーチを打ち破るためにある ~元国連人種差別撤廃委員パトリック・ソーンベリー氏が語る 2014.10.23

記事公開日:2014.11.3取材地: テキスト動画
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(IWJ・藤澤要)

 国連人種差別撤廃委員会の元委員、パトリック・ソーンベリー氏が10月23日(木)、大阪市のエル・おおさかで講演を行った。

 ソーンベリー氏は国際法の専門家。2014年2月まで13年間、人種差別撤廃委員会の委員を務めた。人種差別撤廃委員会は、同年8月の日本政府報告審査で、ヘイト・スピーチの法的規制を求める勧告を出している。

 ソーンベリー氏の登壇に先立ち、講演会「世界はヘイト・スピーチと闘う」の主催実行委員会を代表して、コリアNGOセンター代表理事の郭辰雄(カク・チヌン)氏があいさつ。「表現の自由」がヘイト・スピーチ正当化の道具として用いられている日本の現状を指摘し、「表現の自由という観点から、ヘイト・スピーチをどう評価するべきなのか」と問題提起した。

 講演でソーンベリー氏は、自身が中心となりまとめ、2013年に人種差別撤廃委員会で採択された『一般的勧告35 人種主義的ヘイト・スピーチと闘う』の内容を細部にわたり解説。「表現の自由それ自体が、ヘイト・スピーチを打ち破るために用いられることが可能であり、そう用いられるべき」と語った。

■ハイライト

  • 主催あいさつ 郭辰雄(カク・チヌン)氏(主催実行委員会、コリアNGOセンター代表理事)
  • 講演 パトリック・ソーンベリー (Patrick Thornberry) 氏(元国連人種差別撤廃委員会委員、英キール大学名誉教授)
  • 質疑応答

ヘイト・スピーチは、被害者のフリー・スピーチを沈黙させる

 ソーンベリー氏は、ヘイト・スピーチをめぐり、「一つの自由が他者の自由を破壊する」という問題があると指摘。「人種主義的ヘイト・スピーチというのは、犠牲者の表現の自由を沈黙させるおそれがある」と強調する。

 『一般的勧告35』の段落28には、人種主義的ヘイト・スピーチからの保護とは、「一方に表現の自由の権利を置き、他方に集団保護のための権利制限を置くといった単純な対立ではない」と書かれている。段落28は、ヘイト・スピーチの犠牲者にも、「表現の自由の権利」があり、「その権利の行使において人種差別を受けない権利がある」と続く。

 一方、ヘイト・スピーチをする側は、犠牲者を「自由なスピーチを奪いかねない」状態にまで追いやる。ソーンベリー氏は、自身のドラフトでは「一つの自由を沈黙させる」と、より強い表現だったエピソードを明かした。

 表現の自由が認められる場はどこにあるのか。ソーンベリー氏は、『一般的勧告35』の段落29を参照し、「表現の自由それ自体が、ヘイト・スピーチを打ち破るために用いられることが可能であり、そう用いられるべき」と述べた。

ヘイト・スピーチ規制:抑圧の「口実」に使われてはならない

 『一般的勧告35』の段落20には、ヘイト・スピーチ規制の基本的な姿勢について言及がある。ソーンベリー氏は、「ヘイト・スピーチに対する規制、表現の自由の規制は、真にヘイト・スピーチに対する規制としてしか使われてはならない」とその内容を解説する。

 段落20は「ヘイト・スピーチの規制というものが、あるいは表現の自由というものの規制が正確に行われなければならない」とする。これが意味するのは、ヘイト・スピーチの規制が、社会的不公正への抗議・反対の表明を抑圧するための「口実」に使われてはならないということだ。

 ここで浮上するのが、何がヘイト・スピーチで何がフリー・スピーチかという問題。ソーンベリー氏は「個々の決定は事例ごとにされなければならない」と司法制度の役割を重要視。国際的な人権基準に知悉している司法機関による判断が必要だとの見解を述べた。

教育の重要性

 これを別の角度からみると、国内の司法機関に対しても、国際的な人権基準に則った判断が要請されていることが分かる。この課題に対し、『一般的勧告35』では、教育の重要性を強調する。

 ただ、これはたんに、一般住民へのマイノリティに関する理解を深めるための教育だけを指すのではない。ここで言われる教育とは、裁判官、弁護士、検察官、入管職員、すべての種類の公務についている人、公的な機能を負う人、が国際人権基準について学ぶことを意味している。世界的にみれば、人権に関する教育が、裁判官としての訓練の一部にますますなりつつあるとソーンベリー氏は述べた。

法的拘束力がない「勧告」:国際司法裁判所は重要視

 人種差別撤廃委員会など、国際的な人権機関から発せられる国家への勧告は、「法的拘束力がない」ものとして報道される。しかし、だからといって、簡単に無視できるようなものではないとソーンベリー氏は強調する。

 ソーンベリー氏によれば、こういった機関は、複数の国によって制度化されている。その目的は、国どうしが相互に批判する負担を引き受け、条約の実施を監督するというもの。

 したがって、例えば国際司法裁判所は、人種差別撤廃委員会のような機関の仕事は重要視されなくてはならないとの立場を取るという。

人種差別撤廃条約第4条の留保

(…会員ページにつづく)

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「表現の自由はヘイト・スピーチを打ち破るためにある ~元国連人種差別撤廃委員パトリック・ソーンベリー氏が語る」への1件のフィードバック

  1. @55kurosukeさん(ツイッターのご意見) より:

    講演会「世界はヘイトスピーチと闘う」~元国連人種差別撤廃委員ソーンベリーさんを迎えて(動画) http://iwj.co.jp/wj/open/archives/189225 … @iwakamiyasumi
    法で規制しないとヘイトスピーチを止められないという状況に、情けなさと歯痒さを覚える。これが「美しい国」なのか。
    https://twitter.com/55kurosuke/status/526500414900801537

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